福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2003年11月号 月報
福祉の当番弁護士発足3周年記念シンポジウム報告
月報記事
吉田 知弘
初秋というのに残暑厳しい9月19日、岩田屋Zサイド夢天神ホールにおいて、福祉の当番弁護士発足3周年記念シンポジウムが開催されました。満場の聴衆に溢れた会場の様子を仰ぎ見るにつけ、この高齢者・障害者関連法務というものには強い社会的ニーズがあるのだと、改めて実感しました。
ところで、会員の皆様は、この「福祉の当番弁護士」という制度をご存知でしょうか。この制度は「専門相談者のための法律相談」とでもいうべき制度です。高齢者や障害者に関わる分野では、法的問題を含む事案でも、医療・保健・福祉等の分野に関わる行政や各種団体の実務者のところで、第一次的な把握がされることが圧倒的に多いと思われます。彼らはそれぞれの専門実務者としての立場から問題の要点を要領よく把握しているものの、法律知識に欠けるために対処方法がわからずに困っている。そこで、これを我々法律専門家に迅速に繋ぐために、専門実務者が抱える事例に関する法律相談を無料で受けられるように配慮した法律相談の仕組が「福祉の当番弁護士」なのです。この福祉の当番弁護士は、当会が全国に先駆けてスタートさせ、その後、九弁連内の各単位会で徐々に採用が進み、目下、岡山や大阪でも採用が具体的に検討されているなど、各般から強い期待が寄せられています。今回のシンポジウムは、この制度の発足3周年を記念して開催されました。
このような経緯もあって、このシンポジウムの開催にあたっては、九弁連や日弁連のみならず、福岡市・福岡県・市社協・県社協・医師会等、行政や医療保健分野の各般の共催を仰ぎました。単なる行事とはいえ、各般のご協力を賜ること自体が高齢者障害者法務にとって欠くことのできない専門実務者間の問題関心の共有と連携強化のために意義あるものと位置付けられていることをご承知いただければと思います。
さて、当日の司会進行は、当会の加茂雅也会員と原志津子会員という溌剌とした組合せで、会の円滑な進行に大いに寄与されました。最初に、福岡市保健福祉局介護保険課の古屋英明課長より「介護保険導入4年目を迎えた福岡市の取組」との題目でまとまったご報告をいただきました。
その後、基調講演として、大阪弁護士会の池田直樹先生より「『高齢の人・障害のある人の権利擁護と虐待防止』に向けて」と題して、基調講演を賜りました。池田先生は、高齢者障害者の権利擁護の活動に大変造詣が深く、虐待防止のために必要なことを抽象的にではなく、具体的な事案の中で取り得べき手段という形で事細かにご紹介いただき、その上で、虐待防止法を制定する必要性とそのための課題を分かりやすくご説明していただきました。また、各地の自治体などにおける虐待防止のための取組や対応方法のマニュアルなどもご紹介があり、参加者やパネリストからも大変な好評を得ていました。
その後、当会の宇都宮英人会員をコーディネーターとし、古賀美穂会員ほか各般から多数のパネリストをお迎えしてパネルディスカッションが催されましたが、虐待を発見した場合の通報義務と実務者に課せられる保秘義務との調整をどのようにして克服するのかが重要な問題となるという共通認識ができたように思いました。
その他、諸々、この狭いスペースで語り尽くすことはできませんが、引き続き催された懇親会を含め、大いに盛会であったことをご報告します。どうぞ、会員の皆様にも、この高齢者障害者法務の分野に対するご理解と積極的なご参加をお願いするものです。