福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2002年10月号 月報
福岡県弁護士会紛争解決センター設立へ
月報記事
石橋英之
平成一四年八月二八日の常議員会で福岡県弁護士会紛争解決センター規則等が承認されました。
これに基づき、福岡県弁護士会紛争解決センター運営委員会(以下、運営委員会といいます。)が設立され、運営委員会による仲裁人候補者名簿の作成等を経て、本年12月初旬には、福岡部会、北九州部会、久留米部会、飯塚部会の各法律相談センターに「福岡県弁護士会紛争解決センター」(以下、紛争解決センターといいます。)を開設して運営を開始したいと考えております。
制度の詳細や手続等については、別途、手引きを作成のうえ、会員各位に配付する予定としておりますが、以下、簡単に制度の概要等をご説明致します。
1 制度の意義
当会が福岡県下一二ヶ所で開設している法律相談センターの相談業務と紛争解決センターを連携することにより、「相談から解決まで」をモットーに市民へのより充実したリーガルサービスが提供できるようにしたいと考えております。
また、当会では、簡易裁判所が廃止された地域等にも法律相談センターが開設されておりますので、当該地域に紛争解決センターを開設することにより、簡易裁判所に替わる紛争解決機関としての役割を果たせればと考えております。
2 解決の方法
紛争解決センターが行うのは、紛争解決へ向けての和解のあっせんと、当事者が仲裁合意をした場合に行う仲裁判断です。
手続は、和解あっせん手続として開始され(原則として3回の期日を予定しております。)、和解が成立すれば和解契約書が作成されます。
但し、和解契約書自体は債務名義となりませんので、債務名義が必要な場合は、形式的に仲裁判断書を作成することもできるようにしております。
和解あっせん手続として開始された後、当事者が和解ではなく仲裁による解決を希望した場合には、仲裁手続に移行し、仲裁人による仲裁判断がなされることとなります。
また、仲裁手続に移行した後も、和解が可能であると仲裁人が判断した場合には、和解を勧試することができるようになっております。
なお、仲裁判断書は債務名義となりますが、強制執行を行うには、別途、執行判決を得る必要がありますので、この点ご留意頂きますようお願い致します。
3 申立の対象となる事件
事案の種類や紛争の価格の多寡等に関係なく、原則として、どのような事件でも受け付けることとしております。
但し、仲裁判断によって解決することができない事件がありますので(例、離婚事件、認知事件、境界確定事件等)、その場合は、和解あっせん手続のみを行うことはできますが、仲裁手続への手続の移行はできませんので、ご注意下さい。
これまで他会の仲裁センターの視察等を行ってきましたが、法律的な構成が難しく訴状を作成するのが難しいと思われるような事件や、立証が難しいと思われるような事件について、仲裁センターを利用して解決することができたとの意見が多数ありました。
また、名古屋では、少年らによる集団暴行事件の賠償問題を仲裁センターで解決することができたとのことですので、刑事事件の被害者と加害者の示談交渉の場としても活用できるのではないかと考えております。
更に、後に述べますように、建築士等の専門職の方々に専門委員として協力して頂く予定にしておりますので、専門的な知識を要する紛争についても対応できるのではないかと考えております。
4 費用
申立ての際に、申\立人から申立手数料として一万円を納付してもらいます。
期日手数料については、他の仲裁センターでは当事者双方から徴収するところもありますが、期日手数料の負担を理由に相手方が期日に出席しないという事態が生じないよう、期日手数料は徴収しないことと致しました。
最終的に和解が成立するか、仲裁判断がなされた場合には、成立手数料として、原則として、解決額に応じて計算した成功手数料(例、300万円の場合の成立手数料は18万円となります。)を紛争当事者双方に半額ずつ納付してもらうことにしております。
なお、和解あっせんが不調に終わった場合には、原則として、申立手数料以外の費用はかかりません。
5 仲裁人・専門員
紛争解決センターの和解あっせん及び仲裁を担当する仲裁人は、原則として、弁護士経験5年以上の弁護士の中から選任された仲裁人候補者の中から、紛争解決センターが選任することとしております。但し、当事者が合意すれば、当事者が選任した仲裁人が手続を主宰することとなります。
仲裁人の公正さの確保等のため、当事者と利害関係がある場合の解任の手続や守秘義務の規定等を置いております。
専門的知識を要する事件については、仲裁人だけで対応することは困難であろうと思われますので、そのような事案に対応するため、仲裁人を補佐する専門委員制度を設けております。
他会の仲裁センターでは、税理士、建築士、土地家屋調査士等の専門職の方々の協力を得て、的確な解決が図れているとのことですし、名古屋では、カウンセラーや医師にも専門委員として協力してもらっているとのことでした。
専門委員として様々な専門職の方々に協力して頂けることが、当紛争解決センターの成功への1つの課題であると考えておりますし、各種専門職の方々のご協力が得られれば、いわゆるワンストップ型のリーガルサービスの提供が可能となるのではないかと考えております。
6 その他
現行の法制度では、紛争解決センターへの申立は消滅時効の中断事由とはなりませんので、消滅時効が迫っているような事案については、何らかの時効中断の手続をとることが別途必要になりますので、ご注意下さい。
7 最後に。会員各位へのお願い
平成一三年度版の仲裁統計年報によれば、平成一三年度の全国の仲裁センターへの申立件数は九三〇件、解決に至った件数は三六九件(旧受事件・七七件、新受事件・二九二件)となっております。
しかし、司法制度改革の流れの中で、ADRが紛争解決機関として重要な役割を担わなければならないことは明らかですし、隣接他業士や各種業界団体にもADR設立の動きが具体化してきていることも事実です。
このような状況の中で、弁護士会以外で設立されるADRにおいて、不適切な解決がなされないよう監視していくことも弁護士・弁護士会の重要な役割ですが、何よりも、弁護士会が運営しているADRが、市民の紛争解決機関としての役割を十分に果たし、手軽で信頼できる機関として市民に認識されることが重要ではないかと考えております。
紛争解決センターが成功するか否かは、仲裁人候補者にいかに優秀な弁護士を揃えることができるか、また、会員の弁護士がこの制度をいかに有効に活用するかにかかっていると思います。会員各位のご協力を心よりお願い致します。