福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2002年7月号 月報
岡山仲裁センター訪問記 犯罪被害者の支援に関する委員会
月報記事
1 はじめに
5月17日岡山弁護士会に犯罪被害者支援委員会から、当地の仲裁センターを視察に行ってきました。本年度からADR委員会も正式に発足し、福岡でも仲裁センターを立ち上げようとの機運です。そこで、平成8年に全国9番目の弁護士会主宰のADRとして立ち上がり、特に犯罪被害者と加害者との間の仲裁で、成果を得ている岡山仲裁センターを当委員会でも視察に行ってきました。
既にADRプロジェクトチームが同センターに2回視察に行っていますが、今回は犯罪被害者の被害回復の方策の一つとしてのADRという視点で視察を行うことが目的です。
2 岡山県弁護士会
急な視察の申し出にも拘わらず、ご快諾いただき、吉原委員長、市丸担当副会長以下総勢7名で、会場の弁護士会館を訪れました。会館は増改築を行い間もないということで、200名は収容できるホールを備えた大変立派なものでした。岡山県弁からは、立ちあげから中心メンバーとして活躍し、現在日弁連の犯罪被害者委員会の委員長である高原先生他2名の先生方に急な申\し出にも拘わらず、お忙しい中参加していただき、当方からの質問に答えていただく形で、進行しました。
3 弁護士会のADRについて
まずは、弁護士会が行うADRについての一般的な質問にお答えいただきました。
主に立ち上げの経緯、他機関との連携、仲裁委員の確保の方策、仲裁手続の運用面など経験に則して具体的な話しを披露していただきました。
岡山仲裁センターは、全国の弁護士会の仲裁センターの中でも成功例と評価されています。成功の理由として、中弁連大会を契機に「相談から解決まで」を合言葉に、法律相談の質を高めるという視点で、一般会員の中からセンター設立の機運が盛り上がったこと、そのため、積極的にセンターを利用しようという気持ちを会員各自が持ったことが大きかったと仰っていました。解決方法も仲裁判断より和解を中心として行うこととし、資格も5年以上と若手を取り込めるようにし、仲裁委員の候補選出・配点の各段階で特に基準を設けることはしていないとのことです。仲裁の姿勢は、九州大学のレビン先生の指導・協力の下「傾聴と共感」をモットーに行っているとの事でした。
実際に仲裁委員を担当した先生からは、義務的側面がないとは言わないが、手続的制約無く紛争当事者の本当のニーズを探求すると言う意味で面白い、国選事件よりは積極的に行っているという感想も聞かれました。
他機関・他業種との連携については、建築士が積極的に関与してくれ、建築紛争など大変役に立っている一方、人材が少ない、協力的では無いといったことで、なかなか連携できていない業種もあると言うことです。相手方次第の面もあり難しい問題です。
4 犯罪被害者ADR
岡山仲裁センターの特色の一つは、犯罪被害者と加害者との仲裁を積極的に行っているところです。ただ、発足当初から目的として掲げていたわけではなく、会員からの事件の持込がきっかけです。
「傾聴と共感」をモットーに運営している機関としては、犯罪被害の場合は仲裁も被害者の心情の修復が大きな目的となり、被害者の心情に対する配慮が不可欠です。
しかし、刑事弁護人からの申立が主となることは当然予\想されるところです。実際、岡山でも犯罪被害に関する仲裁は設立以来10件程度ですが、被害者からの申立は1件のみであると報告がありました。刑事弁護の一環としてのみの仲裁では、被害感情をかえって逆なでし、2次被害を惹起するようなことにもなりかねません。
そのための方策としては、岡山仲裁センターでは犯罪被害に関する申立については、申\立段階で当事者双方に事前調査を行い、運営委員会で議論を行い、受理するかしないかを検討するとのことです。事前調査のポイントは、臨床心理士等カウンセラーの協力です。「傾聴と共感」に基づく1対1の面接は、カウンセラーの得意分野であり、特に事前準備段階では重要な役割を果たすとの見解でした。もっとも、実際に双方当事者の間で仲裁を進める役割は、経験的にも技術的にも弁護士でなければできないと仰っています。事件内容で受理しないことは無いが、事前調査の結果で、仲裁に適しない場合は受理しないこともあるとのことです。
そして、加害者に加害認識をもたせることが、犯罪被害の仲裁の場合の第一歩であり、その上で、仲裁人は、和解を成立させることを目的とするのではなく、対話をするその過程自体に意味があるのだと自覚することが大切であるとの言葉が印象的でした。
仲裁判断より和解を優先し、「傾聴と共感」に基づき仲裁を行うという基本姿勢が自然と犯罪被害の仲裁をも取り込むようになったという印象です。
5 最後に
運用面などで、ここには書ききれない多くの助言を頂き大変有益な視察でした。また、犯罪被害に関する仲裁については、多くの示唆を頂きました。
今回の視察では、岡山仲裁センターは、理念的にも運営的にも、運営委員の個性が強く現れて、それが会員の支持を受けよい方向に向かっているという印象を受けました。これから、当会でも、犯罪被害者の支援をも視野にADRを設立し、活動を定着させていくには、制度の構築と共にそれを支える理念と会員の支持が必要だということを強く認識させられました。
終了後は、桃太郎大通りの一角にある中華料理店にて懇親を深め、「福岡はすぐ、追いつき追い越しますよ」と怪気炎をあげ、実り多い視察のしめとなりました。