福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2014年8月 1日

◆憲法リレーエッセイ◆ 福岡県弁護士会定期総会決議に対する賛成意見

憲法リレーエッセイ

会 員 前 田 豊(28期)

1 私の父は19歳の夏、昭和20年8月9日、長崎の爆心地から1.7kmの三菱造船所稲佐製材工場で被爆しました。熱線と爆風で火傷を負い、今も身体にケロイドがあります。私の母は看護婦として佐世保海軍病院諫早分院で被爆者の看護をしました。私が学んだ諫早市長田小学校(当時国民学校)は被爆者の臨時の病院・収容所となりました。中学校の裏手には被爆者の無縁墓がありました。8月8日北九州八幡の空襲のため煙で視界がさえぎられる状態でなければ、8月9日は小倉に原爆が投下されていました。
長崎では約7万人、広島では約14万人(昭和20年12月まで)が死亡しました。沖縄では地上戦で多数の一般市民が死傷し、東京、福岡をはじめ各地の空襲で多数が死傷しました。合計すると一般市民約80万人が死亡しました。
兵士の死亡は約230万人、東京の千鳥ヶ淵には各地で戦死した兵士の数が石碑に書いてあります。ガダルカナル、インパール、中国などで補給を軽視した無謀な作戦が行なわれ、多くの兵士が餓死・病死を含めた広い意味の餓死をして戦死しました。戦死した兵士約230万人のうち約6割が広い意味の餓死であったとの推計もあります(藤原彰「餓死した英霊たち」)。
こうして、一般市民約80万人、兵士約230万人、合計約310万人が死亡し、周辺諸国にはその何倍もの犠牲者を出し被害を与えました。

2 日本国憲法はこれらの尊い犠牲をはらった戦争を放棄するという決意で制定されました。
憲法前文は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と規定しています。私は前文のこの部分が憲法の最も重要な基礎であり憲法の源泉であると思います。
憲法第9条は、第1項で、国際紛争を解決する手段としての戦争と武力による威嚇及び武力の行使を永久に放棄し、第2項で、陸海空軍その他の戦力は保持しない、国の交戦権は認めないと規定しました。憲法第9条第2項は戦争放棄のエッセンスであり最も重要なものであると思います。
戦後の変化のなかで、「日本が急迫不正の侵害を受けたときの自衛のため必要最小限度の実力行使は許される。」との政府解釈で、自衛隊その他の制度ができました。それでも自衛隊は戦力ではなく、日本が急迫不正の侵害を受けないときの実力行使は許されず、集団的自衛権は認められず、国の交戦権は認められない、というのがこれまでの政府の方針でした。それが憲法第9条のもとで許容しうる最大限度の枠組みでした。
ところが、安倍首相はこの枠組みを越えて、政府解釈で、「日本が急迫不正の侵害を受けないときでも実力行使が許される。集団的自衛権が認められる。」という読み替えをしようとしています。これは、憲法第9条の下では認められない解釈です。
憲法の立憲主義は権力者の権力濫用を憲法で抑えるというものであり、憲法第99条に公務員の憲法尊重擁護義務が規定されています。憲法第9条を超えて集団的自衛権の行使を認めることは、憲法第99条にも反し、立憲主義にも反するものです。

3 弁護士会が総会決議をすることについてはどうでしょうか。
弁護士法第1条は「弁護士は基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする。」と規定されています。弁護士会は強制加入団体ですから会員の考え方は様々ですが、基本的人権擁護と社会正義の実現を大切にするという点では共通であり、弁護士会は、戦争は最大の人権侵害であるという観点から戦争に反対し、立憲主義と恒久平和主義を重要な原則と位置づけてきました。
「解釈による集団的自衛権行使容認に反対する」旨の総会決議は、その観点から意見を表明するものであり、私はこの決議に賛成します。そして、圧倒的な多数の会員の賛成でこの決議が可決されることを希望します。

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