福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2011年10月号 月報

ジュニア・ロースクール2011

月報記事

法教育委員会委員
横 山 令 一(60期)

去る平成23年8月20日、法教育委員会は、西南学院大学法科大学院の施設をお借りして、ジュニア・ロースクールという企画を実施いたしました。この企画は、具体的な事案についての議論を通して法教育に親しみをもっていただくことを目的として、中学生・高校生を対象に実施しているもので、今年で福岡市内での開催は3回目となります。今回は、50名を超える受講生の方々にご参加いただき、中には県外から参加された方もいらっしゃいました。
今回の題材は、法教育センターの教材「ホークスファンじゃなきゃ働けない!?」(福岡県弁護士会ホームページ掲載)を3時間30分の授業時間に合わせて改変したもので、福岡ソフトバンクホークスのファン向けの架空の居酒屋で起こった、労働に関する問題を扱いました。1問目は、店長が従業員を雇い入れる際にホークスのファンであることを条件とすることは許されるか、2問目は、店長が他の球団のファンであることが発覚した従業員を解雇することは許されるか、という問題でした。
各事例は、受講生の方々に親しみをもっていただけるよう、弁護士が寸劇を演じて紹介しました。人気芸人の名前を捩った役名を用いたり、応援グッズを用意してホークスのファンになりきったり、実在の選手の名を台詞の中に散りばめたりと、随所に工夫が凝らされていました。このこともあってか、引率の保護者の方からは寸劇が効果的とのご意見をいただきました。受講生の方々からも、面白かったとの感想が多く寄せられ、逆に事案が難解との感想はほとんどみられませんでした。
続いて、受講生が9つの班に分かれ、班ごとに議論が行われました。前半は、店長側又は従業員側のうち予め指定された立場での言い分の議論がなされました。また、後半は、両方の立場の受講生が混ざるように班を入れ替えたうえで、各自が妥当と考える結論についての議論がなされました。各班には弁護士が付き添って、議論の焦点や法的根拠について助言をしておりました。私がその中のある班を担当したところ、日常の授業とは環境が異なるためか、受講生の方々が緊張している様子であったので、積極的に受講生を誘導して意見を引き出すように努めました。かといって、弁護士が答えを教えるのでは議論をする意味がないので、あくまで思考を引き出す程度の助言にとどめておくのが最も効果的なのだろうと思われた次第です。
それぞれの議論の後、各班の代表者による議論の結果の発表がなされました。特に、前半の議論の結果の発表は、異なる立場からの意見が聞けるという点で受講生にとって刺激になったようで、後半の議論の中で各自の意見の形成に影響した例も散見されました。
最後に弁護士が事例の解説をして、閉校となりました。その解説の中では、当事者間の利害や意見の対立を調整するという法律の役割や、相手方当事者のみならず背後にいる他者の立場も考慮するという私的紛争の解決の心構えが説かれました。この、他の立場の意見を踏まえるという思考は、受講生の方々からいただいた感想の中で、難しいと思った点・悩んだ点として挙げられるとともに、その思考を経験できたことが良かった点として挙げられておりました。このような、法的思考の要点に触れられた感想から、受講生の方々の法教育に対する意識の高さを感じ取った次第です。
この企画を機に、受講した方々がより法律学に対する関心を高め、より多くの方が法曹を志すに至れば幸いであるとともに、是非とも来年度以降もこの企画が続けられることを願う次第です。
末筆ながら、会場の提供等、多大なるご支援をくださった西南学院大学法科大学院の皆様方に、厚く御礼を申し上げます。
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紛争解決センター便り

月報記事

紛争解決センター仲裁人
山 内 良 輝(43期)

1 兄の責任、兄の懊悩
「また、夏彦が会社の金に手を付けたのか。」
兄の春助は、弟の夏彦の出鱈目な生活振りに翻弄され、疲れ果てていた。パチンコ好きの夏彦は、何度も勤務先の公金に手を付け、その度に律儀な春助がその穴埋めをしてきた。
今回は、勤務先の飲食店の売上金200万円を持ち逃げして、姿を消した。春助は、社長に被害弁償を申し出たが、社長は横領金全額の弁償を要求した。春助は60万円しか用意できず、話合いが行き詰まっていた。春助は、たまたま聞いた弁護士会の紛争解決センターの扉を叩いた。

2 第1回斡旋期日(平成22年10月7日)
斡旋担当の弁護士は、喋る黒猫を飼っているという。クロネコ弁護士は、春助と社長からそれぞれ事情を聞いて、考えた。「春助の手許には60万円しかない。60万円を頭金として、残金を分割という手もあるが、その後の履行過程でトラブルが再燃するかもしれない。紛争の全面解決を期するならば、春助に100万円を用意させて、一括払いで決着を付けよう。」
春助は、足りない40万円を親戚から借りることで斡旋案に同意し、社長も40万円を上積みする春助の誠意を認めて斡旋案に同意した。次回は示談成立の予定となった。

3 第2回斡旋期日(同年11月24日)
示談斡旋は決して順風満帆には行かない。春助に付き添ってきた親戚が「横領金が200万円だという確かな証拠があるのか?」と言い出した。クロネコ弁護士は親戚に説明した。「社長が水増し請求をするならば、それは許されないことであるが、示談斡旋は裁判とは違うので、あまり証拠を厳格に求めると、相手も引くに引けなくなり、200万円の半額でよいという譲歩ができなくなる。私が社長の話を聞く限り、一日の売上高や売上原価等の関係から、夏彦さんの在職期間中に200万円の穴が空いたという話には合理性がある。どうしてもと言うことであれば、日計表を社長に提出させるが、年内の決着は無理であろう。」その上で、親戚と社長を直接対面させて、社長の人柄を親戚に見てもらった。親戚は、誠実そうな社長の人柄を認めて、言い分をひっこめた。「12月29日限り100万円の一括払い」という示談が成立し、その支払もぴしゃっと行われた(と思う、何も言ってこないのだから)。

4 雑感
クロネコ弁護士とは、もちろん私のことである。私は交通事故紛争処理センターの示談斡旋を担当していたこともあり、示談斡旋の難しさを常々感じる。それは、情と理のバランスの上に成り立つ制度である。今回は情に重きを置いて解決を図ってみたが、本当にこれでよかったのかと思うことも毎回の常である。春助が懊悩から解放されますように。
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