福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)
2014年3月号 月報
あさかぜ基金だより
月報記事
会 員 西 村 幸太郎(66期)
私の所属するあさかぜ基金法律事務所(以下では「当事務所」とさせて頂きます)は、法の支配を国民的に浸透させるという司法制度改革の趣旨に則り、弁護士過疎地にもあまねく法的サービスを行き届かせるため、弁護士過疎地での活躍を志す弁護士を養成する事務所です。2月1日に久留米で行われた「支部交流会」にお誘いを受けたのですが、当事務所のOB・OGも多数参加しており、弁護士過疎問題について当事務所の果たしている役割は大きいと感じました。
当事務所は、(1)(出張を含め)法律相談業務が多い、(2)そこから受任に至った事件(離婚や債務整理が多いように思います)が一定数ある、(3)事務所外の先生方からの紹介や共同受任という形で、様々な事件を経験させて頂いている、(4)純粋な業務の他に、月次会議、あさかぜ事務所会議、あさかぜ委員会などを通して、事務所運営のあり方についても考え、学ぶことができている、といった特徴のある事務所ではないかと感じております。もちろん、(5)既に過疎地に赴任された先輩方からの引き継ぎ事件もございますし、(6)私が弁護士登録してからの短い期間に、飛び込みで「相談したい」という連絡があり、受任にまで至るというケースも比較的多かったように思います。
以下では、上記(1)ないし(6)のいくつかについて、もう少し突っ込んでご紹介します。
(1)(6)法律相談について。記憶に新しい新人必修の集合研修では、「法律相談は全ての基本」と教えて頂きました。実際、短時間で的確に事案を把握し、次につなげるだけの法的アドバイスを適切に行うのは難しく、日々試行錯誤しております。過疎地赴任後は特に、どんな相談がこようとある程度の方向性を示すことのできる能力が絶対に必要ですので、赴任後も見据えて、1つ1つの相談に全力で向き合っていきたいと思っています。
(3)紹介・共同受任事件について。交通事故事件で、後遺障害認定の等級を争う異議申立ての事案がありますが、脳神経外科学の知見が必要で、現在、必死で勉強しております。大変ですが、弁護士がやらなければならないことの幅広さを実感させられました。
また、共有物分割事件について紹介を受け、私も関わらせて頂いております。現在積極的に活用することがすすめられている「早期事案説明期日」を経験できるなど、とても興味深い事件です。
この他にも、様々な先生のご協力のもとで、日々勉強させて頂いております。感謝の心を忘れず、事件については全力で取り組む所存でございます。
(4)あさかぜ事務所に関する各種会議について。当事務所の運営を考える会議では、「経営」のために気をつけなければならないことのレクチャーも受けながら、当事務所が存在する意義とは何かという根本まで遡って様々な議論を行っています。当事務所に関わる先生方が真剣に議論して下さっている様を見ていると、私も、事務所のあり方を真剣に考えるとともに、益々精進しなければと決意を新たにすることができます。
去る平成25年12月19日に弁護士登録し、瞬く間に時間が過ぎていっておりますが、今回、私なりに当事務所の特徴を、紹介させて頂きました。当事務所は、たくさんの人に支えられて成り立っております。今後とも、ご支援ご協力をお願いするとともに、月報の場ではございますが、この場を借りて感謝の意を示させて頂きます。
給費制本部だより ~1.30院内集会のご報告~
月報記事
会 員 清 田 美 喜(66期)
1.はじめに
去る1月30日、衆議院第二議員会館において、日弁連とビギナーズネット等との共催により、司法修習生に対する給費の実現と司法修習の充実に関する院内集会が行われました。
今回、給費制本部本部長代行の市丸信敏先生、同本部委員の髙木士郎先生と共に、高平奇恵先生の代理として、院内集会、日弁連での会議に出席し、福岡選出の議員との面談にも同席させていただきました。
登録したての新人にこのような機会を与えていただいたことに感謝しつつ、会員の先生方にご報告を申し上げます。
2.院内集会
院内集会には、衆参両院から62名(本人出席22名、代理出席40名)の議員が参加され、うち福岡県選出の議員は8名(本人出席4名、代理出席4名)の方が駆けつけてくださいました。また来賓として、日本医師会、日本公認会計士協会、環境に関する活動をされている市民団体からのご出席をいただくことができました。
挨拶をされた15名の国会議員の方全員が、若手法曹がスタート時点で多額の借金を背負っていることを問題視され、修習生への給費の復活ないし経済的支援を検討すべきであると発言されました。また多くの方が、議員立法で進めるべきであるとか、超党派で取り組むべきであるといった点にまで言及されていました。
中でも注目を集めたのは、自民党の保岡興治衆議院議員のご発言です。法務大臣経験者であり、司法制度改革を主導して来られた保岡議員は、従来は給費制の復活に反対の立場でした。しかし今回、修習生の地位を明確化して経済的支援をする必要がある、旅費や移転費の支給、入寮者数の増加、兼業禁止の緩和といった現在の対策では足りないと明言され、今後の議論に大きく影響を与える可能性があると感じられました。
来賓の方々からは、若手法曹が貸与金の返済に追われる事態を一刻も早く解消し、給費制に戻すべきであるというお言葉をいただきました。
日本医師会の横倉会長の代理として出席して頂いた今村副会長からは、国民のための高度の専門職としてのプロフェッションにとっては誇りをもって仕事に打ち込める環境、とくに経済的な裏付けが必要であり、経済的理由で若い人が法曹への道を諦めてしまうことは国家的損失であるとして、給費制復活を支持する意見を表明して頂きました(本月報にメッセージの全文を掲載させていただいておりますので、どうぞご覧ください)。日本公認会計士協会の山田副会長からは、当初は構成員の中から、修習生だけが給付を受けられるのは不公平であるという反対の声が上がったものの、会計士も法曹も同じ社会のインフラであって、その養成制度は若い人が目指すに足るようなものでなければならないとの共通認識を形成するに至り、団体署名に賛同したという経緯のご紹介がありました。意見対立を越えて支援を表明してくださったことに、感動を覚えました。
当事者である新65期、第66期の弁護士も、貸与制が修習や弁護士活動に及ぼす影響について実感を語り、一時間の予定の集会が一時間半に及んだにもかかわらず、最後まで多くの方が熱心に耳を傾けてくださいました。
このように、立場も、またときには意見も異にする多くの方々が、若手法曹の現状を問題であると捉え、その解決に向けて支援してくださっていること、その輪が目に見えて広がっていることを実感することのできた院内集会であったと思います。
当会会員の先生方の温かなご協力により、福岡県内各地からも多数の団体のご賛同をいただいております。今後ともご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
3.国会議員との面談
院内集会に先立ち、議員会館に国会議員を訪ね、面談をお願いしました。井上貴博衆議院議員(自民)はご本人とお話をすることができ、ご多忙中にもかかわらず30分ほど時間をとっていただきました。井上議員は、経済的に困窮した法曹が増加すると、反社会的勢力に取り込まれてしまうのではないかという危機感を持っておられ、私に貸与制下での修習について尋ねるなど、熱心に話を聞いてくださいました。
その他にも、麻生太郎衆議院議員を始めとする議員の方々を訪ね、政策秘書の方とお話をさせていただくことができました。
4.終わりに
これまで給費制存続のために尽力してこられた先輩方から、この問題は岩盤が固い、なかなか局面が変わらないという声を聞いてきました。しかし、今回初めて議員面談と院内集会に参加した私の目から見ても、議員の関心や、他の団体の賛同の声はこれまでになく高まっていることが感じられました。
これも、当会会員の先生方を始めとする先輩方が、我々若手法曹のおかれた窮状を理解し、法曹界の将来を憂いて、給費の実現のためにお力を貸してくださってきたおかげであると思います。
心より感謝を申し上げるとともに、引き続きのご支援をお願いして、私のご報告とさせていただきます。
司法修習生に対する給費の実現と司法修習の充実について考える集い 挨拶
月報記事
公益社団法人 日本医師会 会長 横 倉 義 武
本日はこのように国の司法制度の根幹に関わる重要な問題を考える集いにお声がけをいただき、誠にありがとうございます。私ども、日本医師会は、国民の生命と健康を預かる医師の専門学術団体であり、その代表として一言ご挨拶をさせていただきます。
私ども医師は、法律家、聖職者と並び、欧米ではオールド・プロフェッションとして認識され、その職務の専門性ゆえに、きわめて高い職業倫理とそれに基づく自律的な自浄機能を備えることが、当然に求められて参りました。その伝統はわが国においても同様であり、特に弁護士業務に関しては、日本弁護士連合会以下、全国の単位会を中心とした厳格な懲戒制度が運営されているとお聞きしております。細かい形式は異なりますが、私どもの医師会においても同様な取り組みを進めております。こうした活動は、専門職業に対する国民からの信頼を確固たるものとするうえでも、きわめて重要な活動であると認識しております。
このように高度な専門的な業務を担い、かつ自律的な職能集団を形成するためには、まずもってその構成員たるプロフェッションが誇りをもって仕事に打ち込める環境、特に経済的な裏付けが保証されていることが必要であります。今回、司法修習生に対する経済支援が貸与制となり、若き法律家の皆さん、あるいは永年努力を重ねて社会正義の実現をめざし司法試験に合格された皆さんが、この貸与資金の返済に追われなければならないという実態は一刻も早く解消し、給費制に戻すことが必要と考えます。また、そのような事態を予想して、将来有望な志願者の方々が早々に法曹への道を諦めてしまうという状況があるとすれば、それは明らかに国家にとっての損失というべきであります。
私ども医師は、日頃、法曹のお仕事とは必ずしも近い所にいるものではございませんが、等しく国民のかけがえのない財産である「人権」と「生命・健康」を守るという共通の使命をもった職能集団として、一言見解を述べさせていただきました。
本日の集会が実りあるものとなることをお祈りいたします。
平成26年1月30日
代読 副会長 今 村 聡
ホームページ委員会だより
月報記事
ホームページ委員会 副委員長 菅 藤 浩 三(47期)
平成25年6月に、総務省が平成25年1~3月の通信資料動向調査を発表しました。それによると、パソコンの保有率が3年前は85%だったのが75%に低下しているのに対し、スマホの保有率が2年前の10%から50%にまで急速な普及傾向を示しています。なお、タブレット端末の普及率はまだ15%ですから、これに比べるとスマホの勢いの凄さがお分かりでしょう。
ちなみに、固定電話の保有率は90%から80%と、パソコンと同じく下降傾向です。
つまり、ホームページはいまやスマホからブラウズされることを意識して作成しなければならない時代になってきています。
スマホからブラウズされるということは、パソコンの画面よりもぐっと小さい画面に情報が収められるため情報が横ではなく縦方向にスライドされる形で表示されること、指でタップやフリックしやすいようなバナーや操作ボタンを設定しておく必要があること、横方向だけでなく縦方向にローテイトしてもそれにあわせて表示できるようプログラミングしておくことなどが必要です。
そこで、福岡県弁護士会でも一般市民にスマホでブラウズしてもらうことを強く意識して、ホームページの内容でなくデザインを大幅にリビルドしました。
まず、ページ最上部に「法律相談のご案内」「弁護士会の活動」「弁護士会について」「読み物」という4つのメニューをならべ、その1つを指でタップすると8つくらいのメニューがずらりとならぶプルダウン方式を採用しました。
次に、最近はツイッターやフェイスブックによる拡散も無視できないので、ツイートボタンやいいね!ボタンを上部に設定しました。不特定の弁護士が書いた掲示板を読んだり書式をダウンロードするための弁護士会員専用のページログインボタンはそのいいね!ボタンの横に移っています。
それから、更新情報について、これまでは「弁護士会からのお知らせ」も「宣言・決議・声明」も単なる「更新情報」も一緒くたに並べられていたので、タブ方式に区分けすることにしました。
福岡県弁護士会がこれまで作成してきたCM群は左下のバナーボタンをタップするとみることができます。最近UPされた【戦う手】編はオシャレに作っていて好感が持てますよ。
そうそう、プルダウンメニューのすぐ下は、ライトなタッチの絵がジャバスクリプトで入れ替わる形になっています。
ぜひリビルドした福岡県弁護士会のウェブサイトを一度となく二度三度みていただき、さらによりよいウェブサイトへと改良するための忌憚なきご意見をお寄せいただくことをお待ちしております。
愛知県弁護士会サマースクール(平成25年8月6日・7日)視察の報告
月報記事
会 員 本 江 嘉 将(59期)
去る平成25年8月6日(火)、7日(水)の二日間、愛知県弁護士会主催のサマースクールに当会の法教育委員会委員として視察に行きました。充実した法教育への取組みは当会にとっても参考になる所が多いので、大変遅ればせながらご報告させていただきます。
1 第1日目午前は、「弁護士に挑戦!」を見学しました。弁護士と生徒チームのディベート大会です。私が見た中学生チームは「学校が中学生の携帯電話所持を禁止することの是非」について禁止反対派で、賛成派の弁護士との対決でした。生徒側の主張(プライベートの問題、緊急連絡のための必要性など)は鋭く、弁護士側から反論があっても、負けていませんでした。他の生徒チームによる審査結果は同点でしたが、様々な角度から意見を述べ合って、今まで気づいていなかった価値や弊害に気づいてもらえた、というイベントの趣旨がバッチリはまっていたようです。
2 その午後、「ティーンコート(@市政資料館)」を見学しました。生徒が、裁判官、検察官、弁護人のチームに分かれ、「子どもの処分は、子どもが決めるべき」というティーンコート(アメリカでは実際にある。)を開催しました。題材は、少年(中3)が同級生と犯した事後強盗事件で、動機や謝罪を拒否している事案でした。「何をどのように学んでもらうか」を裁判官が具体的に決めよう、という説明の下、各チームそれぞれの打ち合わせ後、生徒による共犯者証人尋問、少年本人質問が行われました。ポイントは、今後の少年にとってどのような処分が最も有益か、ということ。尋問後の合議で、少年は、裁判官の前で事件の経緯を親に説明する、被害者に謝罪に行く、部活動に復帰するよう努力するといったことを命じられました。コートに関わった生徒たちの個性が光る判断で、新鮮でした。
3 第2日目の刑事模擬裁判は、弁護士が役者になった模擬裁判を見て、生徒が、その有罪無罪、量刑を評議して決めるイベントでした。
開廷に先立ち、パワーポイントを使った事件の紹介がありました。被害者が自宅に放火された事件で、被告人は、被害者女性が被告人の交際相手(別れ話進行中)を匿ったことに腹を立てて犯行に及んだと思われる状況で、目撃者もいるが、アリバイ主張があり、現場の血痕でDNA鑑定結果も一致した、という事案です。開廷、冒頭陳述の後、被害者、目撃証人、被告人の順に尋問が行われました(役者は全員セリフ暗記!)。各尋問では、会場の参加生徒からの補充質問もあり、そのために隠し設定まで準備されていました。午後から、生徒5、6名のチーム毎、弁護士も入って評議がありました。結果が各チームから発表されると、有罪無罪がほぼ半々で、生徒達には十分に悩ましい事案だったことが分かりました。実務上は有罪になる確率が相当高いはずで、無罪推定の原則を教えられた生徒たちは無罪に傾きがち、ということを改めて感じました。
発表後のまとめでは「正解のない問題について考えるという経験をしてもらったことがとても大事」「モヤモヤしているかもしれないが、それが大事。君たちは一つ大人になった」と、総括されました。
4 二日間通じて、ベテランの先生方のリードと、若手のマンパワーが素晴らしく調和しているように感じました。各イベントの終了時に、必ず全生徒に名前入りの修了証を渡すなど、生徒たちが達成感を感じられるような配慮も素晴らしく、今後の当会法教育委員会活動の参考にしたいと思います。
視察を快く受け入れていただき、懇親会にも呼んでいただいた愛知県弁護士会法教育委員会の皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。
ペットの慰謝料はいくらが妥当? ―ADRを活用しましょう
月報記事
会 員 永 尾 廣 久(26期)
ケース
留守のあいだ預けていたペットホテルの管理ミスから愛犬が外に飛び出し、道路上で車にはねられ、大ケガしてしまった。30万円ほどの治療費は負担してもらったが、愛犬は生死の境ををさまようほど重篤な症状になったのに、ペットホテル側から呈示された慰謝料が20万円とは余りに低額すぎる。納得いかないので、ADRを利用した。
このようなケースについて、私はADRの仲裁人となりました。
2回目で和解成立
和解が2回目で成立した要因を仲裁人の立場からあげると、
第一に、申立人の言い分を丁寧に聞いたこと。第二に、ペットに関する慰謝料について判例などの相場を確認し、このケースにあてはめて和解(仲裁)案を双方に事前に示したことにあります。
ADRが利用しやすいのは、期日を柔軟に入れることができることもあげられます。私自身は弁護士会でしかやったことはありませんが、場所も時間も関係者全員の合意さえあれば、自由に決めていいのです。
ペットの慰謝料の相場を調べるについては、まずは双方から手がかりとなるものを資料として提供してもらいました。そのうえで仲裁人としても調査して、具体的ケースを考えて和解案(30万円プラスアルファ)を呈示しました。
ちなみに、ペットの慰謝料は、かつては1万円からせいぜい5万円くらいに低額で固定していましたが、最近では死亡でなくても20~30万円とか100万円など、高額化しています。現代日本社会においてペットの地位が向上していることの反映だと思われます。
ADRを利用するメリット
本件は、双方の主張の開きが20万円程度でしかなかったのに、事件から既に2年たっていたというものです。このようなケースは本裁判にはなじみにくいし、期日などで融通のききやすいADRに向いた事案だったと思います。
申立人は弁護士を代理人につけていませんでした。そこで、仲裁人として、和解にあたっては申立手数料はともかく、成立手数料だけでも相手方負担として、申立人が和解に同意しやすいようにする工夫をしてみました。
現金はADRの席上、手渡しということにしたこともあります。これは債務名義をとっても履行されないことがある現実をふまえて、それよりも実効性のことを考えてのことです。ただし、本件は金額が小さく、ペットホテル側の資力に心配はないので、1週間以内に振り込み送金して支払うという条項にしました。
◆憲法リレーエッセイ◆ じのーんちゅの憂鬱
憲法リレーエッセイ
会 員 天 久 泰(59期)
2014年2月1日に福岡市内で行われたある学習会で,「じのーんちゅの憂鬱」とのタイトルで講演をさせていただいた。講演の内容をダイジェストでご紹介し,エッセーに代えたい。
「じのーん」とは,沖縄の方言で「宜野湾」(ぎのわん)のことで,「ちゅ」は「人」。宜野湾は米軍普天間基地を抱える沖縄本島中部の市である。私の実家は普天間基地の滑走路から直線距離で数百メートル。弁護士になるまで宜野湾で育った私は,普天間基地をめぐって「じのーんちゅ」が抱く「憂鬱」は,概ね次のようなものと考える。
軍用機の騒音。墜落に対する恐怖感。米兵が起こす犯罪の理不尽さ。基地雇用や軍用地主という基地経済を巡る住民同士の意見対立。沖縄県外から(ときには県内でも),基地のそばで生活する苦しみや本当の望みを理解してもらえない。政治家は住民,県民のためを思ってくれているのか。何かにつけて問題がすりかえられてしまう。子,孫にこの状況を引き継がなければならないのか。戦争で苦しんだ祖父母,先祖に,きっと平和な島にすると誓ったはずなのに,変えられない無力感。いつになればこの憂鬱から逃れられるのか,という憂鬱感。
唐突だが,私は2004年に司法試験に合格した。その年の8月は,宜野湾市内にある沖縄国際大学の図書館で口述試験に向けて勉強を続けていた。8月13日の午後,大学に普天間基地所属のCH-53型輸送ヘリが墜落した。全長27m,重量10tの大型ヘリが。翌日イラクへ飛ぶ前の最終テスト飛行中の墜落。原因はピン1つの止め忘れという人為的ミス。担当整備士は,毎日17時間連続の勤務を強いられていた。事故時,私は散髪に行き図書館にいなかった。事故を知った私の妹は,私の携帯へ何度も電話をしていた。着信に気付いて大学へ向かうと,周辺道路は大渋滞となっていた。死者の出なかったことだけが救いといえる事故だった。
年間約3万回。普天間基地で軍用機が離着陸を行う回数である。2000年の日米合意では,「日本国内の米軍基地の安全基準と環境保護基準は,日本又はアメリカの国内基準のより厳しい方を適用する」とされた。その「厳しい方」の米国連邦航空法のクリアゾーン規制(滑走路の両端から900m以内には一切建物をあってはならない)に従えば,クリアゾーン内に小学校,児童センター,公民館,保育園,ガソリンスタンドのほか800戸の住宅がある普天間基地は,存在しえない飛行場となる。アメリカの基準ではヘリの旋回訓練は民間地上空では禁じられているが,普天間基地ではそれも守られていない。
宜野湾市の保管する宜野湾市史によれば,普天間基地のある場所は,戦前まで役所や畑がある土地であり,戦後,住民が土地を利用したくてもできなくなった。民間地の中に基地が一方的に居座っているのである。戦後,危険を承知で住民が基地に近づいていったなどという構図はない。
私の母の3人の姉は,沖縄戦の最中に栄養失調などで亡くなった。そのことを話題にすると,「いや,うちの身内にも特攻隊に行った人がいる。沖縄の人だけが被害を声高に叫ぶのはおかしい」と言われたこともある。私は被害自慢,不幸自慢がしたいのではなく,あの戦禍の直後,国民全体がハッと我に返り,心に深く刻んだものを思い出して欲しいと願うだけである。
在沖米軍普天間基地公式HPでは,普天間基地の任務は,「海兵隊総司令官からの指名によりその他の活動や部隊に施設を提供して地上軍支援の為に艦隊海兵部隊航空機運営の支援」を行うことと紹介されている。「海兵隊」とは,上陸作戦,即応展開などを担当する外征専門部隊であり,つまり海外へ行き,小規模紛争や人質奪還のため揚陸,急襲するいわば殴り込み部隊である。周辺国から見て,自国に揚陸,急襲される怖れは感じさせるだろうが,日本への攻撃を躊躇するという意味での抑止力たり得るのかと問いたい。
沖縄米兵少女暴行事(95年)を契機に,政府は最大7年内の普天間基地の全面返還を発表したが,その条件に代替施設としての滑走路を備えたヘリポートの建設を挙げ,97年には名護市辺野古沖が移設候補地とされた。97年には,名護市条例に基づく市民投票で基地建設に反対する票が半数を占めた。
2010年1月の名護市長選挙では辺野古基地建設反対派の稲嶺進氏が当選し,同年9月の名護市議会議員選挙でも反対派が多数になった。11月の沖縄県知事選挙では,再選された仲井真知事も普天間基地の県内移設反対を選挙公約にした。沖縄では,県知事・県議会・名護市長・名護市議会が一体となって,普天間基地の辺野古移設に反対する状況になった。2010年4月には9万人の県民が参加する「普天間飛行場の県内移設反対県民集会」,2012年9月にも10万人が参加する「オスプレイ配備に反対する県民大会」が開催された。
このような流れに逆らって,仲井間知事は2013年の暮れ,辺野古基地建設を容認した。私は,自分の口が開いたまま,このまま塞がらなくなるのではないかと思うほど呆れ,心配し,「憂鬱」の「憂鬱」たる所以を改めて思い知った。
沖縄の古い格言に,「ちゅんかい くるさってー にんだりーしが,ちゅんくるちぇー にんだらん」という言葉がある。直訳すると,「人に酷い目に合わされても眠れるが,人を酷い目に合わせたら眠れない」という意味である。自分の事以上に,人の事を思いやりなさいという教えである。宜野湾市民は,日本の国政,そして沖縄の県政における少数者である。名護市は人口,経済の面でより小規模であり,より少数者的な立場にある。普天間基地を名護に押しつければ,宜野湾市民は間違いなく眠れない。2014年1月19日の名護市長選で基地移設反対派の稲嶺市長が再選され,開いたままとなっていた私の口は少しだけ塞がった。
普天間基地の問題,ひいては基地の問題は,憲法問題,社会問題の縮図である。生命健康について幸福を追求する権利,平和的生存権,居住移転の自由,地方自治と公的交付金の関係性,地方と中央との差別,基地をめぐる利権と社会構造の是非,報道の社会的使命等々。原子力発電所誘致の問題と類似の構造も見える。
少数者の人権が保障されず,意見が最大限尊重されない社会に未来はないと思う。これからも「じのーんちゅ」として声をあげていきたい。
ITコラム パソコン自作のすすめ
月報記事
会 員 松 本 圭 司(55期)
私が使うデスクトップパソコンは、全て自分で作ったものです。といっても、そんなに難しい話ではなく、パーツを買ってきて、ドライバーで組み立て作業をやるだけです。
自作の一番のメリットは、本当に自分のニーズに合った無駄のないパソコンが手に入るということです。中には安上がりであることをメリットに挙げる人もいるかもしれませんが、私の作るパソコンにはあまり当てはまりません。確かに、同等スペックでの比較なら既製品より若干安くなりますが、私は、高級パーツで組むことに幸せを感じてしまう人間なので、大体いつもお財布に優しくないパソコンが出来上がります。
デメリットとしては、パソコンメーカーの保証がないので、故障したときは、自分で原因を突き止め、修理や部品交換をする必要があるという点です。でも、慣れてくると、どこが悪いのか何となく判断できるようになりますので、あまり気にしたことはないです。むしろ、最新のパーツに買い換える口実になるので、故障は楽しみ(?)の一つでもあります。
自作する上で最低限必要なパーツは、マザーボード、CPU、メモリ、ハードディスク、電源、ケースといったあたりです。以前は、複数のモニターを使ってマルチディスプレイにしたいときは、更にグラフィックボードを用意する必要がありましたが、最近では、CPU内蔵のグラフィック機能が優秀なため、必ずしも必要ありません。それから、パーツではありませんが、OSソフトを用意する必要があります。パーツと同時購入が条件となりますが、DSP版というのを買えば、かなり安く済みます。
マザーボードは、パーツを組み付ける基板です。対応するCPUが決まっており、規格の合ったものを購入する必要があります。
CPUは、計算処理を行うところで、頭脳にたとえられます。性能がよくないと仕事に時間が掛かることがあります。非常に壊れにくいパーツですが、私の場合、使用中に画面が固まる症状が出て取り替えた経験が一度だけあります。
メモリは、主記憶装置と呼ばれるもので、割と故障は少ないですが、静電気に弱く、起ち上げ後、すぐシャットダウンするようになった場合、メモリの故障が原因のことがあります。
ハードディスクは、データ等が保管されている記憶装置のことで、結構壊れやすいです。大体異音等の予兆がありますが、壊れなくても数年に一度は換装するのが望ましいです。ハードディスクの健康状態を調べるフリーソフトも出回っていますので、利用するとよいでしょう。最近は、起動用にSSDというものが用いられることが多くなりました。ハードディスクと比較して高価ですが、起ち上がりが驚くほど早くなります。起ち上がりが遅くて苛立つパソコンは、メーカー保証期間が過ぎたらSSDに換装するのをお勧めします。
電源は、滅多に壊れませんが、稼働中に壊れると、他のパーツも壊れる危険があるので、なるべく高くても信頼できるものがお勧めです。
ケースは、既製品にはない、カラフルでおしゃれなデザインのものがたくさん出回っています。自分だけのオリジナルのパソコンを作る上では、一番こだわるところかもしれません。
こういったパソコンのパーツを取り扱う店は、福岡にもありますが、正直ちょっと割高なので、私の場合、東京出張のついでに秋葉原の電気街に寄ったり、通販で購入したりしています。
パソコン自作は、趣味としても面白いと思いますし、パソコンの故障にうろたえなくて済むようになりますので、結構お勧めです。手始めに、既製のパソコンの部品の換装あたりから始めてみるというものいいのではないでしょうか。
「転ばぬ先の杖」(第3回) ~労働事件 事前に弁護士に相談していれば~
月報記事
会 員 三 浦 正 道(54期)
1 「転ばぬ先の杖」は、月報平成26年1月号から始まり、本号で第3回となりました。今回までは、広報委員会の担当者が執筆させていただきます。
2 私が所属する事務所では、企業から労働問題についてご相談を受ける機会が少なくありません。会員諸氏はよくご存じのことと思いますが、労働事件は、特に在職中の従業員とのトラブルの場合、現在進行形で事件が進むことが多く、問題が発生する前に、早期に弁護士に相談するのが好ましいと言えますが、やはり、問題が発生・拡大してからのご相談も少なくありません。
3 食料品の製造・販売を行っているA社は、事業所の1つにおいて、長期間勤務している事務の責任者Bが、恒常的に、一部の従業員に対して陰湿ないじめを行っており、そのために過去に数名の従業員が退職した程であったため、Bを、同一市内にある本社営業部に異動し、営業部門の社員の補助的な業務を命じました。また、上記異動と同時に、Bの給料を約5万円減額しました。上記異動後、Bは、暫くは勤務していましたが、体調不良を理由に欠勤するようになり、2か月ほど欠勤していたところ、配転命令の撤回、賃金差額及び慰謝料の支払を求めて労働審判を申し立ててきました。
A社は、この時点で、相談に来られました。
まず、A社の社長によると、他の従業員に対するBの陰湿ないじめは、多くの場合、言葉や態度によるものとのことでしたが、いつ、誰に対して、どのようないじめがなされたのかを、具体的に把握できていませんでした。
Bによるいじめを主たる理由として配転するのであれば、配転命令の効力が争われた時に備えて、いじめについての具体的な事実関係を把握するため、被害者・目撃者から十分に事情聴取し、それを証拠化しておくべきでした。早速、事業所でBによるいじめの被害を受けた従業員及び周囲の従業員から、いじめの内容について具体的な事実関係を聴取し、それを書面化してもらいました。その結果、十分と言えるかは微妙でしたが、複数人に対するいじめについての具体的な事実を把握することができました。
次に、給料の減額については、事業所の事務責任者としての手当を外したのみならず、基本給にも及んでいました。A社の賃金規程には、基本給の減額についての規定はありませんでした。基本給の減額については、撤回を検討することとなりました。
更に、就業規則上、私傷病による1か月の欠勤により、休職を命じる旨の規定がありましたが、A社は、Bに対し、診断書の提出を求めることもせず、また休職を命じることもせずに、欠勤を放置したままでした。
そこで、直ちに、Bから診断書を徴求し、そのうえで、休職を命ずる辞令を出しました。
労働審判では、A社からの提案もあり、BがA社を退職する方向で話しが進み、結局、基本給の減額分の差額賃金及び解決金の支払と引き換えに、BがA社を退職する内容で調停が成立し、終了しました。
4 企業の人事・労務担当者には、弁護士に相談すべき事項を的確に把握しておられる方も多く、就業規則の改訂、問題となりそうな配転命令、メンタル疾患の従業員への対応、懲戒処分、解雇、有期契約労働者の雇留め等の際には、事前にご相談に来られることが少なくありません。企業が事前に弁護士に相談し、アドバイスを受けることにより、適法かつ適切な雇用管理を行うことができ、その結果、労働者の権利も守られるのです。
また、上記事案のBは、弁護士を付けずに労働審判を申し立てました。本人申立の割に、申立書の体裁は整っていましたが(何らかの士業の方が作成したもののように見受けられました)、内容的には不十分なものでしたし、法廷での審判委員会との遣り取はおぼつかない様子でした。特に、Bが、争点と関係のない事実について延々と喋るなどしたためか、審判委員会の理解も得にくかったように見受けられました。やはり、労働審判事件では、労働者側も、弁護士の代理人が不可欠であると考えた次第です。