福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2015年7月号 月報

「転ばぬ先の杖」(第16回)

月報記事

会 員 中 野 俊 徳(56期)

1 はじめに

一般市民の皆様に弁護士の必要性を考えていただくためのリレーコラム「転ばぬ先の杖」ですが、今回の執筆は筑豊部会から私が担当させていただくこととなりました。

日頃、主に個人の方を相手に法律相談・依頼を受けている中で、「もっと早く弁護士にご相談いただいていれば」「弁護士に依頼されていればもっとうまく話が進むのに」と感じることは多く、今回は相続の場面をテーマに、そのような話をさせていただきます。

2 遺言書の作成

法律的なトラブルはいったん発生してしまうと、放置していても自然に収まることは少なく、問題が複雑化・拡大してしまうものです。

例えば、子ども達の間で親の面倒を誰が見るのかという問題があった場合、親と一緒に(あるいは親のすぐ近くに)住み、親の財産の管理を手伝いながら親の面倒を日常的に見た子と、親から遠く離れた場所に住み、金銭的な援助はしつつも、親の財産の詳細を知らないままの子との間では、親が亡くなった後の相続のトラブルに複雑化・拡大しやすいものです。

親から離れて暮らしている子は親と一緒に住んでいる子が親の財産を使い込んでいるのではないかと不信感を持つことが多く、親と一緒に住んでいる子は親の世話というお金に換えられない苦労を負わされた自分が遺産を多く相続するのは当然だと思うことが多いからです。

最近、そうしたトラブルが自分の死後に発生することを心配して、遺言書の作成を考えられている方が増えているように思います。

しかし、遺言書はその作り方次第ではトラブルを防止できず、かえってトラブルを拡大してしまうこともあります。

例えば、いつも自分の世話をしてくれる子に遺産の全部を渡すという内容の遺言書を残した場合、それでも残りの子には遺留分という遺産の一部を受け取る権利がありますから、その遺言書がトラブルを防止する役割を果たすとは限りませんし、遺言で遺産をもらえなかった子から恨まれることにもなりかねず、感情的にもトラブルが拡大してしまいます。

その他にも、遺言書はその作成方法が厳格に規定されていたり、記載の仕方によっては無効になったり、記載内容をどのように解釈するべきかでかえって相続人の間でトラブルの元になったりしますので、遺言書の作成をお考えになった際には、ぜひ弁護士にご相談いただきたいと思います。

3 遺産分割の話し合い

相続人の間で遺産分割を話し合う場面においても、弁護士にご相談ご依頼いただいたほうが、自分の権利を守れたり、話がスムーズに進むということが多いように思います。

遺産分割と言っても、今残っている遺産を法定の相続分(相続割合)に従って分ければ済むという単純な話ばかりではありません。

例えば、亡くなった方が生前に多額の贈与をしている場合、それがいつ誰に対してどのような目的でなされたものか、によって、遺産分割に影響を与える話になりうるのです。

遺産分割は、そのような意味で、単に遺された財産を分けるという話ではなく、亡くなった方と相続人らとの間の長い期間における家族関係の財産的な清算という意味合いもあり、そうした長い期間の膨大な事実の整理と、それぞれの事実の法的な意味の確認をするうえで、弁護士にご相談ご依頼される意味はとても大きいと思います。

4 インターネットの情報

インターネットが発達し続けている現在、インターネットで調べるだけで様々な情報を極めて低廉な費用で入手することが可能であり、最近では法律相談に来る前に、弁護士の多くも知らないような細かな情報を確認してきている相談者の方も珍しくありません。

しかし、インターネットの情報は正確性・信頼性が必ずしもあるとは言えず、また、特定の事案にしか該当しない断片的な情報であることも多いので、インターネットで得た情報を信じるのはかえって危険な場合もあることに注意しましょう。

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