福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2003年3月号 月報

女性相談研修第3回

月報記事

山崎あづさ

1 3月11日、3回連続講座として行ってきた「女性相談研修」の最終回である、「性暴力被害について」の研修が行われましたので、そのご報告をしたいと思います。

2 はじめに、原田弁護士から、性暴力の意義、問題となる点、対応において留意すべき点などについての説明が行われました。その内容をご紹介します。\n 性暴力には、強姦、強制わいせつ、痴漢、ストーカー、未成熟者との性行為、性的虐待等が含まれ、それぞれの事案によって、問題となるポイント、それを踏まえた被害者に対する対応が異なってきます。

まず、強姦のケースでは、被害直後に相談を受けた場合には、事後避妊の処置や性感染症の対策のために産婦人科で診察を受けてもらうとか、事件のショックによりPTSDやうつ状態といった精神的な症状が表れている場合は、精神科の受診を勧めるなど、被害者の安全の確保のためのアドバイスが必要となります。

相談後、事件として受任する際、注意すべきなのは、被害女性本人の意思を十分に確認することです。特に、家族や恋人が相談に同行して、積極的に進めようとしている場合は、被害者本人の意思は十\分固まっていないこともあるので、周囲のペースに引きずられないよう注意が必要です。また、本人が責任追及をしたいという意思を持っている場合でも、刑事告訴、民事損害賠償などの違いを十分説明し、理解してもらうことが必要です。

それから、なるべく早い段階で、構成要件該当性で問題となりそうなポイントについて十\分な聞き取りを行い、把握することが必要です。判例で犯罪の成否が争われている事案の中には、「誘われて車に乗った」「逃げ出さなかった」「すぐに被害届けを出していない」など、被害女性の行動を問題にしてその信用性を否定しているものがありますが、こういった形で被害者を無用な攻撃にさらさないため、事前の聞き取りで問題となりそうな点を十分把握し検討しておくことが重要ということです。最初の聞き取りはざっと行い、反論が出た段階でその部分について聞き取りをする、という方法をとると、被害者は自分の代理人から攻撃を受けていると感じてしまうので、相手が問題にしてくる前に詳しく聞き取っておき、できれば陳述書等を作成しておくのがよいということです。なお、その際、被害者を非難することがないように留意することが必要です。

ストーカーの事案の場合、ストーカーを行う人には何種類かの特性があり、動機が了解可能で法的措置や警察の介入が功を奏する場合と、精神障害が原因で治療の対象となる場合、これらでは説明できず対応が功を奏さず事件化しやすい場合があり、事案ごとに相手の特性を十\分見極めることが重要です。法的措置としては、ストーカー防止法に基づく警告を求める、告訴を行う、民事仮処分の申立てをする、などが考えられます。

痴漢については、最近、冤罪が問題となっており被害者の供述の信用性を否定する傾向が強まっていますが、犯人の同一性のところで争われることがほとんどなので、警察の捜査のずさんさと被害者の問題は区別して考えることが必要です。

3 次に、松原弁護士から、性暴力事件についての捜査側の取り組み方などを、検察官の経験を踏まえてお話していただきました。性暴\力の場合、男性と女性の間の力の差を十分理解したうえで事実を把握していくことが重要であること、しかし現実にはこういった感覚について男性の捜査官はなかなか理解できていないことなど、貴重なお話を聞くことができました。

4 それから、私が先日、刑事事件で遮へい措置の中に入って被害者の付き添いをする、という経験をしましたので、それについての報告をしました。参加者からは、遮へい措置自体が被害者にとって圧迫感を与えないように、配置などについて弁護士が積極的に意見を出していくべきだというご意見や、家庭裁判所の法廷を活用してはどうかというご意見が出されました。

5 最後の質疑応答の中では、犯罪被害者の方の事件を受ける場合に法律扶助を使えるのか、という質問があり、萬年先生から、4月から犯罪被害の事案でも扶助の利用ができるようになるとのお話がありました。

6 今回の研修は、難しい、扱いにくい、気を遣うといったことから精神的に気おくれしてしまいがちな性暴力事件について、基本的なところから実践的なところまで勉強することができ、大変有意義なものとなりました。

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