福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2015年6月号 月報
あさかぜ基金だより
月報記事
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 中 嶽 修 平(66期)
はじめに
私があさかぜ基金法律事務所に入所してから、1年半が経過しました。当事務所の弁護士は、2年ほどの養成期間を経て、弁護士過疎地域に赴任します。私も、半年後には、当事務所での養成を終え、司法過疎地域に赴任する予定です。
私は、弁護士過疎解消の一助になればと思い、当事務所に入所しました。弁護士過疎地では、都会では考えられないような法的問題が多数存在しています。最近もそのような法的問題を耳にしました。そこで、当事務所の近況報告とあわせて報告します。
あさかぜ事務所について
あさかぜ基金法律事務所は、九弁連が、その管内の弁護士過疎地域に赴任する弁護士を養成するために基金を作り、その基金から資金を拠出して設立した都市型公設事務所です。同様の都市型公設事務所としては、北海道弁連が設立した、すずらん基金法律事務所、東北弁連が設立した、やまびこ基金法律事務所などがあります。
あさかぜ事務所は、現在、66期2名、67期2名、事務局2名の6名体制となっています。今は、男性弁護士のみであり、多少のむさ苦しさは否めません。むさ苦しさの解消と受任事件範囲の拡大という趣旨から、68期には、女性弁護士の採用を切に願っています。
あさかぜ事務所での養成について
当事務所に所属する弁護士1名につき、福岡県弁護士会所属の指導担当弁護士(30期代から50期代)が数名選任されます。私たちは、指導担当弁護士との事件の共同受任などを通じて様々な指導を受けています。それ以外にも、福岡県弁護士会の執行部経験者が中心となって結成されている、あさかぜ応援団に所属する弁護士との共同受任事件や事件紹介を通じて経験を積んでいます。もちろん、あさかぜ事務所独自の事件や事務所内での共同受任事件もあります。
事務所経営に関しては、事務所会議を開催しています。事務所会議には、当あさかぜ事務所の弁護士に加え、事務局、あさかぜ基金法律事務所運営委員会の委員長や担当副会長も参加し、経営ノウハウや個別事件処理についての指導や日常的な経営問題について協議します。月1回のペースでの開催です。事務所会議ではキャッシュフローデータにもとづき、収入・支出の流れの把握につとめ、将来に備えて事務所経営者としての、経験を積んでいます。
司法過疎地での法律問題
ゴールデンウイークに、数年ぶりに、遠方の田舎にある中小企業で勤務している知人に会いました。4月に実施された統一地方選の話題がでましたが、そこで、知人から、驚くべきことを聞きました。なんと、知人が勤務する会社社長が、ある現職候補者を応援し、従業員に対し、その現職候補者に投票するように強要していたのでした。さらに、その現職候補者に投票しない旨の意思を表明していた従業員に対しては、その現職候補者に投票しなければ、解雇するとまで言ったとのことでした。その知人も、その現職候補者に投票しない旨の意思を表明していたため、解雇すると言われましたが、結果的に解雇されずに済みました。私は、知人に、この件で弁護士に相談したのかと訊きましたが、最寄りの弁護士事務所まで、車で1時間はかかり、仮に、相談できたとしても、その頃には選挙は終わってしまうので、弁護士には相談しなかったとの返事でした。
このように、弁護士過疎地域では、都会では考えられないような法的問題が存在し、弁護士にアクセスできていないことが起こっています。
おわりに
多くの弁護士による取組みにより、ゼロワン問題の解消など、弁護士過疎問題について、相当程度の解決が図られてきました。しかし、利用者の目線からすれば、弁護士過疎地域において、弁護士へのアクセスは十分とはいえない状況にあります。
このような現状を認識しつつ、弁護士過疎地域で、少しでも質の高い司法サービスが提供できるよう、日々、研鑽を積んでいます。今後とも、あたたかいご支援、ご協力をよろしくお願いします。