福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2010年12月 1日

◆憲法リレーエッセイ◆ 「労働」にもっと敬意を

憲法リレーエッセイ

会 員 木 佳世子(54期)

8月末、日弁連貧困問題対策本部デンマーク調査団に参加してきました。目的はフレキシブルな労働市場・手厚い失業保険制度・積極的労働市場政策によるフレキシキュリティの実情などの視察でした。日程の都合上、前半だけしか参加できませんでしたが、感じたことを書きます。人間にとって働くことは他者から必要とされることによる自己の価値の確認をもたらす、人間の尊厳に直結する非常に重要な営みだと思います。その働くことがデンマークでは非常に大切にされています。よく解雇自由が強調されますが、労働組合の組織率は7割で、労使が社会的パートナーとして国を作ってきた歴史の重みから存在感が大きく、不当解雇には組合が黙っておらず実際には好きなように解雇がなされているということは全くないようです(ただし経営上の理由による解雇は緩やかな印象は受けましたが。)。解雇されても失業保険が2年間あり、安心感につながっています。印象に残っているのは「生産学校」です。デンマークでは職業につくには受けてきた職業教育と資格が重視されるので、教育が非常に重要ですが、やりたいことが分からないとか、非現実的な夢を見たりして教育から離れてしまう若者もいます。そのような若者(16~25歳)にやりたいこと、やれることを見つけ再度教育ルートに乗ることを促すのが生産学校です。日本のフリースクールのような感じで金属加工、木工、調理、ウェブデザイン、被服、保育、軽音楽などの実習が行われていましたが、生産物は製品として販売され、生徒にはそれなりに生活費として役立つ程度の賃金が支払われます。ただし、あくまでも教育なので成果ではなく人格的発達に重きをおいているということでした。生徒たちには正規のルートから外れたコンプレックスなど全く感じられない笑顔がみられました。なお、正規の職業学校でも座学と実習を繰り返すのですが生徒たちには「働いているので」賃金が支払われます。子どもであっても訓練中でも「働けば賃金が支払われる」、それだけ労働に対する敬意が払われていること、使用者側も良質な労働力を使うコストとしての職業訓練・社会保障の負担をきちんと負っていることが印象に残りました。「もう来んでいいけ。」と即日解雇された人や、暮らしていけない賃金しかもらっていない相談者・依頼者の姿が浮かびました。勤労の権利と義務がわざわざ憲法に定められている日本。労働に対してもっと敬意が払われてもいいのでは、と思った視察でした。
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「精神科医療を動かすもの‥『社会的入院』の解消に何が必要か」~精神保健当番弁護士制度発足17周年記念シンポジウム~

月報記事

精神保健委員会 委員 野 中 貞 祐(57期)

1 10月18日、午後1時より、天神ビル11階会議室において、 精神保健当番弁護士制度発足17周年記念シンポジウム「精神科医療を動かすもの‥『社会的入院』の解消に何が必要か」が開催されました。  当日は、法曹関係者、医療関係者、福祉関係者、当事者等約130人の方に参加頂き、事前に用意していた席数が足りなくなるほどの盛況ぶりでした。

2 司会を務めた当会の吉武みゆき会員の進行に従い、まず、当会の市丸会長の開会の辞、続いて九州弁護士会連合会の当山理事長の来賓挨拶がありました。 いずれも当会が全国に先駆けて実施してきた精神保健当番弁護士制度につき、その意義、重要性及び今後の全国への発展等を祈念するすばらしい内容のものでした。

3 その後、九州大学大学院法学研究院助教の内山真由美さん、大阪精神障害者連絡会の塚本正治さん、医療法人卯の会新垣病院院長の新垣元さん、厚生労働省精神障害保健課課長補佐の川島邦裕さん、福岡県精神保健福祉センター所長下野正健さんから、それぞれ講演を頂きました。諸外国との比較による我が国の精神医療の立ち後れのシンボル的数値である「精神病床数33万床余り、平均在院期間約350日」という数字を中心にして、それぞれの講演者が自己の見解を示して、社会的入院につき特色のある講演をして頂きました。特に塚本さんと新垣さん、川島さんとでは見解が分かれ、非常に興味深い内容となりました。

4 講演に続いて、コーディネイターとして当会の八尋光秀会員を迎え、上記5名の講演者をパネラーとしてパネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションは、まず、各パネラーが講演で言い足りなかったことなどを5分程度で補足する発言を行ったうえで、事前に会場から集めた質問をコーディネイターが集約して、各パネラーに発言を求めるという形をとって進行しました。ここでも塚本さんと、新垣さん、川島さんとでは見解が鋭く対立し、非常に盛り上がりをみせました。精神障害者が退院をしたくても家を借りられないから結局退院できないという極めて現実的な問題につき、なぜ、行政がもっと力を貸してくれないのかという塚本さんの訴えに対しては、会場からも大きな共感がわき、それに関連して活発な発言が会場から起こりました。それらを巧みに集約しつつ進行する八尋会員のコーディネイトにより、家主はなぜ精神障害者に対して賃貸するのをいやがるのか、保証人に対してはどの範囲につき保証をして欲しいと考えているのかなどについて、しだいに議論が深まっていきました。また、県営住宅における精神障害者の受入れが進まないことについては、この問題について、当会が弁護士会としてどのような活動をしているのかという質問が会場から出され、当会の森豊会員(現精神保健委員会委員長)や宇治野みさゑ会員(前精神保健委員会委員長)が回答するなどして、議論は大いに盛り上がりました。もっとも、議論が際限なく発展する様相を見せると、八尋会員が巧みに集約し、パネルディスカッションは、当初の予定どおり4時45分ころ終了しました。パネルディスカッションは、コーディネイターが議論を集約するという形で終了する予定でしたが、それに加え、パネラーの塚本さんが「檻の庵」という歌を歌うというサプライズ演出がありました。私は、少しもの悲しい「檻の庵」という歌の歌詞の中で、30年間精神科病院に閉じこめられた人の時代認識の象徴として用いられていた「100円札でおつりをくれる駄菓子屋」というフレーズがとても耳に残りました。

5 シンポジウムは、当会の森会員の閉会の辞で終了し、その後は、懇親会に席を移しました。懇親会では、シンポジウムで鋭く見解が対立した方々もうち解けた雰囲気となり、とても楽しい時間を過ごすことができました。

6 本シンポジウムは、前回の平成21年2月28日のシンポジウム以来、約2年ぶりのものであり、開始前には、参加者がどれくらい集まるか心配していました。しかし、当日は、約130名もの方に参加を頂き、大成功に終わりました。これは、森豊委員長をはじめ、シンポ実行に携わった精神保健委員会委員の努力と、コーディネイターをつとめて頂いた八尋会員及び各講演者(パネラー)が、そもそも社会的入院という言葉を使うかどうかという基本的なところから打ち合わせを重ね、問題意識を共有したうえでシンポジウムに臨んだという各位の尽力の賜物といえるでしょう。

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