福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)
2003年2月号 月報
情報提供ツールとしてのホームページ
月報記事
宇加治恭子
今回のコラムは、情報提供ツールという観点から、当会のHP(ホームページ)を紹介させていただきます。
各種行事の紹介
シンポジウムや講演会等会員以外の方に自由に参加していただく行事や臨時に実施される法律相談等について、案内を行っています。行事が終わるまでは、トップページの「新着情報」欄に載せられているようです。現在は、HP委員や弁護士会執行部が気付いた行事を掲載しているようですが、各会員や委員会から「こういうコトやるからHPにも載せて」とご連絡いただければ、さらに迅速に、充実した紹介ができるかと思います。
法律相談事業の紹介
天神弁護士センターをはじめとする各法律相談センターや、当番弁護士などの事業の紹介も行われています。トップページの「法律相談センター」や「こんな時どうする?!」をクリックすると、知りたい情報にたどりつくというわけです。
以前、ある電話相談の担当だった時、相談者からの質問に応じて「こんな相談制度もあるんですよ」とお伝えしたところ、「それってホームページに載ってますか?」と質問され、「載ってますよ」と答えたところ、しばらくの沈黙の後に「あっ。ありました」と言われた経験もあります。その相談者の方は、HPを見ながら相談の電話をかけていたのです。一般の方たちにとっては、実際にHPは法律相談窓口を探す1つのツールになっているんですね。
委員会活動の紹介
「付添人日誌」や「福祉弁護士のワークノート」をはじめとする月報や新聞からの転載記事などは、弁護士会のさまざまな委員会活動を、わかりやすく一般の方々に伝えるものです。「子どもの権利委員会や高齢者・障害者委員会ばかりHPで宣伝していてズルイ」「もっとウチの活動をたくさんの人たちに知ってもらいたい」と考えている委員会のみなさま、ぜひ、HP委員会に記事を持ち込んで下さい。
リンク集
当会のHPの目玉のひとつが、「使えるリンク集」です。リンク集には、「事件類型別リンク集」と「一般リンク集」があります。「事件類型別リンク集」には、「公的とか私的とかの色分けではなく、利用者に便利なページとのリンクが重要だ」という観点からさまざまなHPがリンクされています。HP委員会では、今後もリンク集をますます充実させていきたいと思っておりますので、よいHPをご存知の方は、ご推薦いただければと思います。また、「一般リンク集」には、各弁護士会のHPはもちろん、福岡県の弁護士・法律事務所のHPもリンクされています。
会員専用ページ
当会の会員のみが、専用のパスワードを取得して利用できる「福岡県弁護士会会員専用ページ」もあります。ヤミ金対策に威力を発揮するであろう最新の判決書がPDFファイルで紹介されていたりしますので、まだ見ていない会員の方は、是非覗いてみてください。
これからのHP
HP委員会は、「こんな情報が載っていたらもっと便利なのに」「ここは使いにくいからこういう風に変えたらいいのに」というご要望をお持ちの方からのご意見を募り、よりよいHPを目指したいと考えております。今後とも当会のHPをよろしくお願い申し上げます。
「あとは弁護士だけなんです!」 子どもの虐待問題についての取り組み
月報記事
松浦恭子
子どもの虐待問題については、子どもの権利委員会において、平成7年度に研修会が開催され、平成8年度から虐待問題小委員会が設置されて取り組まれるようになりました。平成12年度には、九弁連大会シンポジウムでテーマとして取り上げられ、多くの会員が参加されました。
そして、福岡部会の稲村鈴代会員が中心になって、民間団体として多くの専門職と一緒にふくおかこどもの虐待防止センター(略称F・CAP−C)が発足するに伴い、子どもの権利委員会メンバーを中心に、平成12年12月に、同センター弁護団が発足しました。現在当会から47名が参加し、児童相談所など関係機関からの相談や、虐待が問題となったケースの家庭裁判所の申立事件への代理人活動などに取り組んでいます。このほか福岡県、福岡市、北九州市の児童福祉審議会や福岡県児童虐待防止地域連絡会議(県内14ブロック)等に多くの会員が参加され、関係機関との連携が進んでいます。
平成12年11月には、児童虐待の防止等に関する法律が施行され、平成13年には、福岡家庭裁判所においても各支部で、関係機関連絡協議会が開催され、当会から参加しています。
こうした、いわば全体としての骨格となる取り組みが進むに連れ、様々な関係者と協議する機会が増え、実質的な連携が始まるようになりました。冒頭の言葉は、私がある児童養護施設の施設長さんから、開口一番いわれたものです。当初は、お互いにおっかなびっくりだった児童相談所との連携も、信頼関係が築けるに従い、中身の濃いものになりました。
これまで関わった事例では、当初は、乳児に対する身体的虐待や、重度のネグレクト(養育の懈怠、放棄)など比較的判断しやすいケースについて児童相談所が子どもを保護するにあたって、ケース会議で積極論を述べたり、現場に立ち会ったりと、どちらかといえば「励まし役」や「現場の用心棒?」的な役割を果たすことが多くありました。私も、頭部外傷で緊急入院した生後3ヶ月の男の子を病院から保護するなど、いわば典型的なケースに立ち会う経験をしました。また、家庭裁判所への申し立てにあたって、証拠のアドバイスをしたり、比較的簡単な法律相談を受けたり、ということが多かったのです。
しかし、最近は「親権」について、どのように考えていくのか、裁判所(司法)は、家族にどのように関わっていくのかを考えさせられる問題が多く、現代の問題の解決にふさわしいような条文や先例があまりない分野で、どうすれば子どもの保護を円滑に行なうことができるか、頭を悩ませることが多くなっています。例えば、民法766条は、離婚に際しての子どもの監護者の指定について定めていますが、これについて、親権者ではない第三者からの申し立ては許されるか、また第三者を監護者として指定することは認められるか、という問題が出てきています。先日開催された日本子どもの虐待防止研究会第8回大会では、初めて最高裁家庭局から講演が行なわれましたし、民法766条の問題などを協議した分科会には、東京家裁や横浜家裁から現職の裁判官も参加し、児童相談所関係者に交じって、意見を述べるようになりました。
問題となる虐待の種別も、性的虐待や心理的虐待など、司法の場での主張、立証が困難だったり、方針の建てにくい、難しいケースの相談が多くなりました。
まさにこれから、という分野ですが、弁護士としては、関係機関の一員としての動きということから、通常業務とは異なる手間もかかる、どちらかというと地味な仕事になるのかもしれません。
それでも、ケース担当可能な会員をFAXで募るのに対して、次々と担当可能という返事が返ってくるとき、こうした分野で骨身を惜しまず足を運ぶ仲間が多くいることを実感する、事務局として嬉しい一瞬です。
2004年には、福岡で日本子どもの虐待防止研究会第10回大会が開催される予定で、準備も進んでいます。弁護団では、1ヵ月に1度の事例検討会(勉強会)を軸に活動を続けていますので、興味のある方、ぜひ弁護団に御参加ください。
動き出した「福岡県弁護士会紛争解決センター」
月報記事
芦塚増美
平成14年12月20日に福岡県弁護士会紛争解決センターが発足しましたが、私が平成14年(福仲)第1号仲裁申立事件の仲裁人となりました。平成15年1月16日に第1回仲裁期日が開かれました。
さて本稿では紛争解決センター立ち上げに至る経緯を報告します。
私は犯罪被害者支援に関する委員会に所属しており、紛争解決センターの立ち上げにも末端ではありますがご助力させていただきました。昨年5月17日には、岡山弁護士会の岡山仲裁センターを見学させていただき岡山弁護士会の先生方からのご意見を拝聴いたしました。岡山では建築紛争等における仲裁が多いとのことでした。岡山では犯罪被害者と加害者との対話に臨床心理士が専門家として仲裁に参加している事例も報告されました。
昨年6月5日には、犯罪被害者支援に関する委員会とADR委員会の合同委員会が開催され紛争解決センターの立ち上げについて協議しました。
昨年7月15日には裁判外紛争解決についての専門家であります九州大学のレビン小林久子先生をお迎えしての講演会が開催され私も参加しました。先生のお講演では、海外の仲裁の事例が報告されています。また、先生の講演で日本では当事者に裁判官選択の自由がないとのお話が印象に残りました。民事裁判の第1回期日で初めて裁判官と会いますが、その裁判官を選択できる自由は当事者にはないです。海外では、紛争解決の担当者と当事者に選択できる場合もあるとのお話でした。
昨年11月7日に会長から仲裁人候補者が委嘱されましたが、私も含まれていました。仲裁人候補者の中から、事件ごとに仲裁人が選任されます。
昨年11月13日には名古屋弁護士会の渡邉一平先生を講師としてお招きしての研修会が開催され私も参加しました。名古屋では刑事手続での利用が多いとのことでした。
昨年12月12日には、実務面からの研修会が開催されています。
そして、昨年12月20日から正式に福岡県弁護士会紛争解決センターが開催されました。最初の事件である平成14年(福仲)第1号事件は、昨年12月24日に申し立てられています。
さて、最初の事件の仲裁人となったわけですが、仲裁人とての感想を述べます。
- 仲裁といっても法律上の「仲裁」ではなく、あくまで和解契約を前提として手続を始めるのが前提です。
- 仲裁人といっても弁護士ですので様々な配慮が必要です。当事者が入室する場合にも仲裁人が座っているより立って迎えるほうが印象がいいかもしれません。また、事務手続でも控室に仲裁人から足を運び説明するほうが妥当でしょう。「少しの親切」で、当事者が当紛争解決センターに与える印象が違います。
- 仲裁申立には、申\立手数料1万円が必要です。裁判所の調停において印紙額が1万円を超える場合には、仲裁が好ましいかもしれません。しかし仲裁から民事裁判へ移行した場合、印紙代の控除はないです。
- 仲裁が成立した場合に成立手数料を申立人と相手方の双方が支払います。解決額が100万円ですと申\立人が4万円、相手方が4万円の合計8万円を支払います。この相手方負担というのが、あまり、知られていない様子です。裁判所の調停とは異なります。
- 仲裁申立には時効中断効がないです。時効完成直前には仲裁は適さないです。
- 仲裁において、合意が成立した場合、和解契約書を作成しますが債務名義とはなりません。そこで、仲裁においては、現実の金銭受取後に和解契約書を作成することが好ましいと思います。
ともあれ、形式にこだわらない仲裁は、これから広く浸透していくことと思います。
建築紛争では、現地視察などが円滑に行われると予想されています。仲裁人と専門委員(建築士等)、そして当事者の都合で、土曜にも現場視察が可能\となり早期の紛争解決が期待されています。
刑事手続においても、刑事弁護人からの仲裁申立も予\想されます。刑事弁護人が被害者と示談をする際に、示談が進行しない場合には、仲裁申立もひとつの選択として考慮することも考えられます。他方、被害者側の場合、被害者側から仲裁を申\し立て示談を円滑に行う場合もあると思います。被害者から相談を受けた弁護士が自分で依頼を受けない場合、仲裁手続を被害者に知らせることも解決手段です。
ともあれ、裁判所の調停と弁護士会の仲裁との違いをよく認識しておくと、円満な紛争解決が期待できると思います。今後、岡山と名古屋の双方の仲裁手続を参考に、当会独自の仲裁手続が発展していくように努力します。
「精神保健欧州視察団」同行記
月報記事
副会長 市丸信敏
1 なぜ今、精神保健の旅か?
前年秋の臨時国会で衆議院を通過して、目下の通常国会で参議院に付議されている「精神障害者医療観察法案」が、もはや時間の問題で成立しそうな情勢にある。この法案は、当会の昨年来の常議員会決議はじめ、各方面から重々指摘されてきているように、「再犯のおそれ」という極めて曖昧で判断が困難な要件で、事実上、触法精神障害者に対する拘禁を半永久的に容認してしまいかねない制度内容となっており(衆議院で通過した修正案であっても実質は異ならない)、人権保障の見地からは到底看過しがたい問題性をはらんでいる。にも関わらず、一般市民のみならず、実は弁護士の関心も薄く、却って「池田小事件」などを引き合いに世上の不安感が煽られるようにして、法案はついにここまで来きてしまった。
かかる状況下、当会の精神保健委員会(池永満委員長)では、わが国における精神障害者処遇制度のモデルとなったと言われているイギリス、そして、今、最も進んだ精神医療への取組を実践していると伝えられるオランダを緊急視察して、この法案の問題性を再検証するとともに、今後のわが国における触法精神障害者の処遇のあり方、ひいては、精神障害者に対する医療や社会的ケアのあり方について学ぶため、このほど「精神保健欧州視察」(一月四日〜一三日)を企画・敢行したものである。
(*私は、今年度の精神保健委員会の担当副会長という立場から視察団に同行させて頂いたが、正直に告白すると、本来この分野に関してはずぶの素人であり、肝心の視察内容については報告の責を果たす任に無い。視察団ではおって報告書が作成される予定であり、また、当会の精神保健当番弁護士制度一〇周年記念集会(三月一六日)での報告もなされる予\定であるので、私からは、取り急ぎ、視察の概要と簡単な感想を述べさせて頂くに留めることをお許し頂きたい。)
なお、池永会員は、今から六、七年ほど前に、事務所を他のメンバーに委ねて、二年間の英国(若干の期間はオランダ)留学を敢行するという離れ業を行い周囲を驚かせたが、今回は、まさにそのとき築かれたであろう人脈を活かして、超一流の報告者や視察内容等を取り揃えて頂いた。そればかりか、旅行中はツアコンよろしく、視察団一同の世話を終始一手に引き受けて頂き、まことに恐縮の限りであった。視察団一同に成り代わって、厚く感謝の意を表させて頂きたい。
2 視察の概要
視察団は、団長である池永満会員と奥様、当会から梶原恒夫会員と奥様、久保井摂会員、私(長男帯同)、さらに熊本から吉井秀広弁護士(熊本における弁護士としての精神保健活動の中心メンバー)、東京から池原毅和弁護士(全国精神障害者家族会連合会顧問。平成13年9月の当会の精神保健シンポジウムのパネラー)にも加わって頂き、更に当会から呼びかけて参加をお願いした、大学講師の藤井千枝子さん、福岡や東京のNPO関係(薬剤師、看護婦、ソーシャルワーカー等)である猿渡桂一郎さん、土屋眞知子さん、平田孝さん、吉原幸子さん、加々見陽子さんらにも加わって頂き、合計一五名での編成であった。かように法律家と精神医療の現場での専門家からなる視察団であった故か、次に報告する各視察先でも、きわめて友好的ながらも真摯に、そして高度で専門的な内容のレクチャー及び質疑がなされた。
◆イギリス
〔1日目〕午前:ロンドンの中心部に位置するソーホー地区(若者の歓楽街)にある精神保健デイケア施設を訪問。警察段階における精神障害者の迅速な振り分けを行っているという精神看護婦はじめ、触法精神障害者に対する警察、裁判、矯正の各段階の取組状況に関する三件のレクチャー。午後:チャリングクロス警察署を訪問。警察における精神医療看護施設や取組等、三件のレクチャーと留置施設の視察。
〔2日目〕午前・午後:ロンドン市内の施設を借り、一日がかりで、イギリスの精神保健法(八三年法)の改正に関する専門家チーム委員長であるリチャードソン教授、欧州人権裁判所の活動に関わっている医事法専門家であるサラルド教授、内務省精神衛生課係官(国側の言い分)、民間支援団体で働く弁護士(ソ\リシター)などから、イギリスにおける触法精神障害者の処遇や改正法案を巡る論議の状況など、四件のレクチャー。
〔3日目〕午前:ロンドン大学セントジョージ医学部に付属する触法精神障害者に対する中間的強制処遇施設の視察。その後、同医学部を訪問して、精神科医で法律家のイーストマン教授(全国精神医学会の法律関係の委員長)からイギリスの精神医療の歴史と問題状況等のレクチャー。
◆オランダ
〔4日目〕午後:アムステルダム大学付属病院を訪問。パンドラ基金関係者から、精神障害者に対する正しいイメージ形成のための広報活動への取組状況や、WHO「患者の権利促進宣言」(九四年)の起草者の一人であり医事法の専門家である同大学のヘルベス教授から、精神障害者にとっても患者の権利が重要であることなど、三件のレクチャー。
〔5日目〕午前:ユトレヒト市を訪問。パンドラ基金の従事者(元患者ら)から、オランダにおける精神医療の向上のための諸制度や支援団体の活動状況などのレクチャー。午後:同市内にあるオランダ最古の精神病院を訪問。ユトレヒト大学の教授のレクチャーの他、患者評議会代表(入院患者)のレクチャーも受ける。その後、病院内を視察。
3 最良の社会防衛は最善の治療にあり 〜視察雑感〜
我が国では、厳重な精神鑑定を経て、刑事手続からの離脱ないし不処罰が行われる。ところが、イギリスでは、精神看護婦(特別資格の看護婦)のアセスメントのみで、いち早く、警察段階の刑事手続から切り離しての処遇を行ったり、精神障害の故に裁判過程で公訴を取り消して入院させる場合でも、入院先(原則として本人の地元)等の処遇案を裁判官に報告した上でその決定を求める、また、刑務所内に専門的治療チームと精神障害者の区画を設けて治療に当たる、あるいは、触法精神障害者専門の多少緩やかな強制入院施設を設けてそこに入院させて処遇する(この間は刑期に参入される)、また、社会内における強制処遇(通院による)をも導入しようとしている等々、医療に重点を置いた処遇が試みられていることが印象的であった。まさに、最良の社会防衛は、最善の治療にこそある、とでもいうべき発想が根底にあるように思われた。それにしても、最後に聞いたイーストマン教授の「危険の評価は全く精度がなく、大変難しい。」「マスコミや政治的圧力によって、医療側が護身的になり、必要以上に拘束を受ける者が増えてしまう。」という言葉は、まるで我が国の現法案を初めとする問題状況をズバリ指摘されたかのような錯覚を覚えた。
オランダでも、患者を対等に位置づけて処遇する理念が更に徹底しており、極めて感銘深かった。各病院には、法律に基づいて苦情委員会が設置され、他方、全ての入院患者をPA(PATIENT'S ADVOCATE患者の弁護人。もと患者が多くを占めるボランティア組織(パンドラ基金)がこれを担っている。)が助言・援助する制度が確立している。さらには、病院内には患者評議会という患者組織が置かれ、毎週ミーティングを開き、病院側と協議し、マスコミ取材さえも受けるという。視察した病院では職員の制服が廃止されていたが、制服は患者の差別につながるからとの理由であった。そして、触法精神障害者の処遇については、刑務所でもあり病院でもある特別の施設を設けて、そこで治療が行なわれている旨であった。
我が国でも、一度法案が通ってしまったら、弁護士の役目はそれで終わりでは決してない。むしろ、新しい法制度の下では、弁護士は、「国選付添人」として触法精神障害者の処遇問題に関与せざるを得ないことになる。当会が奮闘してここ一〇年来取り組んできている精神保健当番弁護士活動を、さらに全国に展開・充実させてゆきつつ、今後もねばり強い持続した取組みが益々重要になるであろう。
4 旅情
近年、競争原理、市場原理主義、自己責任主義という言葉に完全に覆い包まれてしまった我が国にあって、もっぱらアメリカとせいぜい中国位にしか関心が向かず、何かに付け、アメリカンスタンダードこそ世界標準であるかのごとき感覚に陥ってしまっている自分自身にとって、あくまでも福祉を重視しつつ調和ある発展を目指しているヨーロッパの、そしてEUとしての大統合への歩みにともなう宿題(欧州人権条約に基づく諸指令等)を自他を高める契機にして努力している姿を、精神保健というテーマから垣間見ることができたことは有意義であった。
厳冬のヨーロッパであり、真昼のお天道様でも30度くらい?にしか上がらず、日の暮れも早い。
前評判通りに?ロンドンでは、物価は高く、食事もお世辞にも旨いとは言えない。パブの生ぬるいビールも私にはいまいちに感じた。たまたま何年かぶりの積雪ということで、土地の人でも滅多に見られない美しい雪景色のロンドンを愛でることができたことをラッキーと思っておこう。
オランダでは、土地の人が凍り付いた川面でスケートを楽しんでいた。夜の外歩きは耳が痛くなり、持参した毛糸の帽子が威力を発揮した。しかし、さすがはハイネケンの地元。レストランで「ビール」と注文すれば、黙ってハイネケンの生ビールがジョッキで出てくる。定番のインドシナ料理や、中華料理、イタリアン等ともども、堪能させて頂いた。オランダ、イズ、デリシャスであった。
オランダは、かねて、安楽死やダッチカウント(割り勘)、フリーセックス、そして最近ではワークシェアリングでの「オランダモデル」の成功、また先般の日弁連司法シンポでアムステルダム高裁長官から伺った弁護士任官の充実ぶり等々、個別的、断片的にはその合理的国民性を十分に伺い知っていた積もりであった。が、今般、現地に赴いてみると、確かに質素で寛容の国民性、省エネ、省資源の理念も国民に行き渡っており、現にアムステルダムの都心部でも、張り巡らされた自転車専用道や自転車レーンを人々が寒風を物ともせず自転車でガンガンと走り抜けてゆく(従って、歩道では日本のように後ろ(自転車)を気にせず安心して歩ける)。街角の分別収集ゴミ箱も充実していた。学校では、普通に二、三カ国語の外国語を教えるらしく、現に視察で接した人たちは、公用語のオランダ語をさておき、英語とドイツ語のどちらでレクチャーしたらよいか、と視察団側に尋ねてくるほどであった。これらの諸条件の故か、日本のある調査機関によれば、オランダは「潜在成長力」で堂々の世界第三位にランキングされている(日本は残念ながら第一七位程度)。オランダに学ぶべき点は、まだまだ沢山ありそうに感じた。
かくして、次は是非、花の季節の欧州を再訪してみたいと想いつつ、無事、岐路についた。