福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)
2010年5月号 月報
少年付添人日誌
月報記事
会員 篠 原 一 明(61期)
1 少年からの手紙
先日、自分が付添人として審判を担当した少年からの手紙が届きました。私は、弁護士業務をはじめて1年半、今まで5件の少年事件を担当しました。しかし、事件が「終わって」少年から手紙をもらうのは初めてでした。私は、内心「先生、あのときはお世話になりました。」という手紙かな?と期待したのですが、開けてみると内容は、「被害者に謝りたい」「手紙を出したいが連絡を取れないだろうか」というものでした。少年の手紙には、「反省」「後悔」「償い」の文字が何度も並べられ、負のエネルギーに充ち満ちていました。
2 事件の記憶
この少年は、私が付添人を担当し、初めて少年院送致処分になった子でした。 事件は、少年が、元妻とその友達に対し暴力を振るって軽傷を負わせたという事案でした。私には、少年が、事件当初から真摯に反省しているように思え、この過ちで少年院に行かなくてはならないような子ではないように思えました。
しかし、少年には「前科」があるからなのか、調査官の少年の処遇に関する見解は最初から厳しいものでした。調査官は、面談で、少年に対し、「どうして少年院に行くのがそんなに嫌なの?」とまで言っていました。私は、少年から調査官のこの言葉を聞いて「この調査官はバカなのか?」と腹が立ちましたが、感情的になって調査官と必要以上に対立し、調査官を自己の意見に固執させてはいけないと思い、「少年も充分反省しているみたいですし、暴力沙汰での家裁送致は初めてですから…」と努めておだやかに調査官に訴えました。しかし、調査官の「少年院行き」の「信念」は固く、途中、「先生、用件はこのお電話で伺いますけど?」と言われたこともありました(しつこいのが嫌われただけかもしれません)。 被害弁償も試みましたが被害者から拒否されたので、私を通じて謝罪の手紙を受け取ってもらうのが精一杯でした。一方で、少年は、住み込みでの仕事を始めたばかりでしたので、仕事と身元引受人は、何とかなりました。私は、住み込みの仕事で環境が変わること、仕事場の上司が少年を指導監督すると誓約してくれていること、粗暴犯での家裁送致がはじめてであることなど、若干寂しい手持ちの武器を駆使して少年の保護観察処分を主張しました。
しかし、結局は自分の付添人としての力不足で、調査官の「信念」を全く揺るがすことができず、少年は、そのまま少年院送致にされてしまったのでした。審判の日、私に泣きながら「ありがとうございました」と言う少年を思い出すと、今でも心が痛みます。
3 手紙への返事
自分は、弁護士業務を始めてもう1年半が過ぎましたが、日々の業務の中で、昔の事件のことを忘れるようになってしまっています。もちろん、弁護士業務は、ストレスの大きい仕事でもあると思いますので、「忘れる」ことも重要なのでしょうが…「少年のなかでは、事件は終わっていない。」自分は、手紙を受け取ったとき安易に事件が「終わった」ものと判断した自分の事件に対する認識の甘さに、戒めを受けたような気がしました
今思い返すと、この少年にはもっとできることがあったような気がします。確かに、それで、少年院送致を免れていたかどうかは分かりません。しかし、この少年の手紙からは、あの事件から「上向き」になっている少年の姿を想像することができません。あのとき、この少年に、どんな言葉をどんなことをしてあげていれば良かったのか。そして、今、この少年にどんな言葉をかけてあげれば良いのか…まだ、手紙の返事は出せていません。
◆憲法リレーエッセイ◆ ―憲法劇を続けて20年―
憲法リレーエッセイ
会員 古 閑 敬 仁(43期)
今年も劇団ひまわり一座による憲法劇が5月2日、少年科学文化会館で行なわれ、数百人の観客を集め、大成功を収めた(はずです。この原稿を書いたときは、まだ4月だから‥) 私は、弁護士1年目から劇団ひまわり一座に入って、毎年、5月の憲法記念日前後に憲法劇に参加しております。
ところで、この劇団ひまわり一座による憲法劇は20年以上も続いています。憲法劇が20年以上も続いているのは、もちろん「憲法改正反対」というテーマが重要で、参加者の多くがそれに賛同してきたからであることは間違いありません。
しかし、それだけで同じ団体が、毎年ゴールデンウィークの忙しい時期に20年も続けてこれるわけはありませんし、毎年300名以上のお客さんを呼べるわけありません。
何故、続けられたか‥私は、出演者も観客も、みんなが「演劇」自体を楽しんでいるからだと思います。
憲法問題というとやはり硬いイメージがあって、一般の市民の方に「憲法問題について考えよう」という催し物をしても、最初から関心や問題意識がある人は参加されますが、そうでない方の参加はなかなか難しいのが現実です。
また、若い人たちには、憲法問題が難しく思えるだけでなく、言葉自体が分からない人も多くなっているようです。大学生に「ホシュ」とか「カクシン」とか、さらには「ゴケン」といっても、「?」という反応が返ってくることがあります。
そこで、「憲法劇」なんです。演劇であれば、とっつきやすいし、「楽しいお芝居があるから見に来ないか?」「僕も出ているから、冷やかしに来てくれ」といって、憲法問題に興味のない人にも観劇を勧めます。そして、見に来てもらって、少しでも憲法問題に関心もってもらったり、考えるきっかけになるのではないでしょうか。実際、私の母や友人たちも、私が出演しているので、毎年見に来てくれ、見終わった感想で「こんな問題もあったんだ」といってくれています。
と、偉そうなことを書きましたが、実際には、劇団ひまわり一座も壁にぶつかっています。 ひとつは、観客が毎年300人以上はいるのですが、固定客が多く、いまひとつ市民への広がりが足りないことと、観客も劇団員も高齢化が進んでいることです。
特に、高齢化はここ数年の課題です。憲法問題は、これからの日本をどうするのかということであり、若い世代にいかにして、憲法のことを考えてもらうかが重要だと思うのです。
で、劇団ひまわり一座としては、劇団員に若い人を増やし、若い観客を引きつけようと思っているのですが、実際にはなかなか、若い弁護士の参加が少ないのが現状です。若い弁護士が増えているのに何故なんでしょうか。演劇に参加すると、裁判員裁判のスキルアップにもなる…かもです。
そこの、君、ぜひ劇団ひまわり一座に入って、明日のスターを目指さないか!!