福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2008年2月号 月報
法教育・消費者教育授業の現場から
月報記事
法教育委員会 委員 ? 優香 (60期)
1 【はじめに】
平成19年11月29日及び12月13日、春日西中学校において行われた消費者教育授業に、岡精一先生及び千綿俊一郎先生と参加致しました。私にとって、法教育委員会の委員として初めての活動でしたが、法教育の現場を見ることでその重要性や面白さを肌で感じることができ、大変貴重な経験となりました。
2 【授業の概要】
第1回では、友人間でのゲームソフトの売買といった身近な具体例について生徒達に議論をさせた後、契約の拘束力という法律の基本的な考え方を説明しました。その上で、契約を解消できる場合について具体例を通して生徒達に議論させ解説しました。第2回では、クレジット契約のしくみとクレジット契約における三者それぞれのメリット・デメリットを理解させた上で、クレジット契約トラブルの具体例について議論させ、クレジット契約の危険性やトラブルの解決方法を説明しました。
今回の授業の対象は中学3年生で、「よのなか科」という社会科の選択教科を選択した生徒達でした。「よのなか科」とは、よのなかと学校の授業を結び付ける授業で、中学校で学んでいることと実社会を結ぶことを目指して全国規模で行われているそうです。自ら興味を持って授業を選択していたということもあり、生徒達は積極的に議論に参加して意見を述べていました。
3 【現場に参加して】
今回の授業で難しかったことは、(1)教育現場と法律家の役割分担と(2)法教育と消費者教育の観点をうまく取り入れた授業を組み立てることです。
(1)について、中学校の先生が司会進行をし、生徒達が中心となってディスカッションをし、弁護士が解説をするという授業の進め方をしました。生徒を主体としながら、生徒の能力を把握し、生徒の意見の引き出し方に長けている学校の先生が中心に授業を進行し、法的な側面は専門家である弁護士が解説するという役割分担です。法律について基本的な考え方から解きほぐして、中学生でも理解できるようなわかりやすい言葉で伝えることで、自分の足下を見つめ直すよい機会となりました。
(2)について、法教育は、条文や法律知識を教えるのではなく、法律の背景にある基本的な価値観(正義・公平・権威・プライバシー)やそれら価値観を確保し調整するためのルールを学ぶことを主眼としています。一方で、消費者教育は、消費者としてトラブルに巻き込まれないように注意し、巻き込まれた場合の具体的な対処方法を学ぶことを主眼としています。今回は、消費者教育授業ではありましたが、対象が中学生であり、法教育委員会の活動として行われたこともあって、法教育の観点を特に重視しました。消費者としてトラブルに巻き込まれないようにするためには、まずは法律の基本的な価値観やルールを理解していることが大切ですから、消費者教育の前提として法教育が大切だとも言えます。
当初は、「契約書がないと口約束だけではだめじゃない?」等、契約の意味も十分に理解できていなかった生徒達が、次第に「契約は守らないといけないのが原則。でも今回は守らせると〜だからかわいそうじゃない?」等、利害の対立にも目を向けながら議論するとができるようになっていく姿を見て、法教育として一定の効果があったことを実感しました。
4 【最後に】
消費者問題の他、身近な契約トラブル、凶悪な刑事事件等様々な事件が日々起きていますが、法律の背景にある基本的な価値観やルールを理解していれば防ぐことができる事件は多く、そのためにも法教育は重要だと言えます。また、裁判員制度のスタートを控え、法律が国民にますます身近なものとなってきた現在において、私たち法曹には、個別具体的な紛争を解決するだけでなく、より広い視点から、法律の背景にある基本的な価値観やルールを国民に広めていく役割が重要になってきていると思います。法教育は新しい分野として多くの可能性を秘めており、様々な分野をつなぐ架け橋になると思います。今後、法教育が広く認知され浸透していくために積極的に活動に取り組んでいきたいと思います。