福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2013年10月号 月報
「労働の規制緩和が日本を壊す!?」 シンポジウムのご報告
月報記事
会 員 國 府 朋 江(65期)
平成25年8月30日(金)に、「労働の規制緩和が日本を壊す!?」というシンポジウムが行われましたので、ご報告いたします。
1 基調講演
まず、早稲田大学の遠藤美奈教授(専攻は憲法)から憲法25条と労働の規制緩和というタイトルの基調講演がありました。
憲法25条は、社会保障諸給付の水準・内容、所得税の課税最低限等を画する権利としての規律であるとともに、26条以下の社会権規定の総則です。したがって、憲法の労働権規定を通じて、「健康で文化的な最低限度の生活」が労働生活においても実現されなければなりません。
生存権は、「健康で文化的な最低限度の生活」を確保することを規定しているにも関わらず、貧困率の高さや生活意識別世帯割合において「大変苦しい」「苦しい」と答えた人が合計6割に上る現代においては、逆に「生存」に足りる程度にまで、生活が切り詰められているという課題があります。
非正規社員や派遣労働が増加している中で、今後は、労働者の生命・健康のより手厚い保護、意に反する非正規就労の極小化を目指し、学者と弁護士が協同することにより、政策への憲法的価値の反映と訴訟の可能性の検討を行う必要がある、として基調講演は締めくくられました。
2 パネルディスカッション
パネルディスカッションは、遠藤先生、九州大学の笠木映里准教授(専攻は社会保障法)、自治労福岡県本部の黒岩正治さんをパネラー、井下顕弁護士をコーディネーターとして行われました。
笠木先生からは、90年代半ばからの規制改革によって、非正規労働者が増加し、ワーキングプアの問題や、労働者の二極化の問題が生じてきたが、日本では、職場の人間関係・コミュニケーション構築が容易でないことから、メンタルの問題や、セクハラ・パワハラ問題が顕在化してきたこと、日本の雇用制度がこれまで社会保障制度の不十分さを補ってきたが、非正規労働者の増加に伴い、問題が露呈したといった影響が生じたという点が指摘されました。更に、比較法的な観点から、フランスでは、職場の人間関係については、安全衛生委員会という職場の中にある機関が大きな権限を持っており、従業員代表として問題のある職場環境については使用者に対して権限を行使していることや、EUでは「フレキシキュリティ政策」という政策が実行されており、規制緩和によって柔軟な労働市場が実現されているけれど、手厚い失業補償と積極的労働市場政策(教育訓練等)により、労働者が労働市場に戻ることが容易になっている、ということが報告されました。
黒岩さんからは、公務員バッシングがあるが、現場の公務員は、自治体による予算の使い道について知らされないままに、公務員の給料だけが取り出されてバッシングされているように思う、生活保護担当の職員は、行政の側の人間として、対応を厳しくしなければならないが、目の前にいるのは市民であるという板挟みから、メンタルな問題で休職・入院する人が5%程度いること、貧困層を減少させ、地域経済を活性化させるためにも、公契約条例の制定が必要とされていること、といった、現場の実情が報告されました。
3 まとめ
このシンポジウムでは、労働環境の現状、生活保護制度の現状を確認した上で、今後、憲法25条が労働生活においても具体化された社会を築くために、何ができるのかということが、憲法の理念、諸外国の制度、公務員の視点から、多角的に検討され、とても内容の凝縮されたもので、とても勉強になりました。講師・パネリストの先生方、ありがとうございました。