福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2011年8月号 月報

法教育委員会

月報記事

会 員 菅 藤 浩 三(47期)

約1か月半前の5月21日に開催した法教育研究会では、新聞メディアの取材を受けながら、修猷館高校で実施した福岡県弁法教育委員会開発の新教材の感触や改良点を、教師側・弁護士側という立場から検証しました。 今回は、北九州市のひびき高校で、教師独力で、弁護士の力を借りずに、日本における死刑制度の存廃に関する授業を実施したという報告をもとに、授業の際に生徒が示した反応と弁護士が関与することで授業内容をどう改良できるかについて検討しました。
例えば、教師がオフィシャルに入手できる資料の1つに死刑制度の存廃に関するそれぞれの主張の対照表があるにはあるそうですが、その対照表では意見の相違が、刑罰の本質に関するものなのか、死刑執行の方法に関する非難なのか、誤判のおそれにウェイトを置くからなのか、釈放無き終身刑を採用することと極刑とはいえ時間をかけず贖罪させることとの価値相対なのか、要するに倫理の問題か手続の問題か、近代刑法における刑罰の目的の問題かそれらが意識して整理されて対照されるとは言い難いという問題をはらんでいるようです。どうも対照表の作成者が死刑制度の存廃の論点を正確に意識しないまま作成しているようだと弁護士側から指摘したところ、当該教師からやはりそういう視点は弁護士でなければ適切に生徒に授業で提示できないと感心されました。
社会の授業でとりあげる司法の領域に関連して、現代社会の教科書で太字キーワードになっている「罪刑法定主義」や「適正手続の保障」についても、教師から、なぜそれらの原理が大事なものと扱われるべきなのかを生徒にピンとくる形で教えることが容易でないので弁護士からのサジェスチョンを請いたいとの提案があったのに対し、弁護士からは違法収集証拠排除法則の事例などを用いるやり方を紹介したり、さらに、立憲主義の歴史的背景を踏まえて『目的は手段を正当化する、目的のためには手段を選ばない』マキャベリズムが世上まれに横行することの危険にも発展させて生徒と一緒に考えていく授業の進め方を提案しました。
もちろん研究会ですから、教師が質問者・弁護士が回答者という場面ばかりではありません。今夏、西南学院大学LSの教室を借りて行うジュニアロースクールの教材の中身や進行方法も課題にあがったのですが、教育界では当たり前となっているアイスブレーキング(会議やセミナーや体験学習でのグループワークなどの前に、初対面の参加者同士の抵抗感を無くす為に行われる、コミュニケーション促進のために、つかみのゲームなどを行うこと)の利用も教えてもらいました。 改めて法教育を実践していくにあたり、法律家が教育者から学ぶことは接する機会を重ねる中でまだまだたくさんあることを痛感した、お互いにとって非常に有意義な研究会でした。次回研究会は9月17日(土)午後3時から福岡県弁の本庁会館2階で行われます。
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