福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2004年4月号 月報

俄然、利用しやすくなる行政訴訟

月報記事

池永 満

今期通常国会に提出される三大司法改革法案の一つとして「行政訴訟法改革」が提出されることが固まった。司法制度改革審議会意見書では、単に「司法の行政に対するチェック機能を強化する方向で行政は法制度を見直す」という極めて理念的な方向性が打ち出されただけで、どの程度の改革が具体化できるか、はなはだ心もとない状況での行政訴訟検討会の出発であったが、日弁連と検討会委員や与党若手の会等の連携した抜本改革を求める声と運動が大きく盛り上がった反映もあり、検討会委員全員が一致したものだけを第一トラックとして取りまとめるという検討会の基本姿勢はつき崩せなかったものの、確実に改革を進めうる内容で取り纏められたと評価できよう。以下、ポイントを紹介する。

確実に門戸が広がる行政訴訟

取消訴訟の原告適格が拡大される。これまでのように法律の形式や規定ぶり、行政実務の運用等にとらわれずに、法律の趣旨、目的や処分において考慮されるべき利益の内容・性質等を考慮する等、原告適格が実質的に広く認められるために必要な考慮事項を解釈規定として明文化する。

救済方法が広がる行政訴訟

新たに義務付け訴訟も法定される。従前は行政行為を直接義務付けることは出来なかったが、司法による救済の実効性を高めるため、行政庁が処分すべきことが一義的に定まる場合には、一定の要件のもとで行政庁が処分すべきことを義務付ける訴訟類型が採用されることになった。なお申請に対する処分の義務付けを求める訴訟は、申\請拒否処分の取消訴訟等とともに提起することとなる。

新たに差止訴訟も法定される。取消訴訟による事後救済の他に行政に対する事前の救済方法を定めることによって司法による救済の実効性を高めるため、行政庁が特定の処分をしようとする場合で、その処分をしてはならないことが一義的に定まるときには、一定の要件のもとで行政庁が処分することを事前に差し止める訴訟類型が採用されることになった。

審理が充実・促進される行政訴訟

審理の充実・促進の観点から、訴訟の早い段階で、処分の理由・根拠に関する当事者の主張及び争点を明らかにするため、新たに釈明処分の特例を定め、裁判所が行政庁に対し、裁決の記録や処分の理由を明らかにする資料などの提出を求める制度が新設される。

おこしやすくなる行政訴訟

抗告訴訟の被告を、処分をした行政庁ではなく、行政庁が所属する国または公共団体とする。国や公共団体に所属しない行政庁にあっては処分をした指定法人などが被告となり、いずれでもない場合には、処分にかかる事務の帰属する国または公共団体が被告となる。訴えの提起にあたり、処分をした行政庁の特定は被告の責任とし、その不特定や誤りは原告の不利益にならない。

取消訴訟の出訴期間を『処分があったことを知った日から六ヶ月(現行は三ヶ月)』に延長し、出訴期間を不変期間とせず、期間内に提訴できなかったことにつき正当な理由がある場合には、期間経過後でも提訴できることとする。

救済の迅速性・実効性が高まる行政訴訟

執行停止の要件を緩和する。現在の規定にある「回復困難な損害」を「重大な損害」のような文言に改め、要件該当の有無の判断に際し、損害の程度や処分の内容及び性質も考慮されるようにする。

仮の義務付け、仮の差止めの制度を法定する。義務付け訴訟や差止訴訟において、本案判決を待っていたのでは償うことが出来ない損害を生ずるおそれがある場合に迅速かつ実効的な権利救済を可能にするために、裁判所が行政に対し処分をすべきことを仮に義務付け、または処分をすることを仮に差止める裁判をする『仮の救済の制度』を新設する。

訴えの対象が広がる行政訴訟

行政の活動・作用が複雑多様化したことに伴い、「行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為」を対象とする取消訴訟中心の抗告訴訟のみでは国民の権利利益の実効的な救済が図れないので、取消訴訟の対象となる行政の行為に限らず、広く国民と行政との間の多様な関係について権利義務などの法律関係を確認するために、確認訴訟を積極的に活用できるようにする。

尻込みや敗訴の言い訳が難しくなる行政訴訟

これだけ使い勝手が良くなる行政訴訟改革に、弁護士にとって何か不都合が生じるであろうか?

ひとつだけはっきりしていることは、「行政訴訟はやるだけ無駄ですよ」「法律が悪いから行政訴訟は負ける」「裁判所は行政べったりですから」などと御託を並べたり、「行政事件はちょっと・・・」と尻込みすることはもはや許されないということであろう。ちなみに、新司法試験では、公法・行政法が試験科目として採用されたので、数年後には行政事件に強いのは当然とする後輩たちが続々と登場するだろう。

こうした展開を踏まえて、福岡県弁護士会では、本年四月から、行政訴訟改革に伴う研修会の開催や行政問題委員会のメンバーを中心に「行政事件一一〇番」活動を定期化し、近い将来における「行政事件当番弁護士制度(仮称)」の立ち上げ準備を進める予定です。日本弁護士連合会においても全国規模の行政事件支援センターや行政法実務学会などを設立しマンパワーを強化する作業に着手しています。会員の皆さんの積極的な参加を期待します。

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