福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)
2003年3月号 月報
オンライン書店活用術
月報記事
石田光史
とうとう私にもITコラムの順番が回ってきてしまいました。メールの活用法、なんてテーマは既にやられちゃってるし、そもそも一部地域ではメール中毒なんて言われてる私が語るメール活用法なんて、ろくなモンじゃないだろうし・・・。とまあいろいろ考えまして、今回はオンライン書店について書くことにいたしました。「活用術」などと銘打っている割には大したことは書いていませんが、ご勘弁願います。
さて。オンライン書店とは要するに、インターネット上の本屋さんのことです。本を検索できるし、トップページにはお薦めの本が紹介されていたり(現実の本屋さんの平積みですね)、書評が載っていたり、大変便利です。もちろん気に入った本があれば購入することができますし、指定の場所へ配送してくれるので、重い本を担いで家まで持って帰る必要もありません。
オンライン書店の代表格と言えば、やはりアマゾンでしょう。しかし私がよく使うのはbk1です。なぜ後者を使うかというと、アマゾンは私にはあまり使い勝手が良くないのと、決済方法が違うからです。アマゾンを含め、多くのオンライン書店ではクレジットカード決済が基本ですが、これがどうも小心者の私には抵抗があるのです。自分のカード番号をあまり入力したくないんですよね。その点bk1だと、ニフティの会員の場合、ニフティのIDとパスワードを入力するだけでニフティの料金が引き落とされている口座で決済ができます。カード決済はイヤだしニフティ会員でもないという方は、イーエスブックスなど、最寄りのコンビニまで配達してくれてそこで代金と引き換えに受け取ることのできるサービスを行っている書店もありますので、ご利用されてみてはいかがでしょうか。
私がオンライン書店を使うのは、主に仕事関係の本を購入する場合です。キーワードや著者名、書名などで検索がかけられるので、本を探すのがとても便利です。例えばこの前、人格障害について調べなければならない事件があったのですが、bk1で「人格障害」を検索すると、ざっと34冊の本がヒットしました。現実の書店でこれだけの本を探すのは至難の業ですが、オンライン書店ならわずか数秒で検索でき、時間をグッと節約できます。ただそうは言っても、買うべき本か否か、実際に本を手に取ってみないと分からない場合もあります。そのような場合私は、紀伊国屋BookWebを使います。ここでは、検索した本について、現実の紀伊国屋のどこの店に在庫があるかを調べることができます。例えば『人格障害論の虚像』という本について調べると、福岡本店(博多駅)にも福岡天神店にも在庫があることが分かりました。そこで私は天神の紀伊国屋に行き、実際に本を手に取り、買うべきか否かをじっくり確認できたわけです(結局買いませんでした)。
私は現実の書店も大好きで、日曜はたいていジュンク堂あたりに出没しています。趣味の読書用の本を探すのは、非効率もまた楽しいものです。オンライン書店と現実の書店、それぞれの長所を生かして使いこなすと、とても充実した本ライフ(?)が送れると思いますよ。
虐待と少年事件についての一考察
月報記事
井下 顕
月報1月1日号の小坂昌司会員の付添人日記に感動して、小坂会員に「感動しました」のメールを送ったのが運の尽きで、じゃあ次は君が書いてくれという話になってしまった。
付添人、付添人…。そういえばここ半年近く付添人やってないなあ(こんなことを書いて当番弁護士担当の時にどっと来ないだろうなあ…)。何を書こうか。全件付添人制度を支える若手に付添人活動が集中して、若手が疲れてるんじゃないかということを書こうと思ったが、月報に載せるようなことでもない。
私も二児の父親なので、日頃の父親不在の状況についての反省文でも書こうか…。そういえば私は名前だけ「ふくおかこどもの虐待防止センター(F・CAP−C)」のメンバーでもあるので虐待と少年事件の関係について書こう。しかしながら、とてもそれだけの大それたテーマは書けない。自分自身が関与した少年事件の中で感じたこと、考えたことを素直に書こう…。
もう一年以上も前の事件だが、ひったくりをして在宅で審判待ちだった少年が仲間と三人でバイクに乗って、通行中の女性からひったくりをして被害者が軽傷を負ったという事案で、結果は短期の少年院送致になったという事件があった。
私は当番弁護士で宗像署に赴き、少年と接見した。少年は当初私を相当に警戒しているのか、付添人制度のことや、付添扶助を受ければ費用は要らないという話をしても、そんな都合のいい話があるわけない、何か企んでいるなという感じでなかなか信頼してくれずその日はとりあえず考えるということで別れた。その後、少年から再度連絡があり、私が付添人として活動することになった。少しずつ信頼関係ができるにつれ、少年はいろんな話をしてくれるようになっていった。
その中で少年が実の父親から、かなりひどい暴力を受け続けてきたことが分かった。少年は父親に対して、別に憎いとも思っていないと言い、ただあんな人間にはなりたくないと言っていた。少年は母親と妹と三人暮らしで、母は父親と離婚していた。少年と何度も接するうち、私は少年の「開き直り」がどうしても気になるようになっていった。事件そのものについて反省はしているし、将来の目標も具体的に持っている。実直に働く母親を尊敬していると言い、被害者にも申\し訳なかったという気持ちもちゃんと持っている。しかしながら、どこか人生に対し、開き直っているという感じがするのだ。語弊を恐れず言えば「潔すぎる」ともとれる態度を時に示すのである。そういえば、修習生のころ、九州ダルク(薬物治療のための自立支援団体)に遊びに行ったとき、ひどい虐待を受けて育った少年が自分の生い立ちを語る中で、彼も人を殴ることに何の躊躇も覚えないと言っていたが、その時の彼も人生に「開き直った」ような感じがあったことを思い出した。
最近私は、人生に「開き直る」ということは、自分はこういう人間になりたい、こうありたいんだという自分自身を放棄してしまうことではないかと思っている。本来無条件の愛情を注がれてしかるべき親からひどい虐待を受ける、そのために、だれもが持ちうる自分自身の理想像、目標を心の中に描けなくなる、そのためのモチベーションさえ沸かなくなってしまうのではないかと思うのだ。大変分かりにくい表現になってしまったが、つまるところ親から虐待を受けるということは、自分の中にある「自分自身を形作る力」を喪失させてしまうというように思う。
最近私はネグレクト(不保護)も虐待であるとの痛切な(!?)認識のもとに、どうしても出なければならない飲み会には出るが、それも一次会だけにして帰るようにしている。かかる認識にいたるには、かなりの「格闘」と葛藤があったが、少しずつ父親になっていっているかなと思う今日この頃である。
女性相談研修第3回
月報記事
山崎あづさ
1 3月11日、3回連続講座として行ってきた「女性相談研修」の最終回である、「性暴力被害について」の研修が行われましたので、そのご報告をしたいと思います。
2 はじめに、原田弁護士から、性暴力の意義、問題となる点、対応において留意すべき点などについての説明が行われました。その内容をご紹介します。\n 性暴力には、強姦、強制わいせつ、痴漢、ストーカー、未成熟者との性行為、性的虐待等が含まれ、それぞれの事案によって、問題となるポイント、それを踏まえた被害者に対する対応が異なってきます。
まず、強姦のケースでは、被害直後に相談を受けた場合には、事後避妊の処置や性感染症の対策のために産婦人科で診察を受けてもらうとか、事件のショックによりPTSDやうつ状態といった精神的な症状が表れている場合は、精神科の受診を勧めるなど、被害者の安全の確保のためのアドバイスが必要となります。
相談後、事件として受任する際、注意すべきなのは、被害女性本人の意思を十分に確認することです。特に、家族や恋人が相談に同行して、積極的に進めようとしている場合は、被害者本人の意思は十\分固まっていないこともあるので、周囲のペースに引きずられないよう注意が必要です。また、本人が責任追及をしたいという意思を持っている場合でも、刑事告訴、民事損害賠償などの違いを十分説明し、理解してもらうことが必要です。
それから、なるべく早い段階で、構成要件該当性で問題となりそうなポイントについて十\分な聞き取りを行い、把握することが必要です。判例で犯罪の成否が争われている事案の中には、「誘われて車に乗った」「逃げ出さなかった」「すぐに被害届けを出していない」など、被害女性の行動を問題にしてその信用性を否定しているものがありますが、こういった形で被害者を無用な攻撃にさらさないため、事前の聞き取りで問題となりそうな点を十分把握し検討しておくことが重要ということです。最初の聞き取りはざっと行い、反論が出た段階でその部分について聞き取りをする、という方法をとると、被害者は自分の代理人から攻撃を受けていると感じてしまうので、相手が問題にしてくる前に詳しく聞き取っておき、できれば陳述書等を作成しておくのがよいということです。なお、その際、被害者を非難することがないように留意することが必要です。
ストーカーの事案の場合、ストーカーを行う人には何種類かの特性があり、動機が了解可能で法的措置や警察の介入が功を奏する場合と、精神障害が原因で治療の対象となる場合、これらでは説明できず対応が功を奏さず事件化しやすい場合があり、事案ごとに相手の特性を十\分見極めることが重要です。法的措置としては、ストーカー防止法に基づく警告を求める、告訴を行う、民事仮処分の申立てをする、などが考えられます。
痴漢については、最近、冤罪が問題となっており被害者の供述の信用性を否定する傾向が強まっていますが、犯人の同一性のところで争われることがほとんどなので、警察の捜査のずさんさと被害者の問題は区別して考えることが必要です。
3 次に、松原弁護士から、性暴力事件についての捜査側の取り組み方などを、検察官の経験を踏まえてお話していただきました。性暴\力の場合、男性と女性の間の力の差を十分理解したうえで事実を把握していくことが重要であること、しかし現実にはこういった感覚について男性の捜査官はなかなか理解できていないことなど、貴重なお話を聞くことができました。
4 それから、私が先日、刑事事件で遮へい措置の中に入って被害者の付き添いをする、という経験をしましたので、それについての報告をしました。参加者からは、遮へい措置自体が被害者にとって圧迫感を与えないように、配置などについて弁護士が積極的に意見を出していくべきだというご意見や、家庭裁判所の法廷を活用してはどうかというご意見が出されました。
5 最後の質疑応答の中では、犯罪被害者の方の事件を受ける場合に法律扶助を使えるのか、という質問があり、萬年先生から、4月から犯罪被害の事案でも扶助の利用ができるようになるとのお話がありました。
6 今回の研修は、難しい、扱いにくい、気を遣うといったことから精神的に気おくれしてしまいがちな性暴力事件について、基本的なところから実践的なところまで勉強することができ、大変有意義なものとなりました。