福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2014年10月号 月報
あさかぜ基金だより
月報記事
会 員 西 村 幸太郎(66期)
いわゆる「若者問題」、すなわち、多額の支出を強いるロースクル制度の是非と、法曹人口増加による若手の就職難等の問題が叫ばれて久しく、現在も、活発に議論がなされているようです。一方で、いわゆる「司法過疎偏在問題」は、一時に比べると、議論も落ち着いてきたようで、ゼロワン地域が解消されたことによって、同問題は解決済みだとする見方もあるようです。しかし、ゼロワン地域が解消されたことが、イコール司法過疎偏在問題の解決というわけではありません。そもそも、ゼロワン地域とは、「地方裁判所の支部が管轄する地域区分内に、法律事務所などを置く弁護士の数が、1名しかいない、あるいは全くいない地域」を指すところ、この定義から分かるとおり、便宜上、裁判所の支部を基準に設定されたものであり、裁判所の支部がない地域であっても、リーガルサービスを必要としている過疎地域は存在するのですから、ゼロワン地域の解消によって、弁護士会の当面の目標は達成したとしても、司法過疎偏在問題が解決したとみるのは、早急に過ぎると思います。司法過疎偏在問題は、古くて新しい問題であり、今なお取り組むべき重要な問題であると考えています。
ところで、私は、司法過疎偏在問題への取組みの起源を、司法制度改革にあるものと理解しています。司法制度改革は、2000年頃から着々と進められてきたものですが、意外と、その内容をよく理解している人も少ないのではないかと感じているところです。私も、細かい議論にまで精通しているわけではないですが、以下では、私なりにかみ砕いて理解している、司法制度改革の概要についてお話させていただこうと思います。
日本は、従来から、行政が、護送船団方式によって、強力な事前規制を行うことによって、事後的な紛争を避け、適正な経済活動を担保していました。しかし、不景気の影響もあり、事前規制は抑制し、ある程度自由な経済活動を行わせつつ、紛争が生じた場合は適切な事後的解決を行うことによって、適正な経済活動を担保していくという方向性にシフトしていくべきではないかという風潮が強くなっていきます。そして、ついに、いわゆる「規制緩和」がなされることになります。これが、行政改革です。その後、立法の分野でも、小選挙区比例代表並立制が採用され、より民意を反映できるように立法改革がなされます。残るは司法改革ですが、規制緩和を行った日本では、事後的な紛争解決の制度として、司法の役割が益々大きくなっていきます。そこで、司法制度改革では、(1)ロースクールの設立と(新)司法試験、(2)法テラスの設立、(3)裁判員裁判の開始を大きな柱として、改革を進めることとなりました。具体的には、(1)良質な法曹を育成するため、実務をにらんだ教育機関であるロースクールを設立し、実務家としての資質を図るために、試験内容も大きく検討し直すことになりました。また、合格者を増やすことで、法曹人口の増加を図り、マンパワーを確保し、リーガルサービスの行き届いていない地域にも、これを行き届かせようとしたのです。そして、(2)法曹と市民の距離感を縮め、法曹による紛争解決が望まれるケースを拾い上げるために、公的な機関として「法テラス」を設立することになりました。更に、(3)これまで、日本では、市民にとって、裁判の世界が縁遠いものであるという風潮があったので、市民が裁判に参加し、裁判の世界を身近に感じられるようになることで、市民が法曹による紛争解決について興味を持ち、法曹と市民の距離感を縮めようという狙いがあって、裁判員裁判が開始されたものといえるでしょう。こうした取組みにより、紛争解決の砦として「司法」が機能し、より身近にリーガルサービスを提供できるようになるとともに、全国津々浦々に、満遍なくリーガルサービスを提供できるようにしていこう、としたのが「司法制度改革」といってよいと思います。
以上述べた司法制度改革のスローガンは、「法の支配の国民的浸透」でした。つまり、法による紛争の解決を、日本の全国民が受けられるようにしていこうということです。この過程で、司法過疎偏在問題についての取組みの必要性が叫ばれるのは必然のことであり、私は、司法制度改革で掲げられたスローガンの達成のために、今なお取り組んでいくべき重要なテーマだと認識しています。
先日、当事務所の所員である島内崇行弁護士が、壱岐ひまわり基金法律事務所へ赴任することが決まりました。同じ所員として大変喜ばしいことだと思っております。当事務所は、司法過疎偏在問題に正面から取り組み、所員各人が、日々、赴任に向けて、精進しているところです。67期の2人を採用していただくことも決定し、これからも、司法過疎偏在問題の解決に取り組んでいく所存ですので、どうぞ宜しくお願いいたします。
長々と書いてしまいまして本当に恐縮ですが、本稿が、司法過疎偏在問題に興味をもつ一助となり、また、先人達が、いかにして司法過疎偏在問題に取り組み、成果を上げていったかを知るひとつのきっかけとなれば、幸いです。