福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2015年10月号 月報
シンポジウム「なくせ『女性の貧困』~男女がともに豊かな社会を創造するために~」
月報記事
会 員 里 本 麻 衣(66期)
1 シンポジウムの開催
平成27年8月29日(土)午後1時半から4時半まで、天神ビルにて、「なくせ『女性の貧困』~男女がともに豊かな社会を創造するために~」と題する、第58回人権擁護大会プレシンポジウムが開催されました。
同じ女性として、また、女性の相談を受けることが多い立場の者として、「女性の貧困」という問題は、非常に興味があったので、このシンポジウムに参加させて頂きました。
2 シンポジウムのご報告
会場に入ると、席はほとんど満席の状態でした。シンポジウムの内容から、当然女性の出席者が多いのですが、男性の姿も、それなりに見受けられました。
シンポジウムでは、竹信三恵子氏(和光大学教授)の基調講演があり、その後、シングルマザーとして働く女性の実態報告や、阿部広美氏(熊本県弁護士会)の日弁連の活動、そして、竹信三恵子氏、鈴木泰輔氏(広島県弁護士会・マタハラ原告訴訟代理人弁護士)、樋口充喜氏(福岡県労働組合総連合事務局長)、大戸はるみ氏(しんぐるまざあず・ふぉーらむ・福岡理事長)をパネリストとして、そして、深堀寿美会員をコーディネーターとして、パネルディスカッションが行われました。
これらのプログラム全てに言及したいところですが、紙面上不可能なので、私が特に印象に残った、竹信三恵子氏の基調講演について、ご報告させて頂きます。
3 竹信三恵子氏の基調講演
竹信三恵子氏は、ジャーナリストでもあり、そのご講演はとても刺激的なもので、お話に引き込まれてしまいました。私のように、竹信氏のお話に引き込まれた人は、会場にとても多かったのではないでしょうか。
竹信氏は、「なくせ『女性の貧困』~家事ハラと再分配から考える」という題名でご講演をされました。
ご講演では、女性の貧困率は高いこと、女性の給与所得額において、年収200万円台が1996年以降徐々に増えていること、女性の正社員は少数派であること等の基本的知識の紹介がなされました。そして、女性の貧困が社会的に非常に問題であり、この貧困問題を解消するには、社会の意識改革をしなければならないこと等の問題提起がなされました。
その問題提起をされた上で、竹信氏は、非常に鋭い視点を与えてくださいました。現在政府が打ち出している女性政策は、本当に女性のためになされているのか甚だ疑問であること、本当のワークライフバランスとは一体どうあるべきか、現在の労働時間は男性の労働時間を基準とされているが、労働時間の基準は、女性を基準とするべきであること、家事労働が蔑視されていることの問題(家事の価値をかなり低く見られていること。竹信氏は「家事ハラ」と呼ばれていました。)等です。
4 シンポジウムを受けて
今回のシンポジウムを受けて、特に感じたことは、「今の日本の社会には、日常生活が一体どのようにして回っているのか、という大切な視点が抜け落ちているのではないか」ということです。この視点の欠落が、竹信氏の言う「家事ハラ」に繋がっているのではないでしょうか。
この視点を欠落させたまま、労働政策や女性政策が行われると、日本の将来に大きな影響を及ぼしてしまうのではないかと、私はとても不安を感じます。
「何を大げさな」と思われるかもしれません。しかし、日常生活をないがしろにするということは、人としての根本をないがしろにすることにもなるのではないでしょうか。日常生活をないがしろにして、果たして日本は幸せになれるのでしょうか。
私は普段シャワーで済ますことが多いですが、やはり入浴の際には湯船に浸かった方が断然、体の調子は良いですし、なるべく自炊をして野菜を多めに取るほうが、お腹の調子も良いです。そしてなにより、規則正しい生活は、心を健康にしてくれます。「お前は一体何を言っているんだ」と思われるかもしれませんが、日常生活は、心と体を健康に保つための重要なものであるということを、その日常を作り上げるのは、家族(人)なのだということを、もっと社会全体で認識すべきだと思います。
今回のシンポジウムを受けて、私は改めて、大事な視点を頂けました。良い機会を与えてくださって、本当にありがとうございました。