福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2006年3月号 月報
公設事務所IT日記
月報記事
島根県弁護士会会員 田上 尚志
お久しぶりです。元?HP委員会の田上です。去年の一月から島根県浜田市の浜田ひまわり基金法律事務所に派遣され、はや一年間が過ぎました。島根県は、東部の出雲地方(県土の三分の一、県民人口のおおよそ六〇パーセント)と西部の石見地方(県土の三分の二、県民人口のおおよそ四〇パーセント)に分かれています。浜田市は、石見地方の中心都市です。もっとも、出雲地方は、松江城や小泉八雲など、観光地として有名で、県庁所在地でもある松江市や、出雲大社などがあり、結構観光客などで賑わっています。これに対して、石見地方は……。あっ、津和野は島根県です。断じて山口県ではありません。まあ、とにかく、島根では出雲に比べて石見が地味な印象があることは否めません。これが弁護士の分布ということになると、登録三二名中二六名が出雲地方、これに対して石見はわずか五名です。決して計算を間違えたわけではなく、もう一人は隠岐に事務所を開いています。
こんな事情の島根県浜田市ですが、一年間暮らしてみて、弁護士過疎地では都市部以上にITの活用が必要というか不可欠なのではないかと思う今日この頃です。 その理由として、第一に、石見地方は過払い無法地帯です。今まで弁護士がおらず、相談に行くところがなかったからか、過払金返還請求権の桁が違います。統計を取っているわけではないので多分に感覚的なものですが、少なくとも半数以上が純粋に過払い元金だけで訴額一四〇万円を超えていると思います。サラ金業者が開示した取引履歴にS五八…とか、S五九…という文字がしばしば躍ります。過払い金計算ソフトがなければとてもやってられません。
第二に、移動が多く、しかも時間がかかるので、待ち時間を有効に活用するには小型軽量のノートパソコンが必需品です。県庁所在地が松江なので、裁判で松江に行く機会も多いのですが、松江と浜田を結ぶ特急は一日に七本しかありません。博多までJRの特急が二〇分おきに発車し、三〇分おきに天神まで西鉄の特急が発車していた大牟田時代が夢のようです。二枚切符や四枚切符など、あるわけがありません。私は浜田市ではなく、妻の実家がある隣町の益田市に住んでいるのですが、最初の松江出張のとき、「松江までの四枚切符を下さい」と駅員さんに言ったら、「そんなものはありません」と言われてしまいました。「福岡にはあったのですが」と食い下がったら、「うちはJR西日本ですから、JR九州のことは知りません」と返答されました。もっともなことです。こんな状況なので、期日が終わっても列車(電化されていないのです)の時間まで一時間半くらいあるということもしばしばです。そんなときは、裁判所の弁護士待合室で起案に励む時もあります。また、なにしろ島根県には弁護士が少ないので、私のような登録後間もない者でも、日弁連の委員に選任されます。東京に行く際、出発時間の関係で寝台特急のサンライズ出雲を利用し、移動時間中に寝台車の個室の中で起案することもあります。最近、私のノートパソコンに重要な周辺機器が加わりました。USB接続の一二〇GBハードディスクです。判例秘書のデータが丸ごと入ります。USBから電源も供給するので、ACアダプタも不要です。これに判例秘書のデータを入れて持ち運べば最強のモバイル環境でしょう。
げっ、延長コードを持って来るのを忘れた!。