福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2015年10月号 月報
マイナンバー研修
月報記事
会 員 馬 場 勝(64期)
1 はじめに
平成27年9月4日に大阪弁護士会所属で日弁連情報問題対策委員会委員長の坂本団(さかもとまどか)先生にマイナンバー制度に関するご講演をしていただきました。坂本先生は司法修習時代を福岡で過ごされたため、福岡の地にはかなり思い入れがあるとのことでした。
2 マイナンバー制度について
- まずはじめに、福岡県弁護士会におけるこれまでのマイナンバー制度に対する取り組みについて、丸山明子先生よりご報告をいただきました。
丸山先生からは、福岡県弁護士会として平成24年8月7日に「マイナンバー法案に反対する声明」、平成25年5月10日に「共通番号法制定に反対する声明」、そして平成27年8月6日には「マイナンバー制度の運用延期を求める会長声明」を出していることなどが報告され、併せて会員の皆さまには本研修を機に今一度マイナンバー制度の問題点について考えて欲しいとのお話がなされました。 - 丸山先生の報告に続き、坂本先生のご講演となりました。
- マイナンバー制度とは住民票を有する全ての方に一人一つの番号を付して社会保障や税などの分野で効率的に情報を管理し、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されるものです。マイナンバー制度は(1)公平、公正な社会の実現、(2)行政の効率化、(3)国民の利便性の向上というメリットがあるものの、実際には一般的に懸念されている情報漏えい以外にも多くの問題点が残されているようです。
具体的には、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(マイナンバー法)19条では「何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報の提供をしてはならない。」と特定個人情報の提供が厳しく制限されていますが、その12号で「訴訟手続その他の裁判所における手続」が規定されているため、裁判所へ提出するためならマイナンバーを提供する(つまりマイナンバーが記載されている書類を裁判所に証拠として提出する)ことが認められています。しかし、例えば源泉徴収票にもマイナンバーが記載されるため、弁護士が依頼者から受け取った源泉徴収票を裁判所に証拠としてそのまま提出することが許されるのか(少なくともマイナンバー部分を黒塗りにして提出しなければならないのではないか)、あるいは後見人が被後見人のマイナンバーを取り扱うことや破産管財人が破産会社の従業員のマイナンバーを取り扱うことがどこまで許されるのかなど、解決しなければならない問題点が多く残されているとのことでした。 - さらに、一般的にも、事業者が従業員からマイナンバーの提供を受けた場合には慎重な取り扱いや厳重な管理が必要となることはもちろんですが、マイナンバー法16条はマイナンバーを取得する際の本人確認を義務付けていることから、従業員本人のみならず従業員が扶養している親族からもマイナンバーの提供を受ける際はどこまで本人確認を行うべきか(扶養親族の本人確認までもしなければならないのか)などの問題もあるとのことでした。
- マイナンバー制度とは住民票を有する全ての方に一人一つの番号を付して社会保障や税などの分野で効率的に情報を管理し、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されるものです。マイナンバー制度は(1)公平、公正な社会の実現、(2)行政の効率化、(3)国民の利便性の向上というメリットがあるものの、実際には一般的に懸念されている情報漏えい以外にも多くの問題点が残されているようです。
3 坂本先生からのアドバイス
最後に、坂本先生からは、平成27年10月には国民に個人番号の通知が行われる予定となっているので、我々事業者はマイナンバー導入のための最低限の対策(事務所内でマイナンバーを取り扱う人を予め決めておく。マイナンバー取得の際には相手に利用目的を伝える。マイナンバー取得の際には身分確認を忘れない。マイナンバーが記載された書類は鍵が掛かる棚や引き出しに大切に保管する。パソコン内に保管する場合には最新のウィルス対策を行う。マイナンバーが必要なくなったら、マイナンバー記載書類は速やかに廃棄するなど)をしておくようアドバイスをいただき、本研修は終了となりました。
4 マイナンバー制度に関する補足
なお、マイナンバー法は平成28年1月より施行されますが、同年3月までに行う個人事業者の確定申告や源泉徴収票の発行に関しては、それが平成27年分の収入に対するものであることから、マイナンバーの取得・利用は不要となります。他方、平成28年1月以降の収入に関するものについてはマイナンバーの取り扱いが必要となります。すぐに必要なのは、例えば1月に退職された従業員に対する1か月以内に発行する源泉徴収票の作成(平成28年1月分以降の収入にかかるもの)のためのマイナンバーの取得・利用となります。皆さんお間違えのないようご注意ください。
5 最後に
本研修はマイナンバー制度の概要を理解するのみならずマイナンバーを取り扱う際に我々弁護士が注意すべき点についても具体的に説明があり、非常に有意義な研修であったと思います。
本研修については、福岡県弁護士会の会員専用ページから研修動画を見ることができますし、後日DVD研修も予定されていますので、本研修を受けられていない方は是非ご覧又はご受講いただければと思います。