福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2005年12月号 月報
日弁連・心身喪失者等医療観察法と付添人活動研修会の報告
月報記事
会員 大神 朋子
一〇月二四日に実施された頭書研修会について報告させていただきます。
会員の皆さんは、心身喪失者等観察法について、どれほどの情報をお持ちでしょうか。
同法は平成一七年七月一五日に施行されました。成立までの経緯は新聞等で報道されているとおりであり、一旦ペンディング(国会が閉会したため持ち越し?)となったこともありましたが、平成一五年七月一六日に公布されました。そして、附則には二年以内の施行が規定されてはいたのですが、当初開設予定であった二四カ所の指定入院機関のうち、施行に間に合わせて開設できたのは国立精神神経センター武蔵病院のみであったこと(現在は二カ所)等の状況もあって、施行を凍結するべきとする関係団体なども現れるなど、施行直前まで混沌とした状況が続いていました。ですが、予定通り施行されるに至ったわけです。
改めて述べるまでもなく、この法律は大阪の池田小で起きた悲惨な事件を契機として、急速に立法化され成立に至ったものです。法律の内容は、要は精神障害により一定の重大犯罪(殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害にあたる行為〜以下「対象行為」といいます)を犯してしまった人(以下「対象者」といいます)について、責任能力の問題により刑事処分を科すことができない場合に強制的に指定入院機関において精神科での治療(入院、通院)を受けることを命じることを内容とする法律です。
同法について指摘される問題点は、数多くあるのですが、主なものを述べますと、
【1】 事実上対象行為の再発防止という社会防衛目的で無期限の拘束を行うことになりかねないこと
【2】 「対象行為を行うおそれ」という予測不可能な要件で拘禁することになること
【3】 精神障害者のみに対する特別な制度であり、精神障害者に対する差別偏見を助長することになる恐れがあること
【4】 対象とされた精神障害者に対する権利保障が不十分であること(対象行為の認定手続などなど)
等々です。
このように、数々の疑問点がある法律ではありますが、今日施行された以上は、対象者の人権を保障するために、弁護士会として力を尽くすしかありません。
前置きが長くなりましたが、今回の研修は同法が対象者の権利保障規定の一つとして対象者等が弁護士を「付添人」に選任する権利を認めていることから、弁護士がなすべき付添人活動について、施行後に実際に付添人として活動したことのある経験者からの体験談を踏まえ、付添人は何ができるのか、そして活動を行うにあたって遭遇した問題点、留意すべき点について、解説等がなされました。本研修は、施行後間もなく(僅か四ヶ月経過)実施されたにもかかわらず、付添人活動の流れや場面場面における具体的なノウハウ、付添人として主張すべきことなどが、豊富に指摘そして説明され、関係各位のご尽力に感服致しました。
例えば、本法により対象者の鑑定入院命令がなされている際に入院先における付添人の面会は問題なく可能か、面会に協力医を同行することは可能か、対象行為の存否を争うとする場合の手続そして問題点(伝聞法則、証拠法則は適用されない)、本法により入院或いは通院を命ずるための要件である「この法律による医療」の必要性の判断はどのようになされているのか、そもそも「この法律による医療」とは何なのかそれを適切に行わせるためにいかなる活動が必要なのか…等々の問題について解説がなされましたが、この法律の問題性が改めて実感させられました。
福岡地方裁判所管内においても、すでに三号事件が係属しており、当会会員三名の方々が活動中です。本心から言えば廃止されて欲しい…この法律ですが、私も、付添人名簿に登録しているからには、近い将来受任した際に付添人としてできる限りの活動を尽くしたいとの思いを強くしました。