福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2011年2月号 月報
月報2月号福岡県弁護士会会長日記
月報記事
会 長 市 丸 信 敏(35期)
◆ランナー1月12日、平成23年度の当会役員選挙の立候補受付が閉め切られ、会長・副会長や常議員の候補者が出そろいました。現執行部のメンバーにとっては、スムーズに後任者が決まってくれるのか、実は昨年の晩秋の頃からの大きな関心事となっており(およそ11ヶ月前、「後任者が決まらなければ留任だ」とか、「それぞれの後任者探しが副会長の最大の仕事だ」などと、冗談ともつかないような引き継ぎを受けた記憶が消えません!)、それだけに、年が明けて次年度の役員候補者が無事に出そろったこと、これによって、いよいよ自分たちの任期明けも間近に迫ってきたのだとの実感が湧いてきたことに、現執行部の各人それぞれが、ジワッと喜びを噛み締めておるところです。その次年度会長予定者からは、「地域司法計画の実現と、さらなる人権擁護活動を!」という立派な所信も配布されました。多くの会員がご存知のとおり高い理念・見識と若々しい行動力を兼ね備えておられる会員であるだけに、この困難な時代の船長を託するにまさに打って付けの方が名乗りをあげて頂いたと、心から敬意を表するとともに、大変頼もしく思っております。現執行部としても、残る力を振り絞って、今年度内に片づけるべきことに精力を傾注し、また、遺漏なき引継に向けての準備作業に努めたいと思います。ついでながら、福岡ほどの大規模会でありながら、そして、現に多士済々の会員が数多おられながら、昨今のように会執行部の担い手の確保に毎年難儀するというのは、いささか口惜しくも思われます。もっとも、年々歳々増大する一方の会務、他方で厳しさを増す業務環境といった事情を反映してか、役員のなり手の確保に困難を伴っているのは全国的に共通のようです。東京3会や大阪などのように、会内にいくつもの会派(派閥)を抱えているところにあってさえも、役員のなり手を確保するため、そして多大な犠牲に対するいくらかの補償として、正副会長に多少の給与を支払っている会がこのところさらに増加傾向にあるようです。当会でも今後の課題として検討してみる価値はありそうです。
◆歴史から学ぶ弁護士魂今年度の研修委員会の研修改革に向けての取り組みには誠にめざましいものがあります。大量入会者時代に対応すべく、昨年度の池永執行部が取り組んで布石し、今年度から実施された新人会員に対する主任指導弁護士制度や、とりわけ「新人ゼミ」(昨年5月から12月まで毎月実施(試行))は大変好評なようです。但し、講師を務めて頂いた会員の皆さんには、毎月の創意工夫に満ちた事前準備や、熱のこもった指導、そしてゼミ後の懇親会までを含めてのお世話を頂き、そのご負担は大変なものであったと察します。毎月各班から上がってくるゼミ実施報告書やレジュメなどを拝見していますと、この内容、この講師であれば、自分も是非話しを聞きたい、勉強させて貰いたいとの衝動に駆られることも度々でした。講師陣の会員、そして班の世話役の研修委員の皆さまに、この場を借りて厚く感謝申し上げます。この新人ゼミは、バージョンアップを図りながら次年度以降も継続することが期待されます。実は、新人研修に関するもう一つの大きな改革に、入会(登録)後の集合研修(今年は1/27・28予定)があります。新人を対象に、弁護士会のことや、弁護士倫理のこと等について丸2日間をかけて講義を行うもので、永年にわたって行われてきたものです。今年度は、新任の橋本千尋研修委員長の陣頭指揮のもと、文字通り研修委員会の総力を傾けてその刷新が図られました。委員の精魂を込めた共同執筆でできあがった「新規登録弁護士等研修 集合研修テキスト」は、わが国弁護士制度の歴史や当会の歴史を俯瞰し、弁護士自治の意義・根拠、司法改革の歴史などを、コンパクトながらもコラムを織り交ぜることによって具体的、そして如実に描き出したものです。このテキスト、そして、豪華講師陣によって、じっくりと、熱く、弁護士会、弁護士自治、司法改革の意義や歴史が伝えられる予定です。これによって新人の皆さんが、福岡県弁護士会の会員としての誇りと精神に触れ、これをそれぞれの心に刻み込む契機になることを願います。また、このテキストは、新人のみならず、既存の会員にとっても貴重で、面白い読み物です。全会員に配布を致したいと思いますので、司法改革に際して「陽は西から昇る」と形容された当会の奮闘の歴史を再確認するためのバイブルとして、是非、ご一読を乞う次第です。
◆専門性3題・ 専門研修21世紀のあるべき法化社会を実現するため、社会の潜在的な法的ニーズの掘り起こしを含めて「社会生活上の医師」としての弁護士の使命を果たすため、ひいて、弁護士として生き残っていくために、専門性を高めることは不可欠と思料します。研修はその中心手段として重要です。当会(研修委員会や各委員会)や日弁連、法務研究財団などが企画・開催する各種の実務研修・専門研修は、ご承知のとおり、近年めざましく充実してきておりますが、会館が古くて手狭なために、研修会に定員を設けるなど、会員の皆さまにご迷惑をお掛けしておりますことをお詫び致します。他面、もったいないことに、折角の貴重な研修が案外閑散としており残念なことも少なくありません。研修案内にアンテナを張って頂ければ幸いです。・ 専門認定・登録積年の課題ですが、日弁連や当会(業務委員会)では、専門認定・登録制度の研究・検討が続けられております。いろいろと困難な点、解決すべき課題は少なくないように見受けられますが、ニーズに的確に応えるべく、ユーザーからみた専門家集団としての在り方という見地に鑑みると、やはり断固たる決意でその方向を目指して前進してゆくべきものと思料します。ちなみに、1月18日には、この問題の第一人者である武士俣敦教授(福岡大学)を招いての勉強会が当会で開かれ、諸外国の歴史と実情を教えて頂くなどしました。専門性の認定・登録制度は、例えばイギリスでは、1983年の精神衛生法制定に伴って最初のスペシャリストパネルができたとの事実(但し、法律扶助制度と一体として)や、教授の見解では、世界的には、専門認定制度は経済的魅力に乏しい分野(換言すると、ごく一般の市民が直面するがあまり経済的ではない法的分野。刑事法、家族法、移民法など)で法律扶助と密接に関連して成立している傾向にあるとの指摘や、完全なものを作ろうとせず、できるところから始めようとの問題提起は、刑事被疑者(当番弁護士)、少年保護付添、精神保健、生活保護、高齢者・障害者、精神保健など、権利擁護活動の場面において全国をリードしてきた当会に身を置く私にとっては示唆的でした。わが国においても、法律扶助制度が飛躍的に充実されてゆくには、これら権利擁護活動の全国的拡充、それを下支えするための精通化(専門化)のための努力が一体として必要・有益なのだろうと感じた次第です。・ 相談の減少・無料化傾向目下、法テラスが問題提起した「初期相談」構想(無資力であるか否かを問わず、初回の法テラス相談を無料とする制度の創設)を巡って論議がされています。その多方面への影響は大きく、いち早く反対の意見を表明した会もあります。もっとも、その制度構想の内容自体が必ずしも煮詰まってはおらず、また多額の国家予算を要することであって、容易に実現することではなく、日弁連では冷静かつ慎重に対応をしておるところです。他方、全国の弁護士会の法律相談センターは、この数年来、相談件数の減少に悩み続けて、相談センター存続の危機に瀕した会もあります。当会でも昨年度よりも今年度と、さらに減少傾向が顕著になっております。その打開策として、一部では、相談センターの相談を全面的に無料化して沢山の相談を呼び込むようにしてはどうか、という議論もあるようです。その是非については色々な指摘があり得ることかと思いますが、私見では、相談センターが無料化に踏み切るということは(上記の初期相談も同様ですが)、個々の会員の相談業務に対する大きな圧力(相談料を貰いにくくなる、相談がセンターに流れる等)になる事象であり、もしそれを実施するとすれば、それを是とする会員のコンセンサスと客観情勢が備わることが前提となるのではないか(従って、無料化に踏み切るには相応の時間を要する)との視点も忘れてはならないのではないかと考えます。むしろ、個々の会員の業務における対策と同様に、相談センターとしても、専門性をより高め、顧客満足度をさらに高める工夫を重ねながら、潜在的なニーズを深く掘り起こし、また、新たな分野を切り開いて行く、そうしてリピーター(ないしファン=紹介者)を増やしていく等、地道な努力の積み重ねをもってこの難局を乗り切るよう進むべきではないのだろうかと愚考する次第です。
◆「必要とされるときの弁護士」昨年末、福岡市で一般社団法人・福岡成年後見センター「あさひ」が発足しました。代表理事は宇治野みさゑ会員(福岡部会)で、医師、精神保健福祉士などの多分野の専門家を糾合した組織として、認知症となった高齢者や知的障害者などを施設での相談会や成年後見事務で支援しようというものです。この団体で特筆すべきは、宇治野会員の、当会の精神保健相談活動を中核メンバーとして支えて来て頂いたという経歴や経験に由来すると思われますが、精神障害者の支援も明確に意識されている点にあります。弁護士会として、人権擁護ないし権利擁護活動や業務開拓の一環として別団体を組織して活動を広げることの有益性は感じても、現実問題としては弁護士会が団体を設立してまで活動することには困難を伴います。従って、上記のように、会員個人が率先して組織を作り、多方面で活躍されることは今後益々増えて来ることが期待されます。県内では、成年後見事務を担う団体として、つとに北九州市の一般社団法人北九州成年後見センター「みると」(代表理事・中野昌治会員(北九州部会)が広く活躍中ですし、また、消費者問題の分野では、NPO法人「消費者支援機構福岡」が存し、すでに当会の沢山の会員もメンバーとして関わっています。さらに、子どもの虐待問題については、当会の子どもの権利委員会のメンバーが参画してNPO法人を設立して「子どものシェルター」(虐待を受けた子どもの緊急避難施設)を設置・運営する取り組みの準備が目下進行中です。まさに、「社会生活上の医師」、「必要とされるときの弁護士」たらんとして、これら困難な分野に果敢に挑戦される会員・団体の活動に、ご理解とご支援・ご協力をお寄せ頂きたく、よろしくお願いします。