福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)
2014年7月号 月報
あさかぜ基金だより
月報記事
会 員 西 村 幸太郎(66期)
私の所属するあさかぜ基金法律事務所(以下「当事務所」といいます。)は、過疎地赴任を見据えた弁護士が活動する、特徴ある事務所です。いわゆる養成事務所と呼ばれることもありますが、「養成」といっても、その方法は千差万別です。今回、私自身が当事務所での取組みを振り返り、養成の在り方について考えながら、取組みの内容についてご紹介させていただきたいと思います。
扱っている事件についてです。過疎地に赴任すると、弁護士の絶対数が少ないため、その地に生起する玉石混淆の紛争が、一挙に持ち込まれることになります。良質なリーガルサービスを提供するためには、その弁護士が、どのような分野においても、一定以上の処理が出来ることが必要です。そこで、当事務所では、法律相談等によって各自で受任した単独事件はもちろん、他の先生方との共同受任事件にも取り組み、幅広い事件を経験しながら、技術の研鑽に努めています。当事務所をバックアップしていただいている組織・制度は多数ありますが、共同受任事件を確保できるようなシステムの構築もすすめています。様々な方にご協力いただいており、感謝の気持ちでいっぱいです。今後とも宜しくお願いいたします。
経営面についてです。当事務所では、「事務所会議」と題して、毎月のキャッシュフローデータをにらみながら、事務所経営に関する議論を行っています。その他、HPの改修についてや、各種制度についての見直し・検討など、議題は多岐に亘りますが、過疎地赴任後に自ら事務所運営ができるような能力を醸成できるように、意欲的に取り組んでいます。これとは別に「弁護士会議」と称して、事務所に所属する弁護士の新件を確認し、利益相反がないかをチェックしたり、処理に困っている事件について、弁護士間で意見交換を行ったりしています。会議の内容は、事務所運営がよりよくなるよう、弁護士自身で設定すべきものだと思いますので、今後も、創意工夫を凝らしながら、取り組んでいきたいと思います。
簡単にですが、事件面及び経営面について、当事務所の取組みを紹介させて頂きました。他の事務所での創意工夫も気になるところで、情報収集も継続して行っていきたいと思っています。技術の向上のためにどのような工夫が出来るかは、弁護士として常に意識すべきものだと思いますので、初心を忘れずに頑張っていきたいです。
法曹人口が増加する中、今こそ弁護士がどうあるべきか問われているように思います。司法制度改革において、リーガルサービスを全国津々浦々に浸透させようという理念が掲げられ、一定程度の成果は上げていると思いますが、まだまだ十分とは言えません。司法過疎地においても良質なサービスを提供できるよう、今後も精進していきたいと思います。
給費制維持緊急対策本部だより ~日弁連の会議に出席してみての感想~
月報記事
会 員 中 嶽 修 平(66期)
はじめに
去る5月27日、日弁連会館にて開催された給費制対策本部会議に、市丸健太郎委員の代理として出席しました。当会からは、私の他に、鐘ケ江啓司委員、髙木士郎委員が出席し、千綿俊一郎委員がTV会議で出席しました。
給費制対策本部会議は、月2回のペースで開催されており、他の日弁連会議と比較しても、その回数は多く、日弁連の中での関心の高さがうかがえます。そのため、遠方ながら出席している委員もおり、活発な議論が繰り広げられていました。
事前打合せ
給費制対策本部会議は、午後5時からですが、それに先立ち、午後4時から事前打合せが開催されています。事前打合せは、TV会議では中継されていません。そのため、給費制対策本部会議に出席することの意義は、まさに、この点にあるのだと思いました。
今回の事前打合せでは、貸与制の問題を、司法修習との関連で新たな視点から訴えることはできないか、ということについて議論しました。丁度、私が66期で貸与を受けていたことから、司法修習の現状や、貸与制に対する感想や不便さなど、貸与制の下で修習を行った弁護士の声を届けることができたのではないかと思います。ただし、貸与制の問題を司法修習と関連づけて議論することは、司法修習自体の問題にもなってしまうことから、今回の事前打ち合わせでは結論は出ませんでした。次回以降の事前打合せに期待します。
給費制対策本部会議
給費制対策本部会議は、TV会議を利用して、各地の委員も参加して、活発に議論が繰り広げられました。
まず、最高裁判所関係について、司法修習中の交通費・住居手当だけでも推進室に提案してもらえないかと、要望しているが、実際には厳しい状況であるとのことでした。というのも、67期司法修習生からは、経済的支援として移転費が支給されていますが、その予算を獲得するにあたり、財務省から相当厳しい注文があり、結果的に、最高裁が詰め腹を切らされるような事態になったからだそうです。
次に、自民党の動きとして、修習生に対する経済的支援についての提言が、平成26年7月末に出る予定でしたが、それが平成26年度末まで延期になりました。自民党内の文科部会で法科大学院の見直しPTが立ち上げられ、その中で法科大学院生に対する給付型奨学金を求めるなどの動きが起こっており、法科大学院制度の問題と給費制の問題とをセットで検討する必要があるためとのことでした。
給費制本部としては、予備試験、法科大学院ともに、最終的には司法修習に来るということ、法科大学院の問題とセットになると給費制の問題が後回しになるおそれが高いことから、法科大学院の問題と給費制問題がセットで論じられるのはおかしいという議論がされました。
今後、各地で市民集会が開催される予定ですが、自民党の修習生に対する経済的支援についての提言が平成26年度末に延期されたため、テーマやスローガンなどについてもその練り直しの必要性がでてきました。
おわりに
実際に会議に参加し、改めて、財務省のハードルの高さを痛感しました。給費制の問題は、予算措置を伴うことから、政治家や財務省を動かす必要がありますが、そのためには、市民集会などを通じ、国民の支持を得て、政治家に訴えかけていかなければなりません。
給費制問題の解決まで、まだまだ、先は長いですが、粘り強く取り組んでいきたいと思いました。
◆憲法リレーエッセイ◆ 集団的自衛権と憲法解釈
憲法リレーエッセイ
会 員 埋 田 昇 平(63期)
1 県弁総会での決議の採択
平成26年5月28日、福岡県弁護士会定期総会において、集団的自衛権の行使を可能とする内閣の憲法解釈変更に反対する決議が採択されました(賛成525票、反対1票、棄権2票)。
集団的自衛権とは、政府解釈によれば、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」とされています。
政府は現在、憲法改正という正攻法ではなく、これまでの政府の憲法解釈を変更する、という裏技で集団的自衛権の行使容認に踏み出そうとしています。福岡県弁護士会として、この政府の動きに反対の意思を明示しようというのが決議の趣旨です。
同趣旨の決議は、既に昨年5月に日弁連でも採択されていますし、各単位会においても決議の採択や声明の発表が行われています。
2 安全保障について議論することは必要
平成26年5月27日、政府は与党協議において、集団的自衛権の行使を容認しなければ適切に対処できないものとして、
- 周辺有事の際、邦人を輸送するアメリカの艦船を防護すること
- 周辺有事の際、攻撃を受けているアメリカの輸送艦や補給艦を防護すること
- 周辺有事の際、攻撃国に武器を運んでいる可能性がある不審船を強制的に停船させ検査すること
- 日本の上空を横切り、アメリカに向かう弾道ミサイルを迎撃すること
- 周辺有事の際、弾道ミサイルを警戒しているアメリカ艦船を防護すること
- アメリカ本土が大量破壊兵器で攻撃を受けた際に、日本周辺で対処するアメリカの輸送艦や補給艦を防護すること
- 海上交通路で武力攻撃が発生した際の国際的な機雷の掃海活動に参加すること
- 武力攻撃発生時に各国と共同で民間の船舶の護衛をすること
などのケースを挙げました。
(1)~(8)のようなケースで日本が積極的に実力行使に出るとなると、日本の負担が増加することは間違いないと思います。また、自衛の概念とかけ離れている印象も受けます。
もっとも、世界中でテロ行為や武力衝突が頻発しており、日本と周辺国の関係悪化も取り沙汰されているため、安全保障のあり方について、政策レベルでの議論はしっかりなされるべきだと思います。そして、この問題は、簡単に結論が出るものでもないと思います。
ただ、積極的に実力を行使する方向に舵を切っていけば、いずれ憲法との整合性が問題になってきます。
3 憲法9条との整合性の問題
日本国憲法9条は
「1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
と規定しています。集団的自衛権の行使は、国際紛争を解決する手段としての武力による威嚇、武力の行使に該当するでしょうし、法律家の立場からすれば、憲法9条をどのように解釈しようとも、集団的自衛権の行使は認められないという結論に至るはずです。
政府の行き過ぎた権力行使によって国民の人権を侵害しないよう、政府は憲法という法の支配を受けています。しかし、政府が解釈によって憲法の適用範囲を自由に変えられるということになれば、法の支配は形骸化してしまいます。
日本にとって望ましい安全保障体制については種々の意見がありうるとしても、弁護士会としては、政府が法の支配を潜脱することは許されない、ということをはっきりと述べる必要があり、その点で今回の決議の意義は大きいと思います。
「転ばぬ先の杖」(第6回)
月報記事
法律相談センター委員会委員 甲 木 真 哉(55期)
1 身近にある刑事事件
「刑事事件」というと、多くの皆さんは「自分には関係のない事件」「関係するとしても被害者側だろう」と思われるのではないでしょうか。
しかし、弁護士として法律相談を受けていると、対応を誤ると刑事事件になりかねないケースに当たることがしばしばあります。
そこで、今回の「転ばぬ先の杖」では、身近にあるトラブルで、対応を誤ると刑事事件になりかねないようなケースで、弁護士に相談・依頼したことで大きな問題とならずに解決した事例を、いくつか紹介したいと思います。
2 お酒に酔った上でのトラブル
飲食店などでお酒を飲み過ぎ、酔っ払って周りのお客さんや従業員とトラブルになる・・・。皆さんの周りでも、聞くことのある話ではないでしょうか。
しかし、そこで叩いたり蹴ったりしていれば暴行や傷害罪ということになりますし、物をわざと壊していれば器物損壊罪、相手を脅すようなことを行っていれば脅迫罪に当たります。
やった本人としては、酔っていてよく覚えていないこともあり、「飲みすぎて失敗してしまった」というぐらいの認識でしかなくても、被害を受けた側の受け止め方は全く違うかもしれません。
酔った上でのことではあるので、ちゃんと謝罪なり弁償なりがあれば許すつもりだが、何の音沙汰もないようであれば、警察に正式に被害届を出そう・・・そんな風に考えているかもしれません。
このような場合、早期に対応することが重要です。
実際の相談事例でも、早い段階で弁護士に相談をし、適切なアドバイスを受けて相談者本人が被害者に謝罪や被害弁償を行い、事なきを得たケースもありますし、記憶がほとんどないために本人では謝罪や弁償がしづらいケースで、弁護士が依頼を受けて被害者と示談交渉を行い、無事に示談が成立して刑事事件にはならなかったというケースもあります。
一方で、対応が遅くなって正式に被害届が出され、警察に逮捕された後に、当番弁護士という形で呼ばれたというケースも多いです。
逮捕された本人から話を聞くと、ちゃんと謝罪や被害弁償をしていればこうならなかったと思われるのに、それほどのことでもないと思って対応を怠ったために逮捕されてしまったというような話だったりします。
もちろん、逮捕された後でも、被害弁償を行って不起訴を目指すことができますが、一番いいのは刑事事件にならずに逮捕もされないことです。
何かトラブルを起こしてしまったというときは、早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。
3 わいせつ事件
強姦や強制わいせつなどの性犯罪は、処罰が重くなっている傾向にあります。
その意味でも性犯罪は重大事件なのですが、男性としては無理やりというつもりではなかったけれども、女性から見ると意に沿わずに性的なことをされてしまった・・・というような顔見知りや友人同士での関係で、性犯罪に問われる事例も少なくありません。
このようなケースは、対応を誤れば、よりシビアな状況になりかねません。
一方で、男性が直接被害者に接触を図ること自体、二次被害を生みかねませんので、きちんと対応をするためにも、第三者、できれば弁護士に間に入ってもらった上で、解決を図るのが望ましいと言えます。
男性側に無理やりしたという意識がなく(故意がなく)、厳密には強姦罪や強制わいせつ罪が成立しないというケースもあるわけですが、女性に対して大きな精神的損害を与えたことに違いはないですし、重大事件ですので刑事事件になったり逮捕されたりすること自体が大変なことです。
「こんなことで刑事事件になるはずがない」などとタカをくくらず、早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。
4 結語
早い段階で対応したために刑事事件にはならなかった、あるいは対応が後手に回ったために刑事事件になってしまった、というケースは、他にもたくさんあります。
自分は関係ない、自分の家族は関係ない、自分の周りの人間は関係ない・・・そんな風に決めつけずに、トラブルを起こしてしまい、不安が残るようであれば、まずは弁護士にご相談ください。
きっと、あなたの「不安」を「安心」に変えてくれるはずです。