福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2004年5月号 月報

土地家屋調査士会ADRセンターに参加して

月報記事

塩川 泰徳

1 本年(平成16年)3月8日、福岡県土地家屋調査士会ADRセンターが発足した。正式名称は、「境界問題解決センターふくおか」という。愛知、大阪、東京に次ぎ全国で四番目という事である。私は相談委員を担当している。

まず、センターの概要を説明しよう。目的は、(1)境界に関する相談または問題について、当事者と専門家が協力して裁判に代わる簡易な手続で迅速、公正かつ柔軟に解決を図る。(2)問題解決の結果を登記簿及び地図に反映させ、国民の権利の明確化に寄与する。(3)問題解決にあたり、当事者の主体性を尊重し、当事者自身の問題解決意識を高める、の三点である。

人的構成は、運営委員会(調査士3名、弁護士2名)、相談委員会(調査士1名、弁護士1名)、調停委員会(調査士2名、弁護士1名)である。発足当時の委員の総数は、相談委員が調査士七名、弁護士五名、調停委員が調査士10名・弁護士5名であったが、申\込件数が多いため、先日、弁護士相談委員が五名から10名に増員された(弁護士調停委員の定数は変わらず)。

開設から本原稿執筆時までの活動状況であるが、約一月間の相談申込件数は21件。うち調停申\立は八件である(いずれもまだ未成立)。

手続は、まず、電話による受付から始まるが、電話では、紛争の存在や必要書類を確認し来訪をお願いするまでに止まり、実際の申込は、関係書類持参の上で一度センターを訪問してもらう必要がある。そして、センター訪問の際、センターの趣旨や相談・調停手続の流れの説明が行われ、申\込者持参の関係書類を受領する。相談日は、調査士及び弁護士の両相談委員の予定を確認した上で後日決定される。つまり、実際の相談は、2回目の来訪時である。調停については、弁護士会のADRと同様、相談前置主義がとられ、まず、相談委員会が当事者の話を伺い(2時間ほど)、相談で解決すれば調停には移行しない。なお、境界問題解決センターは、当然の事ながら対立当事者間の紛争の存在を前提としているので、申\込者の意識では境界に関する問題に属するとしても、当事者間の紛争が存在しない場合、例えば、「隣地との境界をはっきりさせていない(測量していない)ので不安です。今のところ、隣地所有者との意見の食い違いはなし、土地を処分する予定もないのですが、どうしたらよいでしょうか?」などという相談についてはセンター取扱い事案の対象外となる。かかる事件性のスクリーニングは、本来、受付段階で行われるが、実際資料を見ながら話した上でないと分からないことも少なくないので、相談段階になって、初めて紛争が存在しないことが分かることも少なくないようである。

費用は、相談手数料が五、250円(一回2時間)、調停申立手数料は10500円、成立手数料は解決額の8%を原則とし31500円を最低額とする(負担割合は当事者の合意)。測量等が必要となる場合は、別途見積による。

2 まだ、センター開設後一月余りであり、多くの案件を担当した訳ではない。しかし、本年1月から開設準備作業に携わり、模擬問題の作成や模擬相談・模擬調停に関与した中から学んだことがあるので、一つ重要なことを紹介しよう。

我々弁護士の感覚からすると、ともすれば誤解しそうになる事柄であり、土地家屋調査士の役割は何かという極めて重要な問題でもある。例えば、境界紛争について関係二当事者間で一定の合意(解決案)が見出せそうな雰囲気が出てきたとしよう。我々弁護士だと、「当事者がそれでいいと言っているのだから、それでいいじゃない」と、つい思ってしまわないだろうか?(私を含め、開設準備作業に携わった数人の弁護士はそういう感覚を持っていた)。しかし、これには問題がある。前述のセンターの目的にもあったように、「問題解決の結果を登記簿及び地図に反映」させねばならない。土地の境界は公的意味を持つし、境界問題の他の土地所有者にも必然的に影響を及ぼす問題である。当該土地につき、将来、取引関係に入ってくる第三者の利益のこともある。よって、現在の当事者間だけの利害調整として処理すればよいというものではない。その結果、調査、測量等の客観的結果を横に置いておき、現在の紛争当事者がそれでよいといっているからよいではないか、という処理をしてよいとは直ちには言えないのである。注意しなければならない。ただ、そうなってくると、場合によっては、センターに相談(調停)を申し込んだばっかりに、当事者双方ともに予\想しなかった負担を強いられる結果になる可能性がないとは言えず、それで当事者の納得が得られるのかという問題が残される。現代社会で不動産を所有するということはどういう意味を持つのかという問題でもあり、今後も検討していかねばならないだろう。

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