福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2015年11月 1日
◆憲法リレーエッセイ◆ 「憲法問題への関心を高めるために~安保法制論議から見えたこと」
憲法リレーエッセイ
会 員 向 原 栄大朗(60期)
1 はじめに
去る平成27年9月19日、平和安全法制関連2法(以下、安保関連法)が成立し、同30日に公布されました。
安保関連法が成立する直前には、国会前をはじめとした全国各地でのデモがテレビや新聞でも大々的に報道され、市民の関心も最高潮に達しました。
しかしながら、安保関連法について、現政権は、一昨年の衆院選において、その成立を堂々と公約化していました。そのころは、特定秘密保護法が問題となっていたものの、これも市民において殆ど関心を持たれていませんでした。ですから、私は、一連の報道を見て「どうしてもっと早く、この問題についての関心が高まらなかったのか」と強く感じました。なぜなのでしょうか。
2 この問題についての関心が高まらなかった理由
特定秘密保護法にせよ、安保関連法にせよ、要するに「どうなるのか、どんな影響があるのか」という「結論」が、一般市民にとって理解しやすい形で早期に示されなかったことに最大の原因があると考えます。
もう一点、我が国では、憲法論議、なかんずく改憲問題が、あたかもタブーのごとく扱われたことも無視できません。このため、市民にとって、憲法問題は「触れにくいもの、触れてはいけないもの」という意識が蔓延していたように思います。そのため、市民が憲法に触れる機会がなく、今回の安保関連法に関する市民のアンテナが立つのが遅れたものと思われます。
3 市民の憲法に対する関心を高めるために我々が考えるべきこと・すべきこと
とかく、われわれ弁護士は、憲法論議を、理屈から考えがちです。しかし、市民にとって関心があるのは、上記の通り、要するに「どうなるのか、どんな影響があるのか」という部分ですから、その部分に、各市民にとっての利害関係を感じてもらわないと、関心を持ってもらえません。依頼者が弁護士に依頼するときと同様、人は、危機を感じないと動かないものであり、あたかも、弁護士が「転ばぬ先の杖」を叫んだところで、煙たがられるのに似ています。
その中で、我々がなすべきことは、憲法問題について「わかりやすく」「自らの利害にかかわる」ことを、市民に伝えることしかないと考えます。
そのために、弁護士会では、市民集会を大々的に開いたりしています。しかし、これも、結局は「もともと関心のある人向け」の、いわば内向きのものにすぎず、「普通の市民」の関心を高めるものになっているかというと、強い疑問があります。
決してこうした市民集会を否定するつもりはないのですが、こうした「内向き」さが感じられるイベントには、市民は、入り込みにくいものです。その結果、形式ばった大々的な市民集会では、「本当の市民」が置き去りにされ、開催者・参加者の自己満足に堕しているようにも感じられます。
私は、市民に本当に関心を持ってもらうためには、草の根での活動こそが、重要ではないかと思います。
そこで、たとえば、法教育において憲法の話を積極的に取り入れることも一つの方法ですし、また、私もかかわらせてもらっている「明日の自由を守る若手弁護士の会(通称「あすわか」)が行っている市民向け憲法講座「憲法カフェ」において、様々な角度からの憲法講義をさせていただいています。
4 さいごに
憲法12条前段には「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、『国民の不断の努力』によって、これを保持しなければならない。」と定められています。しかしながら、『不断の努力』は、憲法に対する正当な関心の上に初めて意味をもつものと考えます。そのために、私達は、法律のプロとして、市民に正しく理解する機会を持ってもらう方法と戦略を、真剣に考え続ける必要があると考えます。