福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2015年8月号 月報

「転ばぬ先の杖」(第17回) 困ったときの生活保護

月報記事

生存権の擁護と支援のための緊急対策本部 事務局長 城 戸 美保子(60期)

ある日、事務所に一人の男性が借金のご相談にみえました。見るからに思い詰めた様子です。

聴き取りにより、自営業のため多額の借金があり妻が連帯保証していること、スーパーの乱立で売上は減少の一途をたどっていること、毎月の返済額が売上を大きく上回っていること、買掛金の滞納のため現金でしか仕入れできなくなったこと、現金で仕入れたものを売って生活費を工面していること、家賃滞納のため明け渡しを迫られていることなどがわかりました。男性の語り口から商売への思い入れと返済への強い気持ちを感じました。しかし、これ以上経費を切り詰めようがないとのこと。そこで、売上回復の見込みがないのであれば廃業した方がいいこと、就職しても返済は無理なので破産したほうがいいこと、就職し収入が得られるまでは生活保護を利用できること、自宅の明け渡しを迫られていることを保護課に伝えれば引越費用などを出してもらえること、保護課に対応してもらえなかった場合は弁護士が同行申請すること、弁護士費用は国の立替払制度を利用できるので心配しなくていいことなどを説明しました。

男性は、野宿しなくてよいこと、返済や生活費に頭を悩ませる必要がないことなどが分かり、安心されたご様子でした。

後で分かったことですが、男性はこの日活路が見いだせない場合は自殺しかないと思い詰めていたそうです。自分のアドバイスで自殺を食い止められたことを知り、生活保護の知識を持っていたことに感謝せずにはいられませんでした。

後日、ご夫婦で事務所に来られた際、すでに生活保護を申請したことを確認し、改めて破産手続等について説明しました。

その後、離婚したいとの妻からの電話を受けたため、事務所にお越しいただきました。話しを聞くと、連帯保証に対する誤解などから、夫のせいで破産させられるというお気持ちを持っていることがわかりました。そこで、離婚は当事者の自由なので破産申立代理人がとやかくいえる筋合いではないと断った上で、連帯保証契約を理由に返済義務が生じるため離婚によって破産を免れるわけではないこと、離婚すると保護費が減ること、返済を希望するのであれば保護は受けられないこと、返済を希望するのであれば直ちに就職活動を始めた方がいいことなどをアドバイスしました。その上で、よく考えた上で最終的に離婚するかどうか連絡して欲しいと伝えました。なお、離婚の決意が変わらない場合、先に夫の破産の相談を受けているため、利益相反の観点から、今後の破産や離婚の相談は別の弁護士にしてもらう必要があると付け加えました。

後日、妻から電話がかかってきて、就職活動を始めてみたが面接すら受けさせてもらえないこと、離婚を希望したのは連帯保証債務を誤解していたことが大きいので、離婚を思い直したと伝えられました。

その後、破産手続開始申立準備中に多少のすったもんだはありましたが、そのつど辛抱強く説得を続け、申立を行い、無事、破産手続開始決定及び免責許可決定を受けました。

今回、男性を自殺から救え、離婚危機も回避できたのは、日頃から、代理人弁護士として、債務整理や生活保護や離婚事件を受任し、活動していたおかげだと思います。

自殺や虐待や一家心中のニュースを聞く度に、「弁護士に相談してくれさえいれば、救えたかもしれないのに。。。」と思わずにはいられません。福岡県弁護士会も数多くの無料法律相談のメニューを持っています。ぜひ、お気軽にご相談ください。

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