福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2017年2月 1日

憲法リレーエッセイ 安倍首相の真珠湾攻撃犠牲者慰霊に見られる日本国憲法観

憲法リレーエッセイ

会員 椛島 敏雅(31期)

安倍首相は2016年12月27日ハワイの真珠湾をオバマ大統領と共に訪れて、アメリカへの宣戦布告前の1941年12月8日未明、真珠湾に停泊中のアメリカ空母機動部隊への日本軍の奇襲攻撃で犠牲になった兵士約3300名に対する慰霊を行った。この訪問はオバマ大統領の同年5月27日の被爆地広島訪問に対する返礼の意味をも持つといわれているがそうではない。慰霊後の演説に広島訪問に対するお礼や返礼は一言も述べられていない。真珠湾での慰霊はオバマ大統領の岩国基地での演説に対する返礼である。オバマ大統領は広島に行く前に、同日、米軍最高司令官として岩国基地を訪れ、岸田外務大臣や日米の政府、軍関係者の前で、「かつての敵はパートナーだけでなく、最も強固な同盟国になった。」、「米国の海兵隊が自衛隊とともに」「信頼、協力、友情」で、「世界の安全保障を守って」いる同盟である(産経新聞)、と演説していた。

安倍首相は真珠湾での慰霊の後の演説で「この地で命を落とした人々の御霊に、ここから始まった戦いが奪った、全ての勇者たちの命に、戦争の犠牲となった、数知れぬ、無辜の民の魂に、永劫の、哀悼の誠を捧げます」、「戦争の惨禍は、二度と、繰り返してはならない」、日本は戦後、「ひたすら、不戦の誓いを貫いてまいりました」とは述べたが、「歴史に残る激しい戦争を戦った日本と米国は、歴史にまれな、深く、強く結ばれた同盟国となりました」「それは、いままでにもまして、世界を覆う幾多の困難に、共に立ち向かう同盟です。明日を拓く、『希望の同盟』です」と、先に成立させ施行させた立憲主義に違反すると考えられる安保法制を背景に、日米同盟を「希望の同盟」と呼んで、オバマ大統領や政府軍関係者を前に、オバマ大統領の岩国基地での演説に応えた。と同時に、これは2017年1月に就任するトランプ大統領へのメッセージでもあった。むしろ、政治的には此の方に狙いがあるのだろう。

しかし、真珠湾奇襲攻撃を伴った米英等に対する宣戦布告後の戦争は、行き詰まっていた日本の中国侵略戦争をアジア太平洋に広げ、日本で310万人、アジア太平洋地域で2000万人余という膨大な戦争犠牲者を出す大惨禍をもたらした。かの地で慰霊を言うなら、真珠湾での犠牲者だけでなく、全ての戦争犠牲者に対して、慰霊と謝罪と不戦の誓いをすべきである。それが、「政府の行為によって再び戦争の惨禍がないように決意」した憲法を持つ国の総理大臣の心構えであろう。

「安倍首相は、以前、著書で日米同盟は軍事同盟であり、「血の同盟であるべき」と言っていたが、今回の真珠湾訪問では「希望の同盟」と言うようになった。外務省のHPにも「日米同盟は希望の同盟となった」と掲載されている。本当に、日米同盟が「希望の同盟」になったと言ってよいのであろうか。

安保法制で自衛隊が紛争地域で米軍の後方支援を出来る様になったことからすると、日米同盟は「希望の同盟」ではなく、まさしく、血の匂いのする「血の同盟」になったと言えるだろう。しかし、私たちは血の同盟を断固として拒否する。その為にも安保法制廃止の声を上げ続けていかなければならないと思う。

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