福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2012年10月号 月報
日弁連人権擁護大会プレシンポジウム「「自死」をなくすために~自死を防ぐための気づき・つなぎ・見守りとは何かを考える~」のご報告
月報記事
会 員 疋 田 陽太郎(61期)
1 はじめに
去る平成24年9月3日、福岡市天神にあるレソラ天神5階「夢天神ホール」において、「「自死」をなくすために~自死を防ぐための気づき・つなぎ・見守りとは何かを考える~」と題して、日弁連人権擁護大会のプレシンポジウムが開催されました。
全国の自殺者が毎年3万人を超える状況が続く中、日弁連は、自殺問題を強いられた死「自死」の問題と位置づけて、自死予防への本格的な取組みを行っています。本プレシンポジウムは、その取組みの一環として、福岡県弁護士会が主催し、日弁連との共催の下、福岡県・福岡市・北九州市・福岡県社会福祉会・福岡県臨床心理士会・福岡県司法書士会・福岡県精神保健福祉士協会・福岡県医療ソーシャルワーカー協会の各後援を受けて、自死予防の問題を、専門家や遺族のみならず、一般市民も交えて考えようという趣旨で実施されました。
2 基調講演
まず、橋山吉統副会長から開会の挨拶がなされた後、長崎こども・女性・障害支援センター所長で精神科医の大塚俊弘氏による基調講演が行われました。
講演では、冒頭、わが国で自死が多い背景に、自死やその要因が不名誉なものであるという誤った社会通念があるとの問題認識が示され、誤った社会通念からの脱却の必要性が訴えられました。その後、長崎県における自死の統計の報告、負債や過労等自死の背景となる原因についての説明、うつ病の発症機序や、心理的視野狭窄から自死に至る過程についての分かり易い解説が行われました。「自殺を試みた人で本当に死にたいと思っている人は誰1人いない」、「皆、家族に迷惑をかけたくない、家族が悲しむのはわかっているが他に方法がない」、「判断能力が通常ではなくなり、行動が思考とつながらなくなる」といったお話は大変印象に残りました。
続いて、長崎県が取り組む自死対策事業の実施状況の報告として、「ゲートキーパー」の養成活動の紹介等が行われました。「ゲートキーパー」とは自殺のハイリスク者に対する早期対応の中心的役割を果たす人材のことで、自死リスクを抱える人に気づき、その人に正確な情報をさりげなく伝えて、専門機関への確実な紹介につなぐ役割を果たすことが期待されます。長崎県では、医師や保健師、弁護士等の専門家にとどまらず、八百屋さんや床屋さん、スナックのママさん、さらには学生までをも「ゲートキーパー」として養成しているそうです。長崎県の裾野の広い自死対策は大変興味深いものでした。
3 パネル・ディスカッション
休憩の後は、基調講演をされた大塚俊弘氏、福岡いのちの電話副理事長で司祭の濱生正直氏、福岡大学病院精神科の医師・衞藤暢明氏、リメンバー福岡自死遺族の集い代表・小早川慶次氏をパネリストとして、宇治野みさゑ会員がコーディネーターとなり、パネル・ディスカッションが行われました。
パネル・ディスカッションでは、濱生正直氏から、ある少女の自殺をきっかけにチャド・バラ牧師が「いのちの電話」を設立したという経緯や、相手の話を聞き共感するという電話相談の考え方のお話などがあり、続いて、小早川慶次氏から、リメンバー福岡自死遺族の集いの活動内容の報告が行われ、さらに衞藤暢明氏から、救命救急センターに運ばれた自殺未遂者に対する精神的アプローチや自殺の再企図を防ぐための社会的サポート導入の取組み等の報告が行われました。
その後は、各パネリストの経験を踏まえた深く活発な議論が展開され、小早川慶次氏が自死遺族となった体験談など非常に印象的なお話も拝聴いたしました。また、衞藤暢明氏から、医師が用いる自殺の危険因子の英語頭文字を用いたSAD PERSONSスケールの解説がなされました。性別や年齢、うつ状態、アルコール・薬物の乱用といった自殺の危険因子を意識しておくことは、法律相談に臨むうえでも重要であると感じました。
4 おわりに
自死問題は非常に重く、難しいテーマですが、本プレシンポジウムには多数の一般市民の方々も参加しており、その関心の高さがうかがえました。大変有意義なプレシンポジウムでした。