福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2017年2月号 月報
「転ばぬ先の杖」(第29回) ADRという手続をご存知ですか?
月報記事
会員 壇 一也(57期)
1 みなさんは、トラブルが発生したときにどうされるでしょうか。
まずは、相手と話し合ってみるのが一般的だと思います。しかし、それでも解決しないときは、弁護士に相談されるのが一番かもしれません。
ところが、弁護士に相談しても勝ち目がないとのアドバイスを受けることも、もちろんあると思います。
私たち弁護士としても、決して安いとは言えない費用をいただいて事件の処理をする以上、安請け合いをするわけにはいきません。弁護士が介入しても相談者の方の希望を叶えることが難しい場合は、私たち弁護士は、はっきりとそのように説明しなければなりません。
しかし、それでも納得できない・・・ということもあると思います。
今回は、そのような相談者の方について、私が弁護士としてどのように対応し、その方がどうすることを選択し、そしてその結果どうなったのかについて概括的にお話ししたいと思います。
2 事案の内容
あることが原因で、ご主人が精神的に不安定になられました。主に経済面での不安を訴えられるようになりました。ご主人は、実のお母さんに相談した結果、お金を貸してもらえることになりました。ただ、条件として生命保険の受取人を奥様から、ご自身(ご主人のお母さん)に変更して、担保とすることを求められました。奥様は、その必要はないとご主人に伝えましたが、ご主人の不安は続いたため、やむを得ずご主人に任せることにしました。それからしばらくして、奥様宛に保険金の受取人がお母さんに変更になったとの通知が保険会社から届きました。それから間もなくしてご主人は自死されました。なお、ご主人は、結局、お母さんから借入れをしていませんでした。
そして、保険金は、そのままお母さんに支払われました。
3 相談の内容とアドバイス
これらの経緯から、奥さんは、お母さんに対して、受領された保険金の支払いを求めました。ところが、お母さんは、これに応じられることはありませんでした。
そのため、奥さんは、私のところに相談にいらっしゃいました。奥さんは、相談に来られた時点で、理屈ではお母さんに保険金を支払ってもらうことは難しいということは理解されていました。そのため、奥さんには半ば諦めざるを得ないとの気持ちであった一方で、やはり納得できないとの思いも強くお持ちでした。
このような奥さんの気持ちを踏まえて、私は、理屈では奥さんの希望を叶えることは難しいことを説明したうえで、「これ以上悪くなることはないことからダメ元で再度話し合いを求めてみてはどうですか。」と提案しました。これに対し、奥さんも「できることはやってみてダメだったら諦めます。」ということで再度話し合いを求めることにしました。
4 具体的な解決手段の選択
私は、理屈では難しい案件であることもあり、極力、かける費用も抑えられる方法を考えました。その結果、選択した方法が福岡県弁護士会の裁判外紛争解決手続(以下「ADR」といいます)です。
このADRとは、福岡県弁護士会所属の弁護士が間に立って双方の意見を聞いたうえで適切な紛争の解決を目指す制度です。
このADRを利用するためには、1万円(別途消費税)の申立手数料がかかるだけです(なお、仮に何らかの解決が得られた場合は、別途成立手数料がかかります)。そのため、万が一、お母さんが保険金を支払ってくれない場合であっても、奥さんが負担すべき費用は1万円だけで済ませることができます。
そして、実際にこのADRを利用して、お母さんと話し合った結果、こちらが求める金額の一部を支払ってもらえることで和解が成立しました。
5 最後に
このような解決を図ることができたのも、お母さんに奥さんの気持ちを理解していただけたことが大きかったと思います。そして、そこに至るまでには、ADRで弁護士の関与の元、十分な話し合いをできたことが大きかったと思います。
もちろん、全ての案件でこのような解決を図れる保証はありません。しかし、まずは弁護士に相談していただくことで、何らかの解決の糸口を見つけることができるかもしれません。
お気軽に弁護士にご相談ください。