福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2012年7月号 月報
純真短期大学で模擬裁判をしてきました
月報記事
会 員 梅 野 晃 平(62期)
第1 はじめに
本年の4月16日、23日に、向原栄大朗弁護士とともに、純真短期大学に赴いて模擬裁判を行いました。今回は、そのご報告です。
第2 事案の概要
事案を簡単にご説明しますと、犯人が民家に押し入って現金やCD等を強取した強盗致傷事件で、被告人が犯人性を争っているという事案です。
証拠関係としては、(1)被害品と「同じタイトルの」CDが被告人宅から発見、(2)被害者宅の鍵付きタンスにバールのようなものでつけられたと思しき傷があるところ、バールが被告人宅から発見(被告人は、内装工事のバイトをしていたため所持していたと説明)、(3)共犯者の証言あり(ただし、真の共犯者を秘匿している可能性が疑われないでもない)、(4)目撃者の証言あり(ただし、観察条件は必ずしも良くない)等々、もりだくさんの内容となっています。
第3 講義の流れ
1日目は、まず、刑事裁判の流れを説明し、その後、あらかじめ決めていた配役に従い、冒頭手続及び証拠調べ手続を行います。
2日目は、『証拠の分析をしてみよう!』というワークシートに従い、検察官グループと弁護人グループでそれぞれ証拠の証明力などについて検討を行い、その結果を発表します(論告・弁論に相当するものです。)。
これを聞いて、裁判官(裁判員)グループが議論し、犯人性の有無について結論を出すという流れです。
第4 講義の感想と、気になった点
当初、受講生の反応があまりみられなかったため、どうなることかと心配したのですが、徐々に打ち解けてきて、終わってみると、なかなか良かったという感想です。
とくに、証拠の分析については、回答例として想定していた要素はほとんど出揃い、的確な分析がなされていました。
大学で学生向けに講義をするというのは初めての経験でしたので、無事に終えることができて、心底ホッとしています。
ただ、やってみていろいろと思うところもありましたので、そのあたりについても少しご報告させていただきます。
1 弁護士という職についていると、つい忘れがちになりますが、法律や裁判というのは、一般の学生・生徒の多くにとって、たいして興味のある分野ではありません。
今回はなんとかなりましたが、受講生の知的好奇心を刺激する切り口や、受講生を議論に積極的にコミットさせる工夫については、改善すべき余地が大いにあると思いました。
2 また、講義の「獲得目標」を明確にする必要があったように思います。
法律家が伝えるべきことというのは、「ものごとの見え方というのは、見る人、立場、状況などによって変わるものであり、ある側面から見た見え方のみが唯一正しいと考えるのは妥当でない」というような根本的なことであったり、「逮捕されたときにどういう権利があるか」というようなお役立ち情報であったり、「刑事裁判が社会でどのような役割を果たしているのか」といった社会学的なことであったりと、それこそ山のようにあると思いますが、実際問題、90分2コマで伝えられることは限られています。
模擬裁判をし、刑事裁判の流れを一から十まで説明し、その根底にある法の考え方を理解してもらい、ちょっとしたお役立ち情報も盛り込み......としていると、時間がいくらあっても足りませんし、無理に詰め込もうとすると、駆け足すぎて記憶に残らないということになりかねません(大学に入学したころの我が身を振り返れば、わずか3時間でこれらをすべて理解するのはまず無理です。)。
「この講義では、このことを理解してほしい」という「獲得目標」(学校教育風にいうと、「めあて」)を絞って、それにリソースをつぎ込むようにした方がよいと思いました。
3 そのほか、根本的な話になりますが、時間的制約との関係で、「模擬裁判をやること」の意義も考えた方が良いように思いました。
刑事裁判の流れを説明するだけであれば、教材DVDなどを使いつつ、ときおり弁護士が補足して説明するようにした方が、短時間で効果的にできるようにも思います。
また、模擬裁判では、証人役、被告人役などのロールプレイを行うため、その役割をうまくこなす(間違えないように台本を読み上げる)ことに気を取られ、考えることが二の次になる弊害があるように思います。
模擬裁判をすると、どうしてもそれなりの時間を要します。
「模擬裁判をやること」自体が目的であればそれでよいのですが、模擬裁判が、それを通じて法教育的な何かを伝えようという「手段」なのであれば、模擬裁判をやることが本当に手段として適切なのかを考える必要があると思います。
第5 最後に
いろいろと出すぎた話をしてしまいましたが、私自身としては、総じていい経験になったと思っています。
皆様も、一度やってみてはいかがでしょうか。