福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2014年7月号 月報
「転ばぬ先の杖」(第6回)
月報記事
法律相談センター委員会委員 甲 木 真 哉(55期)
1 身近にある刑事事件
「刑事事件」というと、多くの皆さんは「自分には関係のない事件」「関係するとしても被害者側だろう」と思われるのではないでしょうか。
しかし、弁護士として法律相談を受けていると、対応を誤ると刑事事件になりかねないケースに当たることがしばしばあります。
そこで、今回の「転ばぬ先の杖」では、身近にあるトラブルで、対応を誤ると刑事事件になりかねないようなケースで、弁護士に相談・依頼したことで大きな問題とならずに解決した事例を、いくつか紹介したいと思います。
2 お酒に酔った上でのトラブル
飲食店などでお酒を飲み過ぎ、酔っ払って周りのお客さんや従業員とトラブルになる・・・。皆さんの周りでも、聞くことのある話ではないでしょうか。
しかし、そこで叩いたり蹴ったりしていれば暴行や傷害罪ということになりますし、物をわざと壊していれば器物損壊罪、相手を脅すようなことを行っていれば脅迫罪に当たります。
やった本人としては、酔っていてよく覚えていないこともあり、「飲みすぎて失敗してしまった」というぐらいの認識でしかなくても、被害を受けた側の受け止め方は全く違うかもしれません。
酔った上でのことではあるので、ちゃんと謝罪なり弁償なりがあれば許すつもりだが、何の音沙汰もないようであれば、警察に正式に被害届を出そう・・・そんな風に考えているかもしれません。
このような場合、早期に対応することが重要です。
実際の相談事例でも、早い段階で弁護士に相談をし、適切なアドバイスを受けて相談者本人が被害者に謝罪や被害弁償を行い、事なきを得たケースもありますし、記憶がほとんどないために本人では謝罪や弁償がしづらいケースで、弁護士が依頼を受けて被害者と示談交渉を行い、無事に示談が成立して刑事事件にはならなかったというケースもあります。
一方で、対応が遅くなって正式に被害届が出され、警察に逮捕された後に、当番弁護士という形で呼ばれたというケースも多いです。
逮捕された本人から話を聞くと、ちゃんと謝罪や被害弁償をしていればこうならなかったと思われるのに、それほどのことでもないと思って対応を怠ったために逮捕されてしまったというような話だったりします。
もちろん、逮捕された後でも、被害弁償を行って不起訴を目指すことができますが、一番いいのは刑事事件にならずに逮捕もされないことです。
何かトラブルを起こしてしまったというときは、早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。
3 わいせつ事件
強姦や強制わいせつなどの性犯罪は、処罰が重くなっている傾向にあります。
その意味でも性犯罪は重大事件なのですが、男性としては無理やりというつもりではなかったけれども、女性から見ると意に沿わずに性的なことをされてしまった・・・というような顔見知りや友人同士での関係で、性犯罪に問われる事例も少なくありません。
このようなケースは、対応を誤れば、よりシビアな状況になりかねません。
一方で、男性が直接被害者に接触を図ること自体、二次被害を生みかねませんので、きちんと対応をするためにも、第三者、できれば弁護士に間に入ってもらった上で、解決を図るのが望ましいと言えます。
男性側に無理やりしたという意識がなく(故意がなく)、厳密には強姦罪や強制わいせつ罪が成立しないというケースもあるわけですが、女性に対して大きな精神的損害を与えたことに違いはないですし、重大事件ですので刑事事件になったり逮捕されたりすること自体が大変なことです。
「こんなことで刑事事件になるはずがない」などとタカをくくらず、早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。
4 結語
早い段階で対応したために刑事事件にはならなかった、あるいは対応が後手に回ったために刑事事件になってしまった、というケースは、他にもたくさんあります。
自分は関係ない、自分の家族は関係ない、自分の周りの人間は関係ない・・・そんな風に決めつけずに、トラブルを起こしてしまい、不安が残るようであれば、まずは弁護士にご相談ください。
きっと、あなたの「不安」を「安心」に変えてくれるはずです。