福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)
2002年6月号 月報
福岡刑務所に行って来ました
月報記事
あけぼのL/O 川越
『善良な市民』を自負する私がなぜ刑務所に???
答えは簡単。三月一二日の弁護士会主催の刑務所見学に無理言って参加させてもらったのです。なかなか貴重な経験をさせていただいたので、簡単に報告を。
総勢約二〇名(そのうち事務員さんは三名)が弁護士会館前より貸し切りバスに乗り込み、全員にお茶が配られいざ出発!目指すは宇美町の福岡刑務所。バスに揺られること四〇分。ようやく人里離れた山奥へと辿り着きました。
最初に通された会議室に鞄や携帯電話を置いて所内を見学。所長を先頭に炊事場(小学校の給食室みたい)、洗濯室、作業室(イメージは家庭科室と工作室か)、房(共同、単独それぞれ)、工場(広っ!)、グラウンド、講堂、医務室(手術室も完備。人工透析設備もあり)などの施設を回り、受刑者の暮らしっぷりを堪能した後にまた会議室へ。
そこで、受刑者の昼食を見学者全員で試食しました。献立は、さんまの塩焼き(一匹丸ごと!)に肉じゃが、小鉢に麦ご飯でした。お味は薄味・塩分控えめでした(濃い味好きには物足りない?)が、プラスチックの食器といい、なんとなく学食の定食みたいでした。弁護士は全体的にあまり箸が進んでいないようでしたが、悲しいかな、日頃自分が食べているものより美味しいかも、、、と思った私であります(親が読んだら間違いなく泣くな)。緻密にカロリー計算されたバランスの良い食事のおかげで、糖尿病や肥満といった現代病が治癒されていくとの話も(なんとも皮肉なお話・・・)。
印象に残ったのは、共同房でした。三畳の畳の部屋に便器(むきだしではなく、一応アクリル板でスペースを仕切られていました)・洗面台・たたまれた三人分の布団・文机・雑誌(意外にもピンク系OK!)などが所狭しと置かれ、そこはまるで小宇宙。果たしてこの空間で何を感じ、何を思うのか。う〜む・・・
率直に言うと、(所長の話も含めて)表面をさらりと見聞きした限りでは、思っていたよりきちんとした処遇でしたが、まさしく「『実態は知る人ぞ知る』なんだろうなあ。」(当事務所の女性事務員談)と思います。
罪と罰。受刑者の人権と刑事政策の調和。高齢化や不況といった社会情勢の変化に伴う待遇の見直し。な〜んて小難しい問題はさておき、単純に「悪いことはしちゃいけないのね。なんだかんだいってもシャバの空気はうまいぜ!」という感想と、刑務所の入り口にあった石碑に刻まれていた句を最後に引用して終わりにします。
ふるさとへ 更衣(ころもがえ)して 身もこころ
「お道具箱」をミラクルにするには
月報記事
久保井摂
強迫により叩く
私にとってパソコンとその周辺機器は「記憶装置」だ。何せ頭がおんぼろなので、メモしとかないと、貴重なお話も聞いた端からこぼれ落ちるままぽろぽろ失われてしまい、あとで再現しようとガンバッてみても空しいのみ。
なので、あちこちで強迫的にキーボードを叩いている(ホント、苦手な人には耐えられぬ音を立てていると思うのです。申し訳ない)。おかげさまで、速記的キーボードパンチャーとなってしまった。
コトハジメ?
いつ頃からこうなったんだろ。ん〜たぶん、我が師辻本育子に「書院ミニ」を持たされ、後に報告集を編むためパチパチと打った1994年の海外視察あたりからか。それから今日まで、記憶できない様々を記録するため、日夜キイを叩いている。
このテクがもっとも活躍したのは、ハンセン病違憲国賠訴訟でのこと。療養所に、最初はモバイルギア初代機を、次にはLet's note miniを、またTeliosをと持ち込んで(つまり次々に壊れたとです。今は判決直前に購入したLooxを使用)、原告の言葉を語るままに打ち込み、やがて咀嚼して陳述書にまとめた。
この訴訟は、色々な意味で画期的だったが、電子メールが活用された最初の集団事件のひとつだという評価もできる。とりわけ勝訴判決から控訴断念による確定までの二週間、ネット環境が果たした役割は大きかった。判決の直後、弁護団員は全国に散り、それぞれがモバイル機を手に、時々刻々と変化する情勢をにらみ(国会に待機する弁護団から「本日の仮処分」なる情勢報告メールが届き)、指示を受けて効率的に動いた。
日常における電脳
ええと、このエッセイ、どうも先駆的電脳実践者として何か書けということらしいのである。
確かに私は、比較的早い時期からパソコン利用してはいるけど、特に際だった使い方をしているわけではない。ものぐさなので、ソ\フトも適当に使うばかりで、きちんと勉強しようとか、マクロ使おうとかしてないし。だから、うちのパソはどれも本来なしうる能\力の万分の一にも満たぬ使い方しかされておらず、まこと気の毒である。「患者の権利法をつくる会」のニューズレターをつくったり、ホームページをアップしたり(それもクラリスホームページなどてふ淘汰されたソフトを使用している)、あとはほのぼのとイラストを描いたり、Gifアニメをつくってみたり。
で、例に漏れず夜中にぱちぱちとフリーセルに耽ってみたり。
ううむ、インターネット検索で情報取り込んで事件処理に利用するなんていう、当たり前のことをここに書いてみても仕方ないしなぁ。
つまりは、不器用すぎるので、このお道具箱に頼ってるってこと。
HP委員会なるもの
さて、HP委員会とやらが立ち上がり、メーリングリストも開設され、何だかお喋り倶楽部のようにざわめいている。お前も電脳に頼るひとりとして協力しなよと頭数に入れられてしまったが、難しいことを考えたり表に出たりするのは苦手なのだ(会務もさぼりっぱなしだし)。でも、弁護士会のホームページが充実して、会員のためにオイシイ情報や資料に簡単にアクセスできたり、痒いとこに手が届くようなリンク先に飛べたりするとウレシイのではある。そんなグラマラスで使いやすいホームページの完成を祈る私ではあるが、ここはひとつ、茶でも啜りつつ、みなみなさまの賑々しいやりとりを、うちのべりいちゃん(ブルーベリーiMacである)のモニター越しに見守ることとしよう。
みなさま、楽しいアイデアをよろしう。
骨髄移植コーディネイトに立ち会いませんか?
月報記事
佐藤 至
(以下は、月報平成10年3月号の記事です)
我が国において、非血縁者間の骨髄移植は、現在、既に約千四百例が骨髄バンクを通して実施されている。現在でも日に1件ずつの割合で全国各地の病院で実施されている。
骨髄移植に際して、ドナー(骨髄提供者)は全身麻酔で骨髄穿刺を受ける必要があり、このためわずかではあるが、事故あるいは数日の腰痛程度の後遺症が残る可能性がある。
またドナーの提供の自由は尊重されなければならないが、一定の時期以降に提供の意思を覆することは出来なくなる。このようなことをドナーに説明するためにコーディネイターがいるが、これらの人々から法律に詳しい人にも立ち会ってもらいたいという要望が高まった。そこで、コーディネイトに立ち会って頂ける弁護士を募集し、立会いの要領等について、2月6日午後2時からアクロス福岡において、講習を受けて頂いた訳だが、当初の予想を上回り、約20名の会員が出席された。特に北九州から数名の会員が参加されたことには、本当に感激した。
講習会は福島副会長の挨拶に始まり、月見会員の体験記で終了したが、途中、鋭い質問が相次ぎ、熱気ある講習会となった。
今後、弁護士保険に加入し、4月を目処に開始することになる予定で、いよいよ登録した会員諸兄に立ち会って頂くことになる。よろしくお願い致します。また多ければ多いほど日程調整が出来やすくなるので、未登録の会員のさらなる参加をお待ちしています。
この記事から約4年が経過しましたが、その後、次々とドナー登録及び移植がなされ、平成14年2月末現在でドナー登録約18万人、骨髄移植例約4000件を数えるまでに発展して来ました。その分、立ち会い弁護士の数も必要となって来ているのですが、残念なことにここ数年、福岡では殆ど立ち会い弁護士が増加していません。確かに立ち会っても支給されるのは実費程度であり、完全なボランティアですが、ときにはそのような活動も弁護士にとって必要なのではないでしょうか。また、この活動は、多くのボランティアにより支えられていますが、そのような方々と一緒に仕事をすることは、得難い体験です。さらに立ち会いを通して、ときには最新の医療現場の実情に触れられる場合もあります。
是非、多くの会員、特にこのようなシステムがあったことを知らない若手の会員にコーディネイトへの参加を申し込んで頂きたいと考えています。申\し込まれる会員が相当数おられるようでしたら、平成10年の発足のときと同じように講習会を開きたいと思います。数名程度でしたら、実際に行われる「コーディネイトへの立ち会い」に立ち会って頂き、要領を覚えて頂こうと考えています。
近日中に申込用紙を配布させて頂きますので、その際は、是非、多数お申\し込み頂きたくお願い致します。
民事裁判の期間を半減
月報記事
村井正昭
民訴法改正の動向
(計画審理と証拠収集)
Q 司法改革審議会の答申で、民事裁判に要する期間を半減することが提起されていますが、そのためにどのような対策がとられようとしているのですか。
A 民訴法を改正して「計画審理」を導入しようとしています。
Q 計画審理とは、どういうことですか。
A 訴訟提起後、事案の概要が明らかになった時期において、両当事者と裁判所が協議して争点整理に要する期間、証拠調に要する期間を定め、裁判の終期を明らかにすることを義務づけるということです。
そして、協議が成立した場合には、予定した審理期間の進行を変更しなければならないような、新たな主張の追加や証拠の追加が制限されることになります。
Q 事案の内容が明らかになった時期とはどういうことですか。争点整理との関係は。
A 争点整理に要する期間についても、予め決めるということですから、一つの考え方として被告の主張が具体的になった時点が考えられます。
その結果、裁判所は当事者に対し、詳しい訴状、詳しい答弁書を今以上に要求してることになるでしょう。
Q 全ての民事事件に必要でしょうか。
A 最高裁は、通常事件は、現行法で十分と考えております。計画審理の対象は、複雑事件、専門事件に限定する方針です。
Q 早い時期に計画を樹て、新たな攻撃防御方法の提出を制限する以上、早期に証拠が出尽くすことが当然に必要となると思いますが、その手当は考えられていますか。
A 日弁連はかねてから、民事裁判における証拠開示の必要性を力説し、民訴法改正の際にも具体的な提言をしています。しかし、採用されたのは当事者照会制度の新設という、極めて、不十分なものだけでした。今回も計画審理導入のためには証拠開示に関する規定の整備は不可欠という立場です
最高裁は当時も今も、証拠開示について積極的です。要するに、裁判所の仕事量が増える制度はダメだという姿勢です。
Q 訴訟予告通知制度とか独立証拠調が導入されると言われていますが、どういうことですか。
A 訴訟予告通知制度とは、例えて言えば、原告の当事者照会制度を提訴前に導入するものと言えるでしょう。訴の提起を相手に予\告し、証拠の有無等を問合せ、提出を求めるという制度が予定されています。
独立証拠調はドイツ等例があるもので、提訴前に鑑定等を行うことができます。
ここで注意しなければいけないのは、独立証拠調が導入された目的です。
ドイツでは、提訴前の和解解決を促進し、訴提起を減少させることが目的だったと 言われています。
当事者の証拠収集方法の拡大が目的ではなかったのです。
Q 今回の改正ではどうですか。
A 前述したように、最高裁は、裁判所が関与する手続の新設には、極めて消極的です。 例えば、最高裁が挙げているのは検証の代りに、執行官による現地調査を新設する。
証人尋問の代りに、両当事者立会で作成する公証人面前調書を活用する。というもので、当然のことながら、裁判所は全く関与せず、何れも、費用は当事者 負担です。鑑定についても、裁判所が行うのは、鑑定人を推薦するだけです。
最近になって、やっと、調査・送付嘱託、は裁判所が関与してもよいと言い始めた ようです。
Q そんなことならば、さっさと提訴して、求釈明や調査・送付嘱託の申立、鑑定や検証の申\立をした方が良いのではないですか。
A 問題となるのは、提訴するか否か判断に迷う事例で、どれだけ活用できるかでしょ うが、被告知者側がどれだけ協力するかということが、制度の実効性を左右するこ とになるでしょう。
(専門委員の導入について)
Q 専門的な知見を要する事件について専門委員を導入することが提案されていますが、問題はどういうことですか。
A 対象となる事件としては、知的財産関係事件、医事関係事件、建築関係事件が考え られています。 知財事件については、かねてから、調査官制度の不透明性が指摘されており、訴訟 手続の中に明確に位置づけることが必要とされており、専門委員の導入について異 論はないようです。
建築紛争については、現在専門家調停委員を採用した付調停制度が、既に実施されています。建築紛争の場合、専門家(建築設計士が主流)について互換性があ ると言われ、訴訟手続の中で活用することに異論が少ないようです。
一番問題とされているのは、医事紛争です。
医事紛争の場合、患者と医療機関との間に互換性はなく、専門委員は全て医療機関 に属しています。そのためかねてから、鑑定の偏頗性が問題になっており、裁判 官が専門家の意見に安易に盲従しかねないという危険性が指摘されています。
このようなことから、日弁連では、医事紛争への専門委員の導入について、反対の 意見を表明しています。
Q とは言っても、導入を阻止することは困難ではないでしょうか。対策は考えていないのですか
A 対策ということではないですが、仮に導入するとしても、手続の透明性、公平・中立性を確保するための提言をしています。
1つは、専門委員の採用について、当事者の「意見を聴く」ということでは不十分であり、当事者の「同意」を要件とするという提案です。
2つは、専門委員の関与を争点整理段階までに限定し、証拠調以降に関与させず、裁判所の心証形成過程から排除することです。
3つは、専門委員が関与する場面は、裁判官、両当事者の3者が同席する場合に限 定するということです。 裁判所は、全手続に関与を認め、例えば証人尋問に立ち会い、専門委員の発問を 認めるとか、鑑定についても、専門委員に質問できるようにすることを求めていま す。
これでは弁護士が危惧する、心証形成過程のブラックボックス化、闇の鑑定を阻止できません。
Q 専門委員の確保はどうなりますか、或は、専門委員導入の是非を選任の当否を巡り空転することにもなりかねませんね。
A 調停委員と同様に、あらかじめ人員を確保しておくことが考えられますが、鑑定でさえ鑑定人の確保が困難なのに、実現可能なのか疑問です。
東京、大阪から呼ぶということが考えられますが、そうなるとTV会議の利用と かいうことになるでしょうし、当事者不在のまま期日外での意見聴取ということが 横行しかねません。
Q 鑑定についても問題はありませんか。
A 鑑定人が嫌がるのが、鑑定人尋問と言われています。
そこで、鑑定人「尋問」を改め、「質問」にし、発問の順序も、裁判官が最初に発 問するという改正が提案されています。
(簡裁の事物管轄について)
Q 簡裁の事物管轄について、訴額はどうなりますか。
A 未だ、具体的な提案はされていませんが、一部では「300万円」ということが言 われています。
Q 300万円となると、地方の場合、建物明渡事件等はほとんど簡裁の管轄になりますね。
A 不動産事件は、訴額に拘らず、地裁に提訴できるため、弁護士も余り問題にしてい ませんでしたが、司法書士に簡裁の代理権が付与されましたので、その影響は無視できないと思います。
前回の改正(90万円への引き上げ)から、物価スライドさせても、120〜130万円と言われています。
Q 簡裁は、サラ金・クレジット事件の増加によって、手一杯と言われているのに、大丈夫なのでしょうか。
A 前回の改正時とそこが大きく違います。
前回の改正時は、地裁の事件数と簡裁の事件数とでは、前者が多かったのですが、 現在は逆転しています。更に少額訴訟手続が導入されていることも考えておくべ きです。少額訴訟手続は、民訴法改正のヒット商品と評価されています。
そこでは、懇切丁寧な窓口事務、期日前準備、ベテラン裁判官による審理が必要と されています。このままの状態で、訴額のみ上げられ、簡裁がパンクすれば、少額 訴訟の粗雑化は不可避です。
そのことを見込んでか、最高裁は、少額「審判」を提案しています。要するに、訴訟から非訟へという考えです。