福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2014年10月号 月報
給費制維持緊急対策本部だより 「司法修習生への給費の実現と司法修習の充実を求める福岡集会」の報告
月報記事
司法修習費用給費制復活緊急対策本部 副本部長
千 綿 俊一郎(53期)
1 はじめに
福岡県弁護士会では、平成26年9月6日土曜日、福岡市中央区天神のエルガーラホールにて、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会、ビギナーズネットとの共催により、「司法修習生への給費の実現と司法修習の充実を求める福岡集会」を開催しました。
当日は、「給費制」というマイナーな問題であるにも関わらず、たくさんの市民の方を含め170名を超える、エルガーラの中ホールがびっしりと埋まるほどの参加者がありました。
改めて、ご協力いただいた関係各位の皆様に感謝申し上げる次第です。
2 基調講演
当日は、法政大学教授の山口二郎先生から、「法律家育成という社会的作業」という基調講演を頂きました。
司法の位置づけとして、「多数決原理に対するブレーキ」という意味で「権力分立の柱」であること、公害事件や薬害事件のように「裁判が政策形成を担っている」という点を強調されました。
そして、「司法への市民参加」や「市民感覚を持った法律家の育成」という司法制度改革の目指すべき方向自体は正しかったけれども、経済的支援が見送られたために、格差社会を反映して、法律家になることをあきらめる若者が続出してしまっていることなどの問題点を指摘されました。
また、具体的データを用いて、現在の日本の経済情勢を分析されており、「企業収益と雇用者報酬」が逆方向に進み、富める者はさらに富み、困窮するものがさらに困窮するという状況があり、教育や人材育成という場面にしわ寄せがきているとのことでした。
安定した収入のない若者に対して、「自己責任」という名の下に、義務や負担だけを課すのは相当でないこと、高等教育については、特に「自己責任」という感覚が強いかもしれないが、経済的理由で高等教育を受けられないのは、やはり社会にとって損失であることなどを指摘されました。
さらに、国際比較をした上で、子どもの貧困の問題、特に高等教育での格差の深刻度が日本では著しいことなどをご説明いただき、「社会的共通資本」である法律家を育成するのが、社会の安定や経済の発展のためにも必要であるということを述べられました。
最後に、「なぜ、修習生だけ優遇するのか」などと言われることがあるが、そのような意見ばかり言っていては「高等教育・法曹育成における格差」を是認するだけであり、妥当ではない、修習生のこの問題こそが高等教育における機会均等実現のための突破口であるとの意見を述べられました。
3 関係団体や市民の皆様からのエールなど
福岡県医師会、福岡県社会福祉協議会、企業経営者、消費生活アドバイザーの関係団体や市民の皆様から、「法曹を目指す者への経済的支援が必要不可欠である」という熱いエールをいただきました。
それぞれ、日ごろの弁護士らとの関わりから、具体的体験に基づいてお話しいただき、非常に心強いメッセージでした。
それに引き続き、大学生や大学院生からは、これからの司法の担い手を目指す熱い思いを語っていただきました。
4 国会議員のご参加
国会議員ご本人にも複数ご参加いただきましたので、以下、ご紹介します(発言順)。
河野正美議員(衆議院、日本維新の会)は、ご自身が精神科医であるということで、「市民のための権利擁護という点で共通する、しっかり、養成していくべきだ」ということをご発言いただきました。
また、野田国義議員(参議院、民主党)からは、「今、問題となっている格差是正という意味で取り組むべき課題と思っている」、「市長をしていた経験から行政にも弁護士職員が必要と考えている」というご指摘をいただきました。
仁比聡平議員(参議院、共産党)は、「参議院の法務委員会で給費制問題を取り上げたこと、その際、3回のどよめきが起こった((1)1回で期限の利益を喪失して、14.6パーセントの遅延損害金が付くこと、(2)保証会社がオリエントコーポレーションであること、(3)国税庁の調査で弁護士の年の所得が70万円に届かない人が2割に上っている)」、「議員としても実態に目を向けなければならない」という意気込みをお話しいただきました。
原田義昭議員(衆議院、自民党)は、「この運動は長く続いてきているが、そろそろ具体的な方針を出さなければならないと考えている。以前の給費に戻すという案も財政上の問題から難しい面はあるが、他の諸々の援助、支援もあり得るので、例えば、研修医に準じた経済的支援など、具体的な案を出す段階であると考えている、日弁連の具体的運動も工夫して欲しい、また『なぜ弁護士だけが』という声を乗り越えていかなければならない」という説明がありました。
また、国会議員秘書、地方議会議員からも多数ご参加いただき、ご欠席の国会議員からも多数のメッセージを頂戴しました。
5 今後
自民党が、今年の4月に「法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言」を出し、「司法試験合格者数は、まずは、平成28年までに1500人程度を目指すべき」などと、司法改革審議会路線の修正を打ち出しています。これに引き続き、今年度中に、法曹養成についても、さらに踏み込んだ意見がなされるのではないかとも予想されています。
同じく、与党である公明党は、今年の4月に「修習手当のような制度を創設すること」「研修医に準じて経済的支援を行うべきこと」「貸与金の猶予、免除の要件を緩和すること」なども提言しています。
このような政治情勢の中、弁護士会としても、より一層の意見表明、積極的運動を継続していかなければならないと思います。
引き続きのご理解、ご協力をどうぞよろしくお願いします。