福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2015年8月号 月報
給費制本部だより 『司法修習生への経済的支援の検討』が決定しました!
月報記事
会 員 髙 木 士 郎(64期)
閣議決定によって平成25年9月17日に設置され、法曹養成制度の在り方について検討を行ってきた法曹養成制度改革推進会議が、設置期限(平成27年7月15日)を前にした平成27年6月30日、「法曹養成制度改革の更なる推進について」とする決定を行いました。本決定は、司法修習の項目において、『法務省は、最高裁判所との連携・協力の下、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ、司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。』としました。
これまで、法曹養成制度改革推進会議や、同会議に代わり具体的な議論の場となっていた法曹養成制度改革顧問会議においては、貸与制を前提とし、移転料の支給や限定的な修習専念義務緩和によるアルバイトの許可制などの諸施策で十分であるとして、司法修習生に対する経済的支援についてはほとんど検討の俎上に載せないという扱いをとってきました。しかしながら、本年6月に示された本決定の案において、「必要に応じて」「必要な範囲で」との留保的表現を伴いながらも、司法修習生に対する経済的支援を検討することが盛り込まれました。その後、本決定においては、「必要に応じて」「必要な範囲で」との表現は削除されました。
設置当初、法曹養成制度改革推進会議としては、貸与制前提、司法修習生に対する経済的支援の必要はないとの姿勢でした。しかしながら、貸与制の下での修習が4期目に入り、修習に行くことさえ諦める事例が出てきたこと、経済的負担の重さを一因として法学部・法科大学院の志願者が激減し、なおも減少傾向に歯止めがかからないことなど、貸与制による数々の弊害が明らかとなってきたことから、法曹養成制度改革推進会議としても従来の姿勢の転換を図らなければならなくなったものと考えられます。
決定案において盛り込まれていた留保的表現が本決定においては削除されたという経緯からうかがえるように、法曹養成制度改革推進会議のこの様な姿勢の転換は、同会議の自発的な方針転換というよりも、方針転換を求める外部からの声、すなわち当事者である司法修習生の声や、法曹志願者の声を無視できなくなってきたことが大きな要因であると考えられます。当会においても、日弁連やビギナーズ・ネットと連携しながら、継続的な議員要請、市民集会の開催などを実施する中で、当事者たちの声を法曹養成制度改革推進会議のみならず、与野党の議員や市民の方々に届ける活動を行ってきました。この様な活動が、本決定において一定の成果を得ることにつながったのであれば誠に喜ばしいことであると考えます。
しかしながら、本決定に盛り込まれたのはあくまでも経済的支援の『検討』です。そして、その検討における考慮要素として、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、合理的な財政負担の在り方などが挙げられています。そのため、実際に経済的支援の実施が実現するのか、実現するとしてどのような内容のものとなるのかについては、まだまだ予断を許さない状況が続いているといえます。ですので、当会としては、当事者の声を多くの方に届けるとともに、法曹を社会が責任を持って育てることの意味について一緒に考えてもらうというこれまで同様のコンセプトの下、より一層熱意を持って活動を行っていく必要があります。
平成27年6月3日に衆議院第一議員会館にて開催された院内集会には、過去最多の国会議員本人の出席がありました。その中で、「これだけの盛り上がりは、給費制の1年延長ができた当時の熱気を思い起こさせる。」と述べる国会議員もいました。この様に司法修習生の給費制を取り巻く状況が熱を帯びてきたこれからが、給費制復活を含めた司法修習生に対する経済的支援の獲得に向けての活動の正念場であると考えます。当会給費制本部各委員も、秋の臨時国会での法案提出を目指し、これまで以上に熱を入れて活動を行っていく所存です。当会会員の皆さまにおかれましても、より一層のご協力を賜りますようお願い申し上げます。