福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2010年9月号 月報
スマイル~精神保健当番弁護士(1)
月報記事
会員 篠 原 一 明(61期)
1 はじめに
はじめまして、登録1年目の弁護士の太田圭一と申します。
今年の3月に、サポートの先生に同行して頂き、精神保健当番弁護士として、出動しましたので、ご報告させていただきます。
2 出動に当たって
今年の2月に、精神保健当番研修を受けて、1ヶ月もしないくらいに、事務所に出動要請のFAXが届きました。
登録間もない時期で、本当に自分が出動して大丈夫なのか不安に思ったりもしましたが、サポートの先生がおられたため、安心して入院先の病院に向かうことができました。
ただ、全く何の準備もなく、本人との面談に臨むのはまずいと思い、研修の際に頂いた「精神保健当番弁護ハンドブック」に一通り目を通してから、面談に臨みました。面談の際の注意点や、入院制度や精神病についての基礎がとてもわかりやすく書かれていたため、とても勉強になりました。
3 相談者との面談
相談者の言い分は、「もう何年も、入院させられているから、そろそろ出たい。」、「月に一回外泊が認められているが、今までに何の問題も起こしたことがなく、外に出ても、自分でしっかりと生活できる。」というものでした。
私が相談者と話した感じでは、相談者の話が前後したり、問に答えられていなかったりしたことや、若干状況を認識することができておらず、安易かつ楽観的に考えている傾向が強く、本当に一人暮らしができるのだろうかと不安に思いました。
しかし、サポートの先生は、この相談者は、まだ判断能力がしっかりしている方であり、自分が審査委員であれば、迷わず退院の意見を出すと仰っていました。
今までに、いわゆる精神病に罹患されている方と接する機会がほとんどなかったため、本当に入院が必要な患者と、そうでない患者の区別が全くつかず、自分の社会経験のなさを痛感させられました。
4 意見聴取
退院請求に対する審査に先立ち、相談者と担当医への意見聴取が行なわれ、私も立ち会いました。
相談者は、私との面談のときと同じように、審査委員にも今まで外泊の際に問題を起こしたことがないことなどを一生懸命訴えていました。それに対して、審査委員の方は、相談者の意見を穏やかに聞きながらも、所々、突っ込んだ質問をして、相談者が社会のなかで、一人で生活していけるかどうかを見極めておられる様子でした。
また、担当医は、とても冷静に相談者の病状を把握されている様子でした。相談者の病状が快方に向かっているからといって決して油断することなく、かといって入院の必要性を強調されることもなく、相談者の普段の態度等も考慮にいれたうえで、相談者の病状と自傷・他害の危険性の有無、判断能力について意見を述べられていました。
5 意見書提出、審査結果
審査会が迫っていたため、意見聴取後すぐに追加の意見書を起案しました。意見書の概略は、「自傷・他害の危険性のある精神病に罹患しているとはいえない」、「自分の弱点に気がついており、それを改善しようと努力しているうえ、現在のところ改善傾向にある。」といったものでした。
社会復帰に向けた相談者の熱意が審査委員に伝わったためか、審査結果は、3ヶ月を目処に任意入院に切り換えるのを相当とするといったものでした。
この原稿を書いている現在、相談者は、無事に病院を退院され、念願の一人暮らしを始めています。
6 おわりに
今回の相談者は、もともと入院の必要があったかどうかも微妙な方であったため、結果としては、退院請求は認められました。
しかし、自分一人で十分な事情聴取ができたか、精神保健当番弁護士に必要な基本的な知識が身についているか、相談者に親身になって寄り添った活動ができたかというと、必ずしも十分ではなかったかも知れません。
今回の反省を活かし、普段からしっかりとした事情聴取を行なうように心がけ、未知の分野にも興味を持ち学習し、次に精神保健当番弁護士として出動する際には、相談者の希望を最大限実現させることができるような活動ができればと思います。