福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2015年10月号 月報
あさかぜ基金だより
月報記事
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士
河 野 哲 志(67期)
はやくも9か月たって・・・
私が、司法過疎地で仕事することを目指して、当事務所に入所し、早くも9か月以上が経ちました。
当事務所では、司法過疎地への赴任に向けて、専門性の高い案件も含め、多種多様な事件を経験できるよう、福岡県弁護士会と九州弁護士会連合会に配慮をいただいています。
具体的には、指導担当制度、応援団制度、県外からの紹介制度などがあります。これらを通じて、自分達だけではなかなか経験できない類型の事件にも携わることができています。
私が、経験した業務の一部をご紹介します。
破産管財人代理
福岡では、破産管財人候補者名簿への登録は、弁護士登録後3年以上の実務経験が必要です。
しかし、司法過疎地では、赴任後すぐに、破産管財人に選任される可能性があります。そこで、当事務所では、福岡県弁護士会の経験豊富な先輩弁護士から、破産管財業務についての研修講義を受けました。
私の場合、指導担当弁護士の管財人代理に選任される機会もありました。破産管財業務の一連の流れを実際に体験するとともに、債権認否の一部を担当しました。
指導担当弁護士の裁判所へのきめ細かな報告、そして慎重かつ迅速な対応を目の当たりにしたことは、日々の弁護士業務にも役立っています。
中小企業・個人事業主からの法律相談
司法過疎地では、地元の中小企業・個人事業主から、法律相談を受ける機会も多いと考えられます。利益相反の問題はありますが、企業や個人事業主の方々が、時間をかけることなく、地元で法律相談ができることで、地元経済にはプラスの効果があるものと考えます。
ところが、企業や個人事業主の方々が、あさかぜに相談を持ち込むことは、ほとんどありません。
私は、指導担当弁護士を通じて中小企業の経営権に関する法令・制度の調査報告を行うことができました。
このように法律相談に関する調査報告のような形でも勉強になります。
裁判員裁判
司法過疎地に赴任したら、裁判員裁判を担当する可能性もあります。
私は、指導担当弁護士と共同受任する形で、裁判員裁判に参加することができました。裁判員に対して、ケースセオリーをわかりやすく伝えることがいかに重要であるかが、よくわかる裁判の展開でした。
処理方針の相談
刑事事件の被告人への対応について、指導担当弁護士に相談し、被告人に見通しを明確にすることが大切であると、とても勉強になった事案がありました。
また、指導担当等の制度ではありませんが、委員会活動を通じて知り合った先輩弁護士に相談し、とても勉強になった事案もありました。
不当解雇の事案で、相手方が、解雇撤回を主張した場合の対応について、委員会活動で知り合った先輩弁護士に方針を相談し、最終的に依頼者が望む結果を得ることができました。
事件の方針を相談できるチャンネルをたくさん持っておくことは、赴任後、自分が多種多様な事案を処理するうえで重要であると感じました。
多種多様な事案への対応
司法過疎地では、専門案件の発生数・比率は、それほど高くないのではないか、という心配もあるかもしれません。
これは、大先輩である春山九州男弁護士の受け売りですが、そうした案件が一旦持ち込まれた場合、他事務所を紹介するのではなく、自分で処理できなければ、司法過疎地に赴任する意味は乏しいのではないかと思います。
多くの司法過疎地は、同時に、物理的アクセス障害を抱えた土地でもあります。物理的な障害から、専門案件を抱えた人が泣き寝入りをすることはあってはなりません。
多種多様な事案に対応できるよう、今後とも研鑽を積むとともに、自分が考える方針について、相談できるチャンネルをたくさん作っておく努力を続けたいと考えています。