福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2005年7月号 月報

少年の「付添人」として

月報記事

服部 博之

私は、司法修習五七期。昨年一〇月に弁護士登録した新人弁護士である。司法修習生の時分より、福岡県弁護士会では全国に先駆けて当番付添人制度を実施し、高い実績を挙げていると聞いていた。私も、当会に登録する者として、本制度の下、微力ながら、多くの少年たちの更生の一助をなしたいとの希望を有している。

私は、一〇月の登録以降、事務所の先輩弁護士などと共同して既に数件の付添人活動を行ったが、ここでは実際に付添人活動を行ってみての新人弁護士としての感想を記したいと思う。

私が初めて付添人となったのは、登録直後の一〇月半ばのことであった。

少年院を退院して約二か月後の再非行。退院後間もなく家出し、そこで知り合った彼氏に勧められるままにシンナーを吸引したというものであった。

少年は、保護者である母親との関係がうまく構築できていないことが少年の非行の深化に大きく影響しているものと思われたため、私の方で母親に対して、何度も手紙や電話で連絡を取ろうと試みたが、結局、私は直接連絡を取ることができなかった。母親の知人である少年の以前の雇用主に連絡を取ることができたが、その方によれば、母親も少年への接し方が分からず、少年との接触を避けているようだとのこと。何とか審判当日は出席することは約束を取り付けたものの、結局、観護措置期間中一度も面会には来なかった。

少年は、これまでの交友関係からの離脱の必要性を自覚し、遠方での仕事をしながらの再出発を希望したが、有効な社会資源を見出すことはできず、遠隔地での補導委託先をあたってみたものの、女子の受け入れ先が極めて少ないこともあって、受け入れ先を見つけることはできなかった。補導委託先を探すにあたっては、調査官にも親身に協力していただいたが、結局、調査官は再度の少年院送致の意見を述べた。

審判当日。入廷した裁判官は処分意見を決めていたようで、淡々と審判が進められ、結果、少年院送致の処分が言い渡された。少年は、再度の少年院を覚悟していたようで、黙ってうなずいた。その時、少年の隣に座っていた母親が少年を抱きしめながら、「ごめんね。」と大声を出して泣き出したのである。少年も、緊張の糸が切れたのか、堰を切ったように大声で泣き出した。その抱擁は数分にわたり続いたが、やがて職員に促され、母親は審判廷を後にしたが、少年と母親はそのまま泣き続けていた。

私は、付添人としてその場にあって、自らの力不足と無力を痛感し、自らの今回の付添人活動の意義について考えさせられていたが、しばらくして少年院の少年からの手紙が届いた。その手紙には、「今もう一度自分のこれまでの生活について振り返って、同じ失敗を繰り返さないようにがんばっています。今は、お母さんも面会に何度か来てくれているし、手紙のやり取りもしています。もう二度とお母さんを裏切りたくないし、お母さんの気持ちに応えたいです。」とあった。この手紙を読んで、私自身とてもうれしくなり、また、本当に救われた気持ちになった。

次は一一月の中旬頃のこと。少年は、夜間に友人と共同して自動販売機荒らしをしているところを発見され、その場で現行犯逮捕されたとのことであり、当番弁護士として派遣された事務所の先輩弁護士とともに、この事件を受任することになったものである。

彼は、当時一九歳一一か月、年明けには二〇歳の誕生日を迎えることになっていた。これまでに非行歴がなく、実際に面会して話した印象も、反省と不安から声は沈みがちであったものの、質問に対する受け答えもその年齢以上に非常にしっかりしており、いわゆる「荒れた」感じは全く受けなかった。

少年は、大学を中退し、進学校である高校の友人などに対して疎外感を感じるようになる一方で、地元の友人等の不良文化に新鮮さを覚え、刹那的な感情に流されて非行行為に対する抵抗感を無くしていった結果であるようであった。幸い、非行もそれほどまでには深化しておらず、家族も少年の更生に向けた監護等について極めて協力的であり、立件された四件についてはいずれも被害弁償の目処が立ったこともあって、付添人は保護観察の意見を述べた。

しかし、調査官は少年院送致意見。面会して真意を尋ねたところ、「確かに、本人の反省や社会復帰後の家族の協力も期待できますが、余罪が八〇件くらいありますから。施設における再教育の必要性は否定できないと思います。」とのことであった。余罪と言っても、あくまで少年が捜査段階で「全部で八〇件くらいはやったと思います。」と供述しているというだけのこと。あくまで要保護性を判断するための資料については、刑事訴訟法上の証拠法則などが適用されないとはいえ、裏付けもない少年の自白のみで余罪として考慮するのは妥当でないと主張し、年齢切迫のため抗告が不可能であることを踏まえて、特に慎重な判断を求めたい旨の申\入れを行った。

審判廷でも同様の主張をしたところ、裁判官は付添人の意見を容れて保護観察処分となったが、少年事件の要保護性判断における危険性というものを感じさせられる事件であった。

なお、少年は、審判後も保護観察の他、定期的に私の事務所を訪れて面談するようにしているが、現在、保護者の経営する会社で工員の見習いをしているということで、先日も「親父の会社を発展させるためにも、今の仕事に関係する資格を取りたいと思い、勉強しているんですよ。」と明るく話してくれ、私を安心させてくれている。また、処分を行った裁判官も、審判後の少年の様子を確認したいと私まで連絡をいただき、そのことを聞いた少年自身も非常に喜んでいた。

「非行を犯してしまった少年にはすべからく専門家としての付添人の援助が必要である。付添人の援助があることによって、少年の更生にとってマイナスとなることはない。」という考えの下に、福岡県弁護士会の全件付添人制度が始まったと聞くが、私も正にそのとおりであると思う。他会に登録した同期などからは、「少年事件は一部の専門の弁護士が行うもの」、「少年事件は私選として相応の報酬を貰わないと割に合わない」という話を聞くこともある。しかし、少年非行に対する社会の関心も高まっている中で、私自身としては、弁護士として、個々の少年、また社会に対して何らかの役割を果たしうる以上、付添人活動に末永く携わっていきたい。私が携わったほんの数件の事件を採ってみても、それぞれの少年にそれぞれの未来があり、短期間ではあるが濃密な時間を共有することによってそれぞれの感動があって、そこには何物にも換えがたい魅力があるように思われるからである。

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