福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2009年9月号 月報
高校生の熱き闘い! 「高校生模擬裁判選手権九州大会」
月報記事
法教育委員会
柏熊 志薫(60期)
平成21年8月8日、福岡地方裁判所において「高校生模擬裁判選手権九州大会」が実施されました。
1 大会の意義・狙い
この大会は、高校生が、1つの事件を素材に法律実務家の支援を受けながら、検察チーム、弁護チームを作り、高校生自身の発想で争点を見つけ出し、整理し、法廷で冒頭陳述、証人尋問・被告人質問、論告・弁論を行うものです。刑事法廷で要求される最低限のルールに則り、参加各校の生徒が検察側と弁護側に分かれて知力を尽くして闘う経験を通じて、物事のとらえ方やそれを表現する方法を学び、刑事手続の意味や刑事裁判の原則を理解することを狙いとしています。
選手権そのものは2年前から関東大会、関西大会が行われており、今年で3回目となりました。日弁連が単独で主催してきたのですが、今年は裁判所と検察庁の共催によって、裁判所の法廷を実際に使った臨場感あふれる大会となりました。 九州大会は今年初めての実施となり、福岡県立福岡高校、福岡県立小倉高校、久留米大学附設高校、佐賀県立佐賀西高校の4校が出場しました。
2 事案の概要と争点
事案は、正月、かねてからの知り合いであった被害者が被告人宅に新年の挨拶に来ていたところ、被害者が酔った勢いで自慢話を執拗に繰り広げたことが原因で口論となり、被害者の「撃てるなら撃ってみろ。」という挑発に耐えかねて、被告人が別の部屋から散弾銃を持ち出して引き金を引き、弾を被害者の肩に当てて傷害を負わせたという殺人未遂被告事件です。
本件では殺意の有無が争点となりました。被告人は散弾銃に弾が入っていることがわかっていて被害者を殺害するために敢えて発砲したというのが検察官の主張です。これに対して、被告人・弁護人側は、普段は猟銃を厳重に管理して弾を抜いて安全装置も確認していたのに、今回はその確認をうっかり忘れていたのであり誤射であると主張しました。
3 高校生の迫力あるエネルギッシュな論戦!!
出場選手の高校生は、みんな、大きな声ではっきりとわかりやすい言葉を使って尋問、弁論等を行っていました。緊張していたと思いますが、そのような素振りは全く見せずに堂々と落ち着いた闘いぶりで本当に頼もしいものがありました。
印象的な場面の1つとして、弁護チームが、被告人質問の際に被告人役の生徒に犯行を再現させるところがありました。散弾銃の模型を被告人に持たせて、通常の構え方と、今回被害者に発砲したときの持ち方を比較するという手法です。普段は両手で構えて肩で銃をしっかりと支えて照準を合わせていたのに対して、事件当時は片手で腕を伸ばした状態で持っていました。本当に殺意があったのだとすれば狙いを定めて普段通りに銃を構えたはずだというのです。また、このときにメジャーを使って犯行当時の被告人と被害者の距離も再現していました。
この視覚に訴える尋問の効果は抜群で、これが本当に裁判員裁判で行われていたとしたら、心証形成に大きく影響するのではないかと思ったほどでした。 尋問中には「異議あり!」の声も頻繁に出ました。尋問担当者が質問を撤回することも数々あり、異議の効果は十分に発揮されていました。
4 栄えある優勝校は・・・
九州大会では、福岡県立福岡高校が優勝しました。 同校は、前述の猟銃の模型を作ってきただけではなく、論告・弁論ではキーワードが両面に大きく書かれたスケッチブックを高くかざして審査員席、傍聴人席の双方向に見えるようにしていた等の工夫をしており、事前に相当の準備をしていたことが随所に現れていました。リーダーの女子生徒は、「大会まではみんな部活を休んで全てを注ぎ込んできた。本当に嬉しい。」と感想を述べていました。
残念ながら優勝を逃してしまった3校の選手達はとても悔しかったと思います。しかし、力を尽くして闘い抜いた充実感が表情に出ていて、閉会式後の記念撮影ではみんなの笑顔が見えました。出場校の選手達全員に対して温かい拍手が贈られました。 各校が優勝に向けて力を合わせて頑張る、そのプロセス自体に、この大会の意義が見出せると感じました。
5 審査員によるスカウト!?
審査員は、法曹関係者(弁護士、検察官、裁判官)の他に、学者、マスコミ等様々な分野の方が引き受けてくださいました。
閉会式の際には各審査員からの講評がありました。高校生とは思えない立派な冒頭陳述、尋問、論告・弁論に舌を巻いたという感想が多く、中には、「じわじわと被告人を追い詰めていく尋問に感心した。即戦力になるから是非うちの役所(検察庁)へ来て欲しい。」というスカウトもありました(笑)。
6 来年に向けた抱負 聞くところによると、ある支援弁護士は、優勝を逃してとても悔しかったようで、早くも来年に向けた必勝法を考えている、とのことでした。選手である高校生だけではなく、支援弁護士も熱くなれる選手権ですね。
高校生模擬裁判選手権はまだ始まったばかりの若いイベントです。実施回数を重ねていく中で、主催者側も課題をその都度克服しつつ、より良い大会へと熟成していくことを願っています。
是非、来年以降の大会には会員の皆様も足をお運びください。高校生の活き活きとした鋭気に刺激を受けること請け合いです!