福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2017年3月号 月報

共謀罪シンポジウムに参加して

月報記事

情報問題対策委員会 松本 敬介(68期)

1 シンポジウムの開催

ここ最近いわゆる共謀罪法案が世間を賑わせております。

というのも、政府は共謀罪の名称を「テロ等組織犯罪準備罪」に変え、組織犯罪処罰法改正案として国会に提出しようとしているからです。

共謀罪法案は、平成15年に小泉政権下のもとで最初の法案が提出されてから現在に至るまで合計3回にわたって提出されてきましたが、野党等の反対によりいずれも廃案に追い込まれてきました。その共謀罪法案が、テロ対策目的というお題目を携えて、しかも名前を変えて復活したというわけです。

当会においてもこれまで共謀罪法案の問題点を指摘し、法案の成立に強く反対してきたところですが、共謀罪法案の再提出が差し迫っているタイミングで、今一度市民の皆様と問題意識を共有する必要があると思い至りました。

そこで、平成29年1月14日、当委員会主導のもと「政府批判はいけないことか?~共謀罪で表現の自由が奪われる!~」と題して、共謀罪シンポジウムを開催いたしました。

今回のシンポジウムの開催にあたっては、九州大学法学部の学生さん4名にご協力いただきました。また、ゲストとして、元北海道警察の警察官でジャーナリストの原田宏二氏、元共同通信の記者で同じくジャーナリストの青木理氏、九州大学で刑事訴訟法を研究していらっしゃる豊崎七絵教授をお招きしました。

当日は140名にものぼる多数の来場者により、追加でイスを出すもイスを設置するスペースが足らなくなるほどで、この問題に対する市民の皆様の関心がいかに高いかが分かります。

シンポジウムは、まず学生の皆さんからの基調報告からスタートしました。共謀罪法案の必要性、構成要件の明確性、処罰対象としての犯罪の範囲の妥当性、主体となる人的範囲の妥当性など、多角的に共謀罪法案を検討していただきました。

続いて、「共謀罪・盗聴法・デジタル捜査は、市民監視の3点セット」と題して、原田氏から基調講演を行っていただきました。原田氏は、Nシステム・インターネット監視・GPS捜査などデジタル捜査が高度化したことで捜査機関は個人監視の手段を着実に手に入れている、昨今の刑訴法改正に伴い通信傍受の対象犯罪が拡大するとともに要件が緩和し法的な意味でも監視しやすくなっている、さらに共謀罪が成立することでその構成要件の曖昧さが捜査機関側の恣意的運用を可能にし、共謀罪の捜査という名目で個人監視が堂々と行われることを訴えました。まさに元警察官という独特のキャリアを持つ原田氏ならではの講演内容だったと思います。

最後に、当委員会より武藤糾明委員長をコーディーネーターとして、青木氏、原田氏、豊崎教授のほか、学生の方から1名に登壇いただき、パネルディスカッションを行いました。青木氏からは、共謀罪法案について捜査機関の目線にたった考察が重要であることや、路上の防犯カメラの設置など、本当に防犯対策になりうるか分からないにも関わらず、極めて表層的な安心や安全のために個人のプライバシーを譲り渡していいのか問題提起がされました。

また、豊崎教授は、共謀罪が成立した場合、従来の判例の傾向を踏まえると黙示の共謀が認められることになるのではと見解を示し、黙示の共謀を認定するために、個人の行動や場所の出入りから思想を推定することになるなど、懸念を明らかにしました。

2 雑感

国連越境組織犯罪防止条約の批准にむけた国内法整備の是非を皮切りに、長きにわたって共謀罪法案をめぐって議論されてきましたが、ここに来て条約の目的に含まれていないテロ対策を大々的に打ち出し、名前を変えてまで法案の再提出を図る政府の態度に、市民の方々も違和感があったかと思います。今回のシンポジウムは、政府の真の目的に迫るとともに、共謀罪法案だけでなく、特定秘密保護法や刑事訴訟法の改正を含めた全体的な考察が必要であることを、市民の皆様と共有できる機会になったと思います。

今後も、弁護士会として共謀罪法案の提出および成立に断固として反対する活動に取り組んで参ります。

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