福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2015年1月号 月報
「転ばぬ先の杖」(第11回) 事業者のみなさんへ~事業承継対策の必要性
月報記事
中小企業法律支援センター委員長
池 田 耕一郎(50期)
1 事業承継対策の必要性
私たち弁護士が中小企業の経営者から相談を受けていますと、以前と比べて、事業承継対策の必要性を意識している方が多くなったように感じます。
しかし、「事業承継の話はまだ先」と考える経営者が依然多いのも事実です。実際、事業承継対策の必要性は認識しつつも、対策が進んでいない企業が6割もあるという調査報告もあります。
企業経営者にとって、後継者にバトンを渡す「事業承継」は重要課題の一つです。後継者へのバトンタッチがうまくいかなければ、企業の成長が止まり、業績の停滞を招くおそれがあります。最悪の場合、廃業に至るケースもあります。また、事業承継対策は、単にその経営者個人の問題ではなく、従業員やその家族の生活、地域活力を維持することにもつながります。取引先からの信用評価という観点からも、相手先企業の事業の継続性に対する不安がマイナスポイントになることは否定できません。
2 承継の方法
事業承継の方法には、一般に、(1)親族への承継(親族内承継)、(2)従業員等への承継(企業内承継)、(3)第三者への承継(社外から次期経営者を迎え入れる、M&A等)の3つがあるとされています。
独立行政法人中小企業基盤整備機構の「事業承継実態調査報告書」(平成23年3月)によると、「家族・親族への承継」が40.2パーセント、「役員・従業員への承継」が14.3パーセント、「第三者への承継」が2.6パーセントという結果が出ており(「明確に決まっていない」は28.8パーセント)、中小企業経営者がまず検討するのは親族内承継のようです。他人よりも身内のほうが無理がきく、という要素があるかもしれません。
M&Aときくと、かつては、将来に向けた明るいイメージよりも「身売り」のイメージが先行していたように思われますが、最近では、経営状態がよく企業価値が高いうちに事業を譲りたいという企業経営者も増え、M&Aに対する潜在的需要が増大しているようです。買い手候補として多角経営をめざして他社の事業を引き継ぎたいという企業も増えています。
中小企業版M&Aを推進する公的機関として「福岡県事業引継ぎ支援センター」が設置されていますが、国は、さらに中小企業のM&A支援策を推進するため、中小企業向けM&Aガイドラインの策定に向けた検討を始めました。
3 まずは弁護士に相談を
事業承継対策というと、税務面が頭に浮かぶという方も多いかもしれませんが、税金対策だけでは、次期経営者に安定した経営権を確保することはできません。
個人企業であれば、企業の権利関係と個人の権利関係が明確に分離されないため、相続に関する法務面の対策が不可避です。
法人企業(株式会社)の経営者であれば、相続問題とともに、株式の分散を防ぐ方策が重要な検討課題です。少なくとも取締役の選任決議を通せる過半数の株式(議決権)を、さらに合併や会社分割などの会社の行く末を決定する重要な決議を通すことができる3分の2以上の議決権を確保できる株式を次期経営者に残したいところです。株式以外に十分な資産がない場合には、種類株式の活用も検討すべきです。株式は相続分に応じて各相続人が分割取得するのではなく、遺産分割がなされるまで全相続人が共同して相続する(いわゆる準共有)状態になり、経営を不安定にするおそれがあります。遺言書の作成を含めた対策が必須です。
日常の商売(事業)をしながらでは、なかなか腰を上げるのが難しいかもしれませんが、事業承継対策は、企業経営者にとって避けては通れないテーマです。まずは、どこから取りかかるべきか、ワンポイントアドバイスだけでも受けてはいかがでしょうか。前述したように、事業承継対策にはすべて法律問題が絡みます。弁護士に相談することで、普段は子細に検討することの少ない部分も含め、事業全体の状況を明確に把握でき、事業承継のスキームづくりが見えてきます。
福岡県弁護士会では、中小企業の事業承継対策を積極的に支援しています。
弁護士の事務所で気軽に相談できる事業者のための相談窓口「ひまわりほっとダイヤル」を開設していますので、ぜひ活用してください(初回面談相談無料)。
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