福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2016年5月号 月報

「転ばぬ先の杖」(第24回) 犯罪被害に遭ったときには・・・

月報記事

犯罪被害者支援委員会委員長 藤井 大祐(57期)

1 ある相談電話

ある日、日本司法支援センター(法テラス)から一本の電話。「犯罪被害者の精通弁護士紹介ということで、傷害事件の被害について相談に乗って頂きたい」とのこと。

《法テラスは、犯罪被害者支援ダイヤル(0570−079714。http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/)として、犯罪被害にあわれた方(ご家族も)に対して、被害後の状況やニーズに応じて、さまざまな支援情報を提供しています。そして、事案の内容等によっては、犯罪被害者の支援に精通した弁護士の紹介も行い、弁護士費用等の援助制度((1)加害者への民事での損害賠償請求等について法テラスが費用立替する民事法律扶助、(2)刑事手続における加害者との対応等について法テラスが費用援助する犯罪被害者法律援助)等も準備しています。(http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/nagare/index.html)》

2 事案の内容

法テラスからの情報を元に早速、被害者の方と連絡を取ってお話を聞く。

事案は強盗致傷事件。相談に来られたのは被害者のお母様(被害者本人は未成年)で、加害者は20代の無職者。ナイフで斬りつけられるという凶悪な犯行態様であったが、不幸中の幸いにも後遺症等は残らなかったという事案。

起訴後、加害者の国選弁護人から被害者のお母様に対しては、加害者の親の捻出によるという、損害賠償金が提示されていた。

ところが、被害者のお母様としては、「加害者の刑が決まるまでは、受け取れない」として、損害賠償金の受け取りをいったん拒否し、そのまま裁判は進行。

加害者には、10年近くの懲役刑の判決が下され、一審判決で確定後、提示のあった損害賠償金を受け取りたいと、法テラスに相談されてきた次第・・・

3 手の平返し?

加害者本人は若く資力はない。では、加害者の親を訴えたところで、法的責任があるかというと、加害者本人は成人している以上、親の責任を認めさせるのはなかなか困難。

こんな説明をしつつ、一応、相談の延長ということで、加害者の国選弁護人に電話をしてみる。「いったん提示したんだし、払いませんか」と。

しばらくして回答。案の定「刑も確定したので、親御さんとしてはもう払えません」と。

4 「知らなかった」

被害者のお母様に上記報告の上、改めてお話し。

当時は、犯罪被害者の刑事裁判への参加制度も施行されたばかりであったが、参加手続は取られていなかった。被害者のお母様いわく、(今回の事件の刑事公判は全て傍聴されていたものの)そんな制度があるのは「知らなかった」、知っていれば「参加していた」とのこと。

《平成20年に施行された刑事裁判への被害者参加制度では、一定の犯罪類型について、法廷の中で検察官の横で審理を傍聴し、被告人への質問、情状証人への質問や事件についての被害者参加人としての意見を述べられるようになりました。また、この参加に弁護士の支援を受ける場合の費用援助も法テラスで受けられます(被害者参加人のための国選弁護制度 http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/trouble_ichiran/20081127_3.html)》

もっと早く弁護士なりに相談してくれれば、参加するか否かや、(賠償金受領による減刑の可能性は視野に入れつつも)相手方から提示のあった賠償金を受け取るか、判断するという選択の余地はあったのに・・・

5 所感

犯罪被害の多くは、日常生活の中に突然訪れる。警察・検察の捜査等、普段全く経験しないことへの対応をしながら、日々の生活の維持に精一杯になる。

ただ、「転ばぬ先の杖」ということで、民間の支援団体への相談や、弁護士への相談も、被害に遭った早い段階で、行って頂ければと改めて思う。

《福岡県弁護士会でも、犯罪被害者を対象にした無料電話相談を行っています。匿名での相談も承っていますので、お気軽にご相談ください。福岡県弁護士会・犯罪被害者支援センターの無料電話相談=092(738)8363(毎週火曜と金曜の午後4時~7時)。

また、福岡でも民間の支援団体(http://fukuoka-vs.net/)が存在します。こちらにもご相談下さい。》

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