福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2008年2月27日

憲法リレーエッセイ 第5回憲法9条なしに日本は美しい国にはなれない。

憲法リレーエッセイ

弁護士 木梨 吉茂(14期)

1、東京弁護士会での実務司法修習中指導弁護士から、治安維持法違反事件の弁護人が、憲兵から、「そんな弁護をするような仕事ではなく正職につけ。」と言われたという例をひいて、弁護人の職務が憲法37条に明記されている事の重大さの所以を教えられた経験を、私は忘れられない。

私は弁護士になって以来今日迄、弁護士業務を国家権力から独立させ、国が再び戦争行為に出ることが無いようにさせるために、この平和憲法下での弁護士法第一条で国民の基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命を、日本国民から弁護士に負わされているものと理解している。

2、自民党は、外交政策上日米同盟の強化が重要な国益であるとして、米国の言いなりに日本国を集団的自衛権の行使によって戦争のできる国となる途を開くために、新憲法草案を発表した。草案によれば日本国は普通の国のような軍隊を持った日本国になるのである。安倍晋三首相は、その就任における所信表明で戦後レジュームを脱却して美しい国日本をつくると言った。私は安部首相が軍隊を持って日本国を美しい国にすると表現したことに強い違和感を持った。

その所信表明には、日本が太平洋戦争惨敗に至る迄に日本国民が苦難に満ちた被害を受けただけではなく、朝鮮半島を植民地化したり侵略戦争によって韓国や中国をはじめアジア諸国民に与えた甚大なる被害について、加害者としての自覚が全く見られない「美しい国日本」という国づくりの施政方針には、違和感だけではなく強く反対する。

3、日本弁護士連合会は、一昨年(2005年)11月11日人権擁護大会で「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言をした。

その宣言を出す迄の大会での論議の過程において、驚くべき事には、この論議に参加した弁護士の中に、公然と改憲論に同調する意見の少なくないことを知って、がく然たる思いがした。

4、私は福岡県弁護士会の憲法委員会の委員として名を連ねている。

私は太平洋戦争末期の、1945(昭和20)年5月11日の召集令状で一兵卒として、長崎県大島と壱岐で米軍の侵攻に備えての過酷な通常の訓練だけでなく米軍戦車に爆弾を抱えての体当たり訓練と、洞くつ構築の重労働にも、ただ、ひたすら鬼畜米英軍を撃退し、神国日本を護り抜くとの信念の下に敢行して行った経験がある。

その結果は、広島・長崎の原爆投下の惨状であり、福岡市の焼夷弾による焼け野原の実情を目の当たりにすることになった。

この体験を通じて、以後いかなる事があっても、わが眼とも言うべき平和憲法を擁護し、日本国が将来、テロ攻撃を受けたり、再び戦争をすることは、絶対に起こってはないと思っている。

5、6年前の同時多発テロ行為に対し、米国が直ちにアフガンやイラクに武力攻撃を加たことは、多くの国際法学者が指摘するように国際法に違反している。従って、これに対するテロ行為の反撃を受けるのは当然である。このテロ行為に対して、日本が日米同盟を護る事が国益であるとして、米国のテロに対する戦闘行為を支援する給油活動に協力をしたり、更に、憲法9条1項、2項に違反して集団的自衛権の行使によって対策貢献をする国にして日本の国営を守るという主張には私は絶対に賛同できない。

6、この原稿を書いている時に、安倍首相が辞任するとの報道に接した。

私は、後継首相が日本国を真に美しい国にするためには、敗戦に至る迄の間に、アジアの諸国・人民に与えた甚大なる被害についての加害者責任を決して忘れることなく、誠意をもって謝罪し、この平和憲法9条の精神を世界各国に広め、既に平和憲法を持った南米のコスタリカ国のようになることを国策として努力すべき義務を果たすことこそ美しい国と言えるのである。

2007(平成19)年9月13日

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