福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2013年4月 1日
◆憲法リレーエッセイ◆
憲法リレーエッセイ
会 員 梅 津 奈穂子(59期)
皆様にクイズです。
(1) 尖閣諸島は日本古来の領土ですか?
(2) では、古来とはいつからですか?
(3) 米国地名委員会(その決定に大統領が関与する程の連邦の機関)の見解では、竹島は日本領ですか、韓国領ですか?
(4) 日本はサンフランシスコ平和条約で千島列島を放棄しましたが、吉田首相が同条約締結の前日に行った演説は、択捉、国後が千島列島に含まれることを前提にしていましたか、どうですか?
(5) 尖閣諸島、竹島、北方領土で軍事紛争が生じた場合、米軍は日本側に立って戦いますか?
元外務省国際情報局長、元防衛大教授である孫崎亨氏の講演は、このようなドキッとする質問の連発から始まった。平成25年3月1日都久志会館で開催された講演会である。孫崎氏のツイッターのフォロアーも大勢参加され、120名の会場はほぼ満席。チラシに「先着順」とあったため、下関から駆け付け1時間以上も前から並んで下さった方もいた。
元外交官ならではの、事実や条約に裏付けられた緻密かつ説得力ある話にグイグイと引き込まれ、講演は寝る暇もなく進行していく。
さて、冒頭のクイズの答え。(1)いいえ、(2)1872年以降、(3)韓国領、(4)前提にしていた、(5)日本側には立たない。
この答えを驚かずに受け止められる人はどのくらいいるだろうか。少なくとも不勉強な私にとってはどれも衝撃であった。これまでマスコミの報道を何の疑念も抱かず鵜呑みにしていたのである。
「尖閣も竹島も日本古来の領土である。不法な領土侵略に対しては『断固とした姿勢』を!」と声高に叫ばれるようになって久しい。昨今の情勢は、漠然とした不安をリアルな危機感に変えていく。「断固とした姿勢を!」そう唱える人々の心底には、領土紛争が生じたら日米安保条約に基づき米軍が加勢してくれるという算用も少なからず働いているだろう。知らないということはなんと恐ろしいことか。
一方で、日米安保が役に立たないならば日本も独自の国防軍を!と極端に走るのもまたしかり。中国経済が圧倒的な力を持つようになった今日、日本がいかに軍事に予算を割こうとも、その勝敗は明らかである。領土問題解決の現実的な選択肢は平和的解決以外に有り得ない。事実や数字を知れば知るほどその答えは説得力を持つ。そして、「領土を捨て、欧州での影響力の拡大を図った」ドイツの方策が、平和的解決のひとつの方向性として示される。
孫崎氏の話は、原発問題やTPPにまで及ぶ。
(6) 東日本大震災より6年以上前の衆議院予算委員会公聴会で、津波に起因する炉心溶解の危険性について警告がなされていた。ホントかウソか?
(7) TPP参加により、国民健康保険が潰されるおそれが生じる。ホントかウソか?
(6)(7)いずれも本当の話である。そして、領土とTPPという一見無関係に思える問題が、「米国の思惑」というキーワードで繋がっていく。その陰にマスコミの情報操作あり・・・。
少しずつ背筋が寒くなっていく。北朝鮮や中国のような報道統制は決して他人事ではなかったのだ。
孫崎氏は、御著「これから世界はどうなるか」の中で、「正しい情報は存在するのです。しかし、よほど真剣に探さないと見つかりません。」と語る。情報に対し受け身になるのではなく、能動的にその真偽を検証していく姿勢が不可欠となろう。