福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2002年9月号 月報

「裁判員制度」について考えるパネルディスカッション報告

月報記事

黒木聖士

さる八月五日、弁護士会館三階ホールにて、福岡県弁護士会主催の「裁判員制度パネルディスカッション」が行われました。

パネリストは、日弁連司法制度改革実現本部事務局次長四ノ宮啓弁護士、日弁連刑事弁護センター副委員長美奈川成章会員、日本裁判官ネットワーク・福岡高等裁判所駒谷孝雄判事、九州大学法学部内田博文教授、県弁刑事弁護等委員会委員古賀康紀会員、コーディネーターは、春山九州男・大谷辰雄両会員という超豪華メンバーが勢揃いしたこともあって、当会会員はもとより当番弁護士を支える会など一般市民の方々を含め五〇名を越える参加者が集まり、酷暑の中、三時間以上にもわたる活発な議論が展開されました。

ところで、今回のシンポジウムは、司法制度改革審議会の意見書を踏まえて、司法改革推進本部事務局や各検討会において進められている司法「改革」が、従来、弁護士会が求めていた本来の司法改革の姿とは違う方向へ向かっているのではないかという危惧感を抱く会員ら(司法「改革」を考える会)が提案したものであるため、検討会の議論状況を踏まえつつも、現在の司法「改革」作業の抱える根本的な問題点を再度確認し、今後、どのように司法「改革」問題を考え、取り組んでいくべきかという趣旨を持ったものでした。誤解を恐れずに言えば、「絶望的な刑事司法」が、今回の「改革」によって、より「絶望的」にならないのかということだったのです。

藤井会長による開会の挨拶の後、コーディネーターからの世界的に前例のない「裁判員制度」とは一体どのような制度なのかという問題提起からパネルディスカッションが出発しました。

四ノ宮弁護士は、司法審は当初、刑事司法への市民参加は時期尚早と考えていたが、地方公聴会において次々と陪審制導入の意見が出されたため、市民参加をを検討することとなり、審議委員間の陪審説と参審説の激しい対立の中で「裁判員制度」という折衷案が提言され、重大な刑事事件から導入する、否認・自白を問わない、裁判員が量刑まで関与する、判決も書く等の骨格を基本にした上で、「裁判員制度・刑事司法制度改革検討会」において、具体的な制度設計が議論されているとの経過報告がなされました。

これを受けて、美奈川会員より日弁連司法改革実現本部や刑事弁護センター、検討会のバックアップ会議についての報告がありました。

駒谷判事は、個人的見解との留保付きで、国家予算の一%に過ぎない「弱い司法」を強くするには国民参加は必要であるとしながらも、裁判とは簡単なものではなく、裁判員に裁判官と同じ評決権を付与した場合、会議に時間がかかり、「定員法」を改正して裁判官の大幅増を図らない限り、現在の裁判所の体制では「裁判員制度」は過重負担であるという現場からの問題点が示されました。

内田教授からは、まず議論のフィールド設定として、1.司法審の意見書の枠内で議論するのか、2.刑弁センターの提案している枠まで(少し)広げるのか、3.司法改革の根本的問題点、「そもそも論」まで枠を広げるのかという分析がなされた上で、1で議論をする場合であっても、(1)裁判員に対する適正手続保障の説明・捜査報道によって生じる裁判員の予断の排除、(2)裁判員の比率の圧倒的多数の確保、(3)新たな「準備手続」によって生じる裁判官と裁判員の情報格差への対処、(4)伝聞法則の厳格化(要約調書によって事実認定が悪化する危険性への対処)、(5)証拠能力・違法収集証拠排除法則の厳格化は、「裁判員制度」導入の最低限の条件であり、もし、かかる条件整備をせずに導入した場合には、現状よりも悪くなるのではないかとの指摘がなされました。

古賀会員は、刑事司法の改革には捜査手続の改革こそが必要であるが、「裁判員制度」によって公判手続だけを変えても、従来通り、供述調書の証拠能力が付与される以上、結局、捜査手続は何ら変わらない、そもそも司法審の「意見書」は、刑事司法改革の目的を迅速な国家刑罰権の実現と捉え、捜査を賛美しており、裁判の利用者である刑事被告人の権利保障を目的としていない、無辜の不処罰に対する反省もないなど問題点も多く、現在の刑事司法よりも悪くなる危険性があるという指摘がなされました。

各パネリストからの発言を踏まえ、コーディネーターより、「裁判員制度」で調書裁判の弊害は除去されるのかとの問題提起がなされ、四ノ宮弁護士からは、自白調書に影響を受けるのは裁判員より裁判官であり、弁護人は裁判員を直接説得できる点で有利であって、公判証言が中心となる以上、供述調書は少なくならざるを得ず、連日的開廷となる以上、証拠開示が進むであろうというメリットが提示されました。

しかし、古賀会員からは、楽観的ではないか、二三日間の代用監獄における身柄拘束・取調を前提とする限り、調書裁判の弊害の除去されないという疑問が出され、美奈川会員からも、自白調書が採用されれば調書に引きずられる危険があるため、捜査の可視化(取調状況の録音)や伝聞法則例外の廃止(弾劾証拠に限定)などが必要であって、それは刑事弁護センターとして「譲れない条件」であり、司法審の意見書が提案している「取調の書面による記録化」では不十分であるとの指摘がなされました。

その後、参加者からは、司法の民主化のためには市民参加に重要な意義があるとの会員の意見がだされる一方で、刑事司法の抜本的解決が必要ではないかとの一般市民からの意見も出されました。

以上が本パネルディスカッションの概要ですが、この企画を通じて、改めて「裁判員制度」の問題点が浮き彫りになったと思います。

私個人としては、司法の官僚化によって被告人の人権が侵害されたり、誤判が生じうるからこそ、その弊害を防止するために市民参加・司法の民主化が必要であるという視点を持たない司法審の基本的立場には重大な疑問をもっています。司法審の意見書が、被告人の人権保障、誤判防止という観点から刑事司法改革を議論していないため、刑事司法にとって最も重大な問題である捜査手続にメスを入れることができず、結局、「裁判員制度」に多くの問題点が生じているということです。司法審の意見書を踏まえつつも、必ずしもその枠内にとらわれることなく、本来あるべき刑事司法改革を常に議論していくべきことが、在野法曹としての弁護士会のあり方だと思います。官僚主導の刑事司法「改革」が、より絶望的な「改悪」にならないように、議論の動向を常に監視していかなければならないでしょう。

なお、ディスカッション終了後の利花苑での懇親会でも三〇名近い出席者が参加され、刑事司法改革について熱い議論が闘わされておりました。

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第二東京弁護士会 仲裁センター合宿参加記

月報記事

大神昌憲

1 標記の合宿が、平成14年7月13,14日の両日、箱根湯本の「ホテルおくゆもと」にて開催され、当会からは、ADR委員会に所属する筆者と永田一志委員並びに犯罪被害者支援に関する委員会に所属する北村哲委員が参加しました。

2  初日は、弁護士以外の専門家が事件解決に関与した事例が2例紹介されました。

初めは第二東京弁護士会仲裁センターの事例で、夫婦間調整の事案にカウンセラーが関与したものでした。

この事案の家族構成は、50代の夫婦に、高3の長男、高1の長女、中1の二女というもので、専業主婦である妻が娘2人を連れて別居を強行し、会社人間である夫が復縁を希望して第二東京弁護士会仲裁センターに夫婦間調整の仲裁を申\し立てたというものでした。

妻が別居を強行した背景としては、妻が子どもを細かく管理していたため、長男が妻に反抗し、家庭内暴力を振るうに至った(不登校と成績悪化も)。ところが、夫は建築関係の会社に勤務する仕事一遍道の会社人間であったため、家庭内の問題にうまく対処できず、妻の悩みにうまく対応できなかったことにあるようでした。

夫から相談を受けた申立代理人の弁護士は、夫婦間のみならず、親子間の調整も必要だと考え、カウンセラーの役割に期待して、第二東京弁護士会仲裁センターに対する仲裁申\立を選択されたとのことでした。

この仲裁は、12回もの期日を重ねた甲斐なく取り下げで終了していますが(カウンセリングは13回)、申立人に対するカウンセリングを中心に、相手方や長男に対してもカウンセリングが実施され(取り下げ後も申\立人が4回カウンセリングを受けています)、親子間の調整は無事に図られた、また夫婦間についても関係修復のきざしを得ることができたとの報告を受けました。

なお、この事案でカウンセリングを行ったカウンセラーは、FPIC(社団法人家庭問題情報センター)という元家庭裁判所調査官の方々で構成されている団体に所属している方で、FPICは福岡市内にも相談室を展開しているとのことでした。

3 次は、名古屋弁護士会仲裁センターの事例で、建築紛争の事案に1級建築士が関与したものでした。

この事案の内容は、申立人が相手方工務店に既存建物の解体工事と移転先の新居の新築工事を発注したところ、申\立人は、相手方工務店の工事着手、進行の遅れ、工事代金の先行支払い、工事出来高の説明不足等の事情により相手方工務店に不信を抱くに至り、相手方工務店も申立人からの度々の仕様変更要求、解体材の使用を理由とする請負代金減額要求等から態度を硬化させ、双方は工事中止を合意、その結果、工事代金の精算問題と相手方工務店が保管中の旧建物解体材の処理問題が生じ、申\立人個人が名古屋弁護士会仲裁センターに仲裁の申立をしたというものでした(申\立日平成13年4月13日)。

仲裁センターは、まずは弁護士の仲裁人を選任しましたが、工事出来高の調査依頼が申立内容に含まれていたため、1級建築士を仲裁人に追加選任したとのことでした。

第1回の期日は、平成13年5月16日に実施されましたが、その翌日には1級建築士の仲裁人が現地調査に赴き、調査を実施した結果、新築工事の出来高は既払代金にまでは達していないこと、既存建物の解体状況は基礎部分が残存し完了とは評価できないとの判断が下されました。

相手方工務店は、申立人に対し、不足代金381万円及び解体材処理費用50万円合計431万円の請求をしていましたが、上記見解を基に説得を受け、申\立人が相手方工務店に200万円を支払うことで解決したとのことでした(解決は平成13年6月25日に実施された第5回期日)。

1級建築士の見解によると、申立人が相手方工務店に対し金員を支払う必要はないのですが、申\立人は早期に解決して新築中の建物を完成させたいという意向が強く、代理人弁護士が就いた後もその意向は変わらなかったとのことでした。

第1回期日から1か月余り、申立日からも2か月余りで解決というスピード解決の事例紹介でした。

4 2日目は、仲裁法やADR基本法の立法作業状況についての報告、討議、並びに各地の仲裁センターの取り組みについての報告を受けました。

ADR基本法について言えば、時効中断効と執行力を付与することに賛成の議論と反対の議論がなされていました。

賛成の根拠としては、ADRで審理中に時効が完成してしまうのは不都合であること、執行力が認められないと執行力を取得するために結局裁判所等を利用せざるを得ず簡易迅速な解決とは言えないこと等が挙げられていました。

反対の根拠としては、法的効果を付与するとなるとADRへ国家が規制を施すことになり私的で自律的な紛争解決というADRの理念、特徴を害することになること、ADRでは早期に執行の問題を残さず解決することが多いので時効中断効や執行力を付与する必要に乏しく、その必要があれば裁判所を利用すればよいこと等が挙げられていました。

5 1日目、2日目を通じて、特に第二東京弁護士会の萩原、波多野、原後の各先生方(失礼ながらかなりのご年輩です)が実に活発でユニークな議論を展開されていましたが、懇親会の席上、「二弁にはブラジルの3Rならぬ3Hがいる」との発言も出、一同爆笑した次第でした。

各地の参加者からは、「あの福岡県弁護士会にまだ仲裁センターがないとは知らなかった。何故ないの?」と聞かれる始末で、お尻を叩かれて帰ってきました。

各地先達のお話は、要は、我々弁護士が利用しやすい紛争解決機関を自ら持つことのすばらしさということに尽きると思います。

当会でも、年内に紛争解決センターを立ち上げるべく、当委員会で検討中ですが、会員の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。

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『ゲートキーパー』問題に関する緊急講演会

月報記事

田村雅樹

1 去る7月29日午後6時から、福岡県弁護士会館3階ホールで「『ゲートキーパー』問題に関する緊急講演会」が開催されました。

当日は、講師として、この問題に関して、日弁連で一番詳しく、正確な情報を有しておられる「日弁連組織犯罪対策立法ワーキンググループ」事務局長吉峰康博弁護士をお招きして、質疑応答を含めて、約2時間講演していただきました。

2 ゲート・キーパー問題とは、国際組織犯罪対策としてのマネー・ロンダリング規制と密接な関連があり、従来的なマネー・ロンダリング規制のループホール(抜け穴)を塞ぐために、金融システムのゲート・キーパー(門番)ともいうべき弁護士、会計士等の専門職に対し、その顧客が「疑わしい取引」を行っていることを知ったときには報告義務を課そうとする問題です。

このような「疑わしい取引」の報告義務を弁護士に課すことは、弁護士が有する職務上の守秘義務との関係で重大な問題があり、弁護活動に深刻な影響を及ぼすものです。

3 しかし、国際的には、ゲート・キーパー問題について、無視できない動きがあります。

1999年10月にモスクワでG8各国の司法・内閣官僚が出席し、「国際組織犯罪対策G8閣僚級会合」が開かれ、ここで発表された「モスクワ・コミュニケ」では、弁護士、会計士といった国際金融システムの「門番(ゲート・キーパー)」によるマネー・ロンダリングへの種々の対処方法を検討するよう各国政府に求めています。

また、FATF(金融活動作業部会、1989年アルシュ・サミット宣言を受けて設立された政府間組織で、マネー・ロンダリングに関する包括的な検討等を行う作業部会)は、2003年6月には、これまでの40の勧告(マネー・ロンダリング対策のために法執行、刑事法制及び金融規制の各分野で各国が採るべき措置をまとめたもの)の改正案をとりまとめる予定で、その中で弁護士の「疑わしい取引」の報告義務についても結論を出す予\定です。

このような、国際的な流れをうけ、実際に各国で立法化が進んでいます。イギリス、スイスでは、すでに「疑わしい取引」に関する報告義務が課されていましたが、近年では2000年7月にカナダでも弁護士に「マネー・ロンダリングの疑いのある取引」に関する報告義務を課す内容の立法が成立し(ただし、カナダの弁護士会が憲法訴訟をして、法の執行が一時停止している)、2001年12月にはEUでも同様の取引について弁護士等の専門職に報告義務を課す内容のEU指令が採択され、今後EU各国はこれに従い立法化の義務を負います。

4 国際的に、弁護士に「疑わしい取引」についての報告義務を課す立法化が進んでいる中、日弁連は、2002年1月19日、ゲート・キーパー問題に対する意見を採択し、その中で、マネー・ロンダリング対策の必要性は認めつつも、法律で弁護士に対して疑わしい取引の報告義務を課すことに明確に反対しました。

今後は、FATFが前述した従来の40の勧告の改正のために、改正の方向を示した照会書に対する意見を8月末日締め切りで求めているほか、10月には日弁連など民間関連団体から直接意見聴取の機会を持つ予定となっています。日弁連の意見聴取は本件の帰趨を決める重要な会議となるもので、現在、この問題は、非常に緊迫した状況にあります。

5 ゲート・キーパー問題は、私選の刑事事件を受任して被疑者・被告人から弁護報酬を受け取ること、また依頼者の求めに応じて国際取引又は国際取引に関与し送金その他金銭のやりとりをすることも、そこに犯罪収益がかかわっていれば問題となりうる、という点で弁護士にとって意外に身近な問題です。

FATFは、弁護士に対して「顧客の確認」「疑わしい取引の報告」「報告したことを依頼者に内報することの禁止」を義務付けるだけでなく、処罰を科すことによって強制する立法を求めています。弁護士業務の基礎にある「依頼者からの秘密情報の取得とその共有」を根底から覆し、破壊し、弁護士業務が成立しないことになる極めて危険な法制が着々と準備されている状況です。

われわれ弁護士にとって、身近であり、かつ業務の根幹を揺るがしかねない重大な問題をはらむゲート・キーパー問題について、今回の講演会を契機に、福岡県弁護士会においても、各会員がしっかりとした認識を持ち,十分な議論をする必要があります。

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ADRの可能性について  〜レビン小林久子氏をお招きして〜

月報記事

石橋英之

さる7月15日、福岡県弁護士会館にレビン小林久子氏をお招きし、ADRについての講演を行って頂きました。

レビン氏は、群馬県のご出身で、ニューヨーク大学院、ロングアイランド大学院をご卒業後、ニューヨーク州立ブルックリン調停センターにおいてボランティアとして調停活動に携わられた後、九州大学大学院法学研究院助教授の職に就いておられます。また、全国各地の弁護士会が設立しております仲裁センターの設立や運営等に重要な役割を果たしてこられ、特に岡山県弁護士会が行っている同席調停の指導者としても著名な方です。

当日は、台風の影響があったにもかかわらず、約40名の会員の方々に参加して頂いたうえ、講演終了後の熱心な質疑応答で大幅に終了時間が遅れるなど、司法改革の一つの柱とされているADRに対する会員の関心の高さが窺われました。

レビン氏の講演の内容を正確に紹介することは、筆者の能力を超えておりますので、その概要をご報告させて頂きます。

1 アメリカの紛争観

1920年代、紛争とは何かという問題提起に対し、ホールディングが、紛争や当事者の定義付けを行い、その後、フォン・ノイマンやジョン・ナッシュという経済学者らによって「ゲーム理論」(人は、ミニマムな出費によってマキシマムな結果を得ようとする)が提唱された。その後、カール・リーインやモートン・ドイシェという社会心理学者らによってフレイミング効果という考え方が提唱された。それは、紛争の過程においては、競争的部分だけではなく、協調的部分も存在するのであるから、紛争当事者が、紛争の最初に遡って経過を辿りながら、主体的に話し合いを行うことによって紛争解決の方法を見いだしていくというものであり、現在のアメリカの調停の理論的基礎となっている。

2 アメリカにおける裁判外紛争解決処理方法(ADR)の種類

アメリカにおけるADRとしては、仲裁、略式陪審審理(サマリー・ジューリー・トライアル)、ミニ・トライアル、オンブズマン、ファクト・ファインディング、早期中立評価、調停、交渉等がある。

当事者に対する拘束力については、仲裁が最も強く、以下、右に記載した順に拘束力が弱くなる。当事者の手続に対するコントロールについては、交渉が最も強く、以下、右に記載した順序とは逆に、仲裁が最も弱くなっている。ADRは協議の裁判に取って替わるものとしてではなく、紛争に応じた解決策としてとらえられている。

3 アメリカの調停

アメリカの調停センターが行っている調停は、ウイン−ウイン・リゾルーションという呼び方に具現されるように、紛争当事者が双方とも満足するような解決策を得ることを目的としている。

調停委員は、28時間の講義を受けたのちシニアの調停委員の下で10時間の訓練を受け、ソロでの実地試験をパスした者のみが資格を取得できる。

調停センターが行う調停はボランティアであり、調停委員の資格を取得した後も、年間最低6時間の講義と、調停の視察を受けなければならない。

調停の目的は、紛争を解決することではなく、当事者の紛争解決へ向けての話し合いによる関係修復が目的であり、紛争解決に向けたプロセスが重要である。そのため、同席調停が基本であり(刑事事件の加害者と被害者についても同席調停が行われているとのことである)、調停委員が当事者から個別に事情を聴くことがあるとしても極めて短時間である。調停委員は、当事者の話し合いがうまくいくようにコントロールするのであって、自らの意見を当事者に押しつけたりするようなことは絶対にない。

調停では、当事者が本音で話し合えるよう、調停の中で話し合われたことについては、調停委員に守秘義務が課されている。従って、たとえ調停委員が法廷に証人として呼ばれたとしても、調停委員は調停の内容について証言を拒否することができるし、証言することもない。また、裁判所から調停センターに送られてきたケースにおいても、調停の結果(成立したか否か)のみを報告すれば足り、調停の経過等についての報告義務は課せられていない。

他方、調停の結果合意が成立したとしても、あくまでも、私的な合意であり、日本の調停調書のような法的な執行力が付与されることはない。

4 まとめ

レビン氏の講演は、この他にもインターネット上の紛争解決機関である「クリックンセトル」や「オンライン紛争解決手続き・ODR」等多岐にわたっておりましたが、紙面の関係上割愛させて頂きます(アメリカ法はもちろんのこと、コンピューターも横文字も苦手な私にとっては、講演の内容を正確にお伝えできないというのが本音です。申し訳ありません。)

レビン氏の話を聞いて、アメリカの調停制度と日本の調停制度とは全く別のものであると判りましたし、紛争解決機関のあり方についても大変勉強になりました。

これまで弁護士として紛争解決の仕事に携わってきましたが、依頼者の紛争解決にあたっては、相手方と交渉を行い、交渉がまとまらなければ調停や訴訟で解決目指すという方法をとってきましたし、その結果、当事者間の関係が悪化するとしても、それは仕方のないことであると思っておりました。

ただ、当事者間の紛争解決といっても、紛争の解決を最終目的とするのではなく、紛争解決へ向けて、当事者が話し合いを行い、お互いの関係の修復を目指すというのも、極めて重要な紛争解決方法であると思いました。

紛争後も接触を余儀なくされる、家族や隣人あるいは職場での紛争においては、白黒つけることを目的とした解決機関ではなく、アメリカの調停制度のような関係修復を目的とした解決機関を利用できれば、結果的に妥当な解決に向かうのではないかと思いました。

現在、当委員会では、紛争解決センターの設立に向けて、岡山県弁護士会が実施しております同席調停を行うか否か等様々な検討を行っておりますが、単に裁判所の調停の機能不全を補完するものとしてではなく、独自の存在意義のあるものとして設立できればとの思いを新たに致しました。

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