福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2014年3月号 月報
ペットの慰謝料はいくらが妥当? ―ADRを活用しましょう
月報記事
会 員 永 尾 廣 久(26期)
ケース
留守のあいだ預けていたペットホテルの管理ミスから愛犬が外に飛び出し、道路上で車にはねられ、大ケガしてしまった。30万円ほどの治療費は負担してもらったが、愛犬は生死の境ををさまようほど重篤な症状になったのに、ペットホテル側から呈示された慰謝料が20万円とは余りに低額すぎる。納得いかないので、ADRを利用した。
このようなケースについて、私はADRの仲裁人となりました。
2回目で和解成立
和解が2回目で成立した要因を仲裁人の立場からあげると、
第一に、申立人の言い分を丁寧に聞いたこと。第二に、ペットに関する慰謝料について判例などの相場を確認し、このケースにあてはめて和解(仲裁)案を双方に事前に示したことにあります。
ADRが利用しやすいのは、期日を柔軟に入れることができることもあげられます。私自身は弁護士会でしかやったことはありませんが、場所も時間も関係者全員の合意さえあれば、自由に決めていいのです。
ペットの慰謝料の相場を調べるについては、まずは双方から手がかりとなるものを資料として提供してもらいました。そのうえで仲裁人としても調査して、具体的ケースを考えて和解案(30万円プラスアルファ)を呈示しました。
ちなみに、ペットの慰謝料は、かつては1万円からせいぜい5万円くらいに低額で固定していましたが、最近では死亡でなくても20~30万円とか100万円など、高額化しています。現代日本社会においてペットの地位が向上していることの反映だと思われます。
ADRを利用するメリット
本件は、双方の主張の開きが20万円程度でしかなかったのに、事件から既に2年たっていたというものです。このようなケースは本裁判にはなじみにくいし、期日などで融通のききやすいADRに向いた事案だったと思います。
申立人は弁護士を代理人につけていませんでした。そこで、仲裁人として、和解にあたっては申立手数料はともかく、成立手数料だけでも相手方負担として、申立人が和解に同意しやすいようにする工夫をしてみました。
現金はADRの席上、手渡しということにしたこともあります。これは債務名義をとっても履行されないことがある現実をふまえて、それよりも実効性のことを考えてのことです。ただし、本件は金額が小さく、ペットホテル側の資力に心配はないので、1週間以内に振り込み送金して支払うという条項にしました。