福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2013年7月 1日
◆憲法リレーエッセイ◆ 第9回市民のための憲法講座についてのご報告
憲法リレーエッセイ
会 員 田 中 文(65期)
1. 概要
平成25年5月25日(土)、筑後部会では第9回市民のための憲法講座を開催しました。テーマを「憲法改正要件と国防軍」と設定し、筑後部会の若手弁護士6名が、便宜的に護憲派3名と改憲派3名に分かれて討論を行うという形式で、私もパネリストの一人として参加させていただきました。安倍首相が憲法96条に定める憲法改正発議要件を緩和する旨の憲法改正を訴えており、非常にタイムリーな話題ということもあるためか、当日は開場前から筑後弁護士会館を訪れる人もあり、4階の大会議室は盛況のにぎわいでした。
2. 討論の内容
(1) 改憲要件緩
改憲要件の緩和につき、まず改憲派が、現行憲法のデメリットとして、国民投票をするための要件が厳しすぎるために現行憲法には国民の意思が反映できず、憲法制定時に想定していなかった現代の諸問題(主として新しい人権を想定)に対応できないこと、諸外国では憲法改正の実績が少なからずあること等を挙げたのに対し、護憲派は、立憲主義の観点から改憲要件を緩和すべきでないこと、新しい人権を個別具体的に憲法に記載する必要はないこと、諸外国と比較して日本国憲法だけ改憲要件が厳しいということはないこと等を述べて反論しました。
(2) 国防軍創設
続いて国防軍の創設につき、改憲派が、韓国・ロシアなどとの領土問題や北朝鮮の核開発の脅威などに対応するため、国際的なテロから邦人を守るため、そして国際平和活動に積極的に参加するためにも国防軍の創設が必要であり、なおかつ国防軍として憲法に明記することでシビリアンコントロールを浸透させることができると主張しました。これに対して護憲派は、自衛隊を合憲とする立場と違憲とする立場の二手にさらに分かれ、前者は国防軍を創設するまでもなく自衛隊により現状の諸問題には対応可能であるとし、後者は武力をもって武力を制しようとすること、武力によって平和を実現しようとすることの非現実性、矛盾を考えるべきであると反論しました。
(3) 雑感
討論の始まりこそ粛々とした雰囲気だったのですが、パネリストが芝居っ気を発揮して会場の笑いをとる場面もあり、あるいは舌鋒鋭く相手方を挑発するシーンでは会場から声が飛ぶなど、パネリストと会場との一体感のある討論をすることが出来たように思います。
3. おわりに
改憲要件の緩和をめぐる討論の中で、改憲派が、国民投票において投票しなかった人は憲法改正についての意見を表明する権利を放棄したものと扱えば、国民投票の投票率が低くとも国民の意思を反映したことになるという主張をしたのに対し、護憲派は、権利の放棄などというのは結局フィクションであると反論しました。
実際に憲法改正のための国民投票が行われた場合、どれほどの投票率になるのかは分かりません。けれども、昨今の選挙における低迷した投票率をみれば、国民投票の持つ重要性が、投票に行くインセンティブになるという点については、極めて消極的に考えるべきだと思います。そして、現実に首相が憲法改正を目指している現在、何もしなければ現状の投票率は変わりません。しかし今回の憲法講座の開催が、我が身を含め、少しでも有権者の間での憲法改正をめぐる議論を促すことにつながったのであれば、小さいけれども重要な一助になったのではないかなと感じました。