福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2014年12月号 月報
「転ばぬ先の杖」(第10回)
月報記事
会 員 井 上 健 二(58期)
1 弁護士を活用する場合のイメージとしては、「事件の代理人として、弁護士が、自分の代理人として名前を示して、交渉や裁判で戦ってくれる」というイメージが一般的ではないかと思います。
しかし、弁護士を活用するにもいろいろな方法があり、活用の仕方によっては、紛争を防ぎ、より良く、かつより安く解決ができる場合もあります。
今回の「転ばぬ先の杖」では、一般的なイメージと違う形での弁護士活用法をあげてみます。
2 相手方との感情的なもつれが激しい場合
離婚問題や相続問題など様々な問題について、相手方との長年にわたる感情的なもつれやこじれが生じている事案では、いきなり弁護士が代理人として登場すると、さらに相手方の感情面を刺激してしまい、より紛争性が高まってしまった結果、訴訟にまで至ってしまうということがあり得ます。
そのような場合には、むしろ、最初は、弁護士を表に出さずに、弁護士から法的問題点や相手方とのやり取りの方法、紛争解決までの見通しやコストなどについて助言を受けながら、自分の名前で文書などにより意思表示することから始めてみるほうが良いこともあります。
その場合、弁護士に文書を作ってもらって、自分の名前で相手方に対し文書を出すということを検討してもよいかもしれません。そういった穏当なやり方を続けていくうちに、次第に感情面のこじれがときほぐされ、裁判にまでならずに解決する可能性もあります。
3 紛争の内容が必ずしも純粋な法律問題ではない場合
世の中で起きる紛争には、様々なものがあり、必ずしもそれらの全てが純粋な法律問題として発生するわけではありません。例えば、親族や知人などの人間関係の問題、男女の問題、近隣の問題など・・・。
弁護士は「法律の専門家」だから、法律問題以外の問題を弁護士に相談しても果たして意味がないでしょうか?その答えは、NOです。
弁護士は、「法律の専門家」でもありますが、「紛争解決の専門家」でもあります。「紛争解決」の肝がどこにあるのか、という視点から弁護士は助言できるので、その助言は役に立つことが多いでしょう。
また、弁護士は、紛争解決にとって「重要な事実」と、「そうではない事実」の切り分け作業にとてもよく長けています(訴訟における事実主張の際にそのような作業をいつも行っているからです。)。それゆえ、いかなる紛争においても、解決のために有益な視点を提示できる場合が多いように思います。
4 事業活動における活用
事業活動においては、必ずしも事業上のトラブルだけではなく、様々な場面で弁護士を活用できます。
例えば、一般的には、いわゆる「商談」に弁護士を関与させるイメージはないかもしれませんが、自社の利益を決する「値決め」交渉などにおいて、交渉の進め方の方針立案、相手方に対する提案のための文書作成、協議事項の優先順位の判断など、様々な場面で弁護士を活用することは、自社の利益を守るために有益となる場合があります。これは、日々法的交渉を業務として行っている弁護士の「交渉の進め方の勘所」を活用するものです。
また、大企業においても、「消費者の視点からみて、その企業の判断が正しいか否か」を検証する際に、消費者の目線を持った弁護士の意見を聴取することは今後これまで以上に重要になってくるでしょう。
このように、事業活動においては、弁護士の活用法として、その「法律知識」だけでなく、スキルや立場を活用することができるのです。
5 以上のように、弁護士にはいろいろな活用法がありますので、「ちょっと誰かに話を聞いてほしい」という段階からでも、是非、弁護士に相談してみてください。自分では気づかなかった解決のヒントが見つかるはずです。