福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2015年11月号 月報

「転ばぬ先の杖」(第20回) 暴力団等反社会的勢力との関係遮断の方策について

月報記事

民事介入暴力対策委員会委員 藏 健一郎(55期)

暴力団等の反社会的勢力に対する規制強化の一環として、各都道府県で続々と暴力団排除条例が制定されたことは周知のとおりです。条例の内容は各都道府県により様々ですが、多くの条例では、暴力団側だけでなく、一般事業者側の行為も規制の対象となっている点に注意が必要です。

例えば、福岡県暴力団排除条例では、一般事業者に対して、暴力団員等への利益供与を禁止する規定が設けられています。具体的には、同条例第15条において、一般事業者が暴力団員等に対し、(1)暴力団の威力を利用する目的で金品等の利益を供与すること、(2)行う事業に関し、暴力団の活動または運営に協力する目的で、相当の対償のない(取引の対価に見合わない)利益を供与すること、(3)行う事業に関し、暴力団等に対し、情を知って、暴力団の活動を助長し、または運営に資することとなる利益の供与をすること、等が禁止されており、(1)に違反した場合には1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則が設けられ、(2)に違反した場合も、罰則規定はないものの、公安委員会の是正勧告の対象となるうえ、正当な理由なくこれに従わない場合には公表できることとされています。

暴力団側だけでなく、一般事業者側も規制、処罰の対象とされた理由は、暴力団側のみの取り締まりでは限界があり、活動資金のもとである事業者からの資金供給を絶つことが効果的という観点によるものです。しかしながら、裏返していうと、一般事業者が暴力団側の威力に屈して利益の供与(例えば、不当に高額な商品の購入)に及んだケースでも、単純に被害者として同情されるとは限らず、場合によっては勧告・公表の対象になるわけですので、一般事業者にとって非常に怖い一面もあります。

このように、現状では、暴力団等反社会的勢力と関係をもつこと自体が、事業存続にとって大きなリスク要因となってきているといえます。事業者の皆様方におかれては、このことを念頭におかれたうえ、(1)暴力団等反社会的勢力との関係を予め遮断するよう今まで以上に注意を払うとともに、(2)仮に取引先が暴力団等反社会的勢力であることが後日判明した場合は、速やかに取引を解消できる措置を予めとっておくことが必要と考えられます。

暴力団等との関係を事前に遮断するための方策としては、事業所内部における社員教育の徹底、不当要求責任者講習の受講の他、顧問弁護士制度等を活用し、日常的に外部の専門家と連携しておくことも有効です。また、何か問題が生じた場合は、早期に関係各機関(警察、暴力追放運動推進センター、弁護士等)に相談することが重要です。

一方、事後的に取引先が暴力団等であることが判明した場合の方策としては、取引契約書にいわゆる暴力団排除条項を予め設けておくことが効果的です。取引契約書の中に、(1)暴力団等反社会的勢力との取引を予め拒絶する旨の規定や、(2)取引が開始された後に相手方が暴力団等反社会的勢力であることを知った場合は、契約を解除してその相手方を取引から排除できる旨の規定(これらの規定が暴力団排除条項と呼ばれます)を設けておけば、速やかな取引解消のための大きな武器となります(前述した福岡県暴力団排除条例でも、当該条項を導入することが事業者の努力義務として規定されています)。

具体的な暴力団排除条項の作成にあたっては、各業界団体で作成されているひな型を参考にされてもよいですし、弁護士に個別に相談頂ければ、事業内容や実情に応じた適切なアドバイスが可能ですので、気軽にご利用頂けたらと存じます。

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