福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2002年7月号 月報
岡山仲裁センター訪問報告
月報記事
1 はじめに
平成13年12月18日、PT清水隆人委員長、塩田裕美子委員、そして私の3名で岡山仲裁センター(岡山弁護士会館内)を訪問。仲裁センター運営委員の方々から説明を受けた。以下はその概略であるが、統計的数字については、私が、仲裁統計年報(全国版)によって若干の補充をした部分があり、また、仲裁センター開設上の問題点については、岡山仲裁センター運営委員の意見を基本としつつ、私が福岡県弁護士会に引き直して述べた部分もある。
2 岡山仲裁センター実績
(1) 統計
平成 8年度 | 平成9年度 | 平成10年度 | 平成11年度 | 平成12年度 | |
申立件数 | 15 | 92 | 80 | 153 | 190 |
応諾件数 | 8 | 71 | 63 | 102 | 125 |
応諾率(%) | 53.3 | 77.2 | 80.8 | 71.3 | 75.8 |
受理事件対比解決率(%) | 52.3 | 44.6 | 52.9 | 42.1 | |
応諾事件対比解決率(%) | 47.9 | 39.7 | 61.8 | 44.8 |
- 受理事件対比解決率 (当該年度に受理したものの内、当該年度内に終結且つ成立したもの)
- 応諾事件対比解決率 (当該年度に受理し且つ応諾があったものの内、当該年度内に終結且つ成立したもの)
(2) 紛争類型
交通事故、離婚、請負契約をめぐる紛争等が多い。(平成12年度仲裁統計年報(全国版)によると、岡山仲裁センターにおける交通事故事案の割合は受理事件中20%、解決事件中28.3%) [括弧内塩川]
(3) その他(平成12年度仲裁統計年報(全国版)による)
平成13年3月時で、全国に仲裁センター(示談あつせんセンター等を含む)は13箇所。二弁、大阪、新潟、東弁、広島、横浜、一弁、埼玉、岡山、名古屋、岡崎支部、岐阜、京都。[この部分塩川]
3 弁護士会のADRについて
(1) 「相談から解決まで」
法律相談を担当した弁護士が、その場で申立用紙に記入して申\立手続をできるようにしているので(仲裁センターマニュアル、仲裁ハンドブック等を配付)、市民の利便性が大きい。
(2) 期日
原則として、申立から2週間以内に第1回期日を入れ、以後、2週間に1回の割合で期日を設けるよう努力。理想型としては3回で具体的解決案に到達するのが目標。
(3) 職能団体の協力
仲裁に当たるのは弁護士であるが、より専門性を打ち出すため、不動産鑑定士、建築士、税理士、カウンセラー(命の電話スーパーバイザー、大学教授等)等の職能団体との間で協力体制を構\築している(協力の要否は仲裁人弁護士が判断)。なお、カウンセラーの協力は、親子関係事件、遺産分割事件等でも依頼する。
(4) 当事者の自主的解決
基本的に「説得」(解決の押し付け)をせず、当事者の自主的解決を目指している。
(5) 取扱事件
取扱事件の種類、及び、紛争の価額には制限なし。
(6) 法律相談前置主義
仲裁申立を行う前に、必ず弁護士による法律相談を受ける必要がある。これによって、仲裁センター取扱相当事案であるかどうか選別する。
(7) 夜間、土日祝日に期日を設けることもある(各弁護士の事務所にて)。
(8) 期日は基本的に当事者同席。但し、事案にってはタイミングを見計らうし、支払うべき金額をいくらにするかというレベルになったら個別に聞くこともある。
(9) 履行確保
解決に際し、履行の問題を残さないようにする。履行確保のため、即決和解を利用することもあるし、債務名義を取るため合意ができた内容を仲裁判断という形式にすることもある。
(10) 配点
配点は、運営委員の中から3人体制(1月交代)で配点を担当する。なお、仲裁センター発足当時、仲裁センター運営委員会は法律相談センター運営委員会の一部会だったが、現在は別個の組織となっている(但し、運営委員中2名は法律相談センター運営委員会委員が兼任)。なお、仲裁人は、法曹経験5年以上の者を宛てている。福岡県弁護士会の場合、天神センター職員が配点することも考えてよかろう[この行塩川]。
(11) 収支
開設1年目から黒字だった。
- 申立手数料 10,000円(申立人負担)
- 期日手数料 1期日毎に双方から5,000円
- 成立手数料 当事者双方で負担(原則折半)
100万円以下の場合 8%
100万円を超え300万円以下の場合 5%+3万円
300万円を超え3000万円以下の場合 1%+15万円
3000万円を超える場合 0.5%+30万円
- 仲裁人日当
1期日2万円(開設当初は1万円だった)
準備費用5000円
成立報酬5万円(事案により運営委員会決定で増額可)
(12) 研修会
ロールプレイング方式等を導入。九州大学講師レビン小林久子氏の協力を得ている。2002年3月8日 17:30〜20:00研修あり。
4 仲裁センター開設上の留意点(今後の参考として)
- 仲裁センター立ち上げとその後の運営を円滑にするためには、仲裁センター開設に理解とやる気のある運営委員を最低でも10人程度確保することが必要であろう。他の弁護士会の運営状況を見ても、トップダウン方式では必ずしもうまく行かないようである。実際、仲裁センターの運営の中心となる人物がいないために十分にセンターの機能\を発揮できていないところがいくつか見受けられる。
- 比較的うまくいっている仲裁センターとして岡山と岡崎支部が挙げられるようだが、両センターとも交通事故事案の占める割合が多い(平成12年度統計によると岡山で20%、岡崎支部で24%)。これは、岡山・岡崎とも、紛セ等の紛争処理機関が近くにないことが大きく影響しているものと推測される。この点、福岡では紛セは福岡市にあるし、既に、天神センターその他で交通事故相談を扱っているので、仲裁センターのニーズがどの程度あるかについては慎重な検討が必要であろう[この段落塩川]。
- 弁護士持込事件をいかにして増やすかが成功の鍵であり、そのためには、準備の段階から、例えば月報等で仲裁センターの記事を載せる等の方法で、会員の理解を得ることも必要であろう。
- 一般市民へのアピールとしては、裁判所の調停と違って 1:期日が早く入ること 2:仲裁人は法律の専門家である弁護士であること 3:場合により、鑑定士、建築士等の専門委員の協力も得られること等の利点を知らしめる。
- 裁判所との協議
- 離婚事件の調停前置主義との関係で、仲裁センターを経た場合の扱いをどうするか。
- 即決和解申立手続の定型化・簡略化・管轄等
- 関係協力団体との協議
- 会計を特別会計にすべきか